表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/143

113 すっきりしちゃった!?ツバネの葛藤!?






 しばらく、沈黙が続いていた。


 誰もが言葉を探しているようで、けれど口を開けば何かが壊れてしまいそうで――ツバネだけが、うつむいたまま拳を握りしめていた。

 やがて、重い空気を引き裂くように、ツバネが低く息を吐く。

「……今まで黙ってて、すまん」

 擦り切れたような声だった。いつものぶっきらぼうさはなく、ただ事実だけを差し出す響き。


「神殿でな……兄者が――リ・ノートリアのクルヴが、尾行していた」

「偵察だ。俺たちの動きを、ずっと」

 一瞬、空気が凍りつく。


「ツバネ……」

 呼びかける声に、ツバネは歯を食いしばった。


「原始の淀みに襲われている間も……」

 拳が、わずかに震える。

「助けに来られたはずなんだ。なのに――」

 言葉が詰まり、吐き捨てるように、

「……くそっ!」

 その一言に、後悔も怒りも、自分への嫌悪も、すべてが滲んでいた。


 沈黙を破ったのは、リウラだった。

「ツバネ……」


 彼女は一歩、前に出る。背筋を伸ばし、胸を張る。その姿は、凛とした精霊のものだった。


「どうか……自分を責めないで」

 声は穏やかだったが、確かに震えている。

「よく、話してくださいましたわ」

 光を宿した瞳が、うっすらと潤む。


「黙っていたままでもよかった。けれど、あなたは選んだ」

 まっすぐにツバネを見る。

「それは――勇気ですわ」


 ツバネは何も言えなかった。ただ、強く握っていた拳を、ゆっくりとほどいていく。

 罪を告白した重さと、それを受け止められた温度が、その場に、静かに残っていた。


「……お互い、兄貴って重いね」

 肩をすくめて、僕は苦笑する。

「ははっ」


「笑えるかっ」

 即座に返ってきた声は、少し強くて――

「……ふふっ」


 ツバネの喉から、抑えきれなかったような笑いがこぼれた。本当に、ほんの一瞬だけ。張りつめていた空気が、ふっと緩む。胸の奥に溜まっていた重たいものが、少しだけ軽くなった気がした。

 ――少しだけ、笑えた。


「セオト」

 ツバネは一歩前に出て、深く息を吸う。その背筋は、剣を抜くときと同じくらい、まっすぐだった。

「拙者は――記録師として」

 一つ。

「メリフル村の村長として」

 二つ。

「そして、お前の友として」

 言葉を重ねるたび、決意が形を持っていく。


「たとえ兄と袂を分かつことになろうとも――」

 迷いなく僕の目をまっすぐ見た。

「拙者は、お前と共にいる。ここで誓う」


 静まり返った空間に、その言葉が深く落ちる。


「……ありがとう、ツバネ」

 胸の奥が、じんと熱くなる。


「でも……まだ、なんだ」

 小さく首を振る。

「カナエさんも、僕の兄も……“疑うことがある”だけだから」

 否定じゃない。断罪でもない。ただ、今はまだ、線を引かないという選択。


「僕は――ツバネも、みんなも、信じてる」

 視線を巡らせ、はっきりと言う。

「だから……」


 その先の言葉は、まだ言葉にならない。けれど、誰もが分かっていた。これは迷いじゃない。壊さないための、強さだということを。



「すっきりしたかい、ツバネ?」

 ミラがにこりと笑って言った。いつもの調子で、けれど目はきちんとツバネを見ている。

「顔つきが、ずいぶん良くなったよ。溜めこむのは、よくなかったからね」


「師匠……言い方!」

 セリアンがすかさず突っ込む。


「なんだい?」

 ミラはきょとんと首を傾げる。

「何か、いけなかった?」


「いや、そうじゃなくて……!」

 言葉に詰まるセリアンをよそに、場の空気は少しだけ緩んでいた。


 ツバネは苦笑して、肩をすくめた。

「……否定はできん。胸のつかえは、確かに下りた」


「それなら、上出来だ」

 ミラは満足そうにうなずいた。手を叩いて、話題を切り替える。


「ひとまずさ。セリアンの劇場デビューを、みんなで成功させようじゃないか」

「……あっ!」

「そうだった、それ!」


 重たい空気が、ぱっと弾ける。


「まずはそれだ!」

 セリアンは勢いよく立ち上がった。

「クロム・リーフと会わなくちゃいけないんだ!」


 目的が言葉になると、不思議と足元が定まる。それぞれが抱えている問題は、何一つ解決していない。けれど――今は前を向ける。


 こうして一行は、次の舞台へと踏み出した。



 クロム・リーフが劇場の支配人になったのは、偶然ではない。たとえファントムとなってもなお、彼は――筋金入りの、クセの強い芸術家だった。


 当時の劇場は、正直に言って瀕死だった。古びた建物。まばらな客席。演目は散漫で、魔導設備は時代遅れ。維持するだけで精一杯で、「劇場」という名前だけが、かろうじて残っている場所だった。

 そこへ、汐真に連れられて現れたのが、クロム・リーフだ。


 彼は最初、何も言わなかった。客席の最後列に腰を下ろし、背もたれに身を預け、ただ――舞台を見つめていた。


 役者の声。照明の揺れ。音のズレ。そのすべてを、逃がさない目で。幕が下り、拍手もまばらに終わった、そのときだった。


「……構造が甘い」


 低く、はっきりとした声。それが、クロム・リーフが初めて口にした言葉だった。周囲が振り返るのも構わず、彼は続ける。


「もっと耽美であるべきだ」

 指先が、空中でゆっくりと弧を描く。

「物語とはね、嵐の中でも帆を畳まない小舟の中に置かれた――ラブレターなんだよ」


 一瞬の沈黙。


「……足りない」

 吐き捨てるように、しかしどこか楽しげに。

「足りない、足りない!」


 役者の動線。照明の当て方。音響の“間”。彼は淡々と、しかし容赦なく指摘していった。まるで舞台を“壊す”のではなく――“解体”して、もう一度組み直すかのように。

 反発はあった。当然だ。名も知らぬ男に、魂を込めた舞台を否定されたのだから。


 だが。

 ひとつだけ。たったひとつだけ、彼の助言を取り入れた夜。劇場の空気が、変わった。観客は息を呑み、拍手は止まらず、誰も席を立とうとしなかった。


 それが、始まりだった。


 クロム・リーフは、舞台に“関わる者”になり、やがて――劇場そのものを、ひとつの作品として扱うようになる。

 そして気づけば。彼は支配人の席に、当然のように座っていた。

 ――幕は、もう上がってしまったのだから。











 今夜もミラソムの空には、季節外れの雪が、静かに舞っていた。


「……降ってるよね?」

 三人衆が通りを見上げて、ぽつりと言う。


「降ってるね」

「この雪って誰が降らせてるんだろ?」

「すごいね、この雪降らせるなんて!」


 ラボチルの窓辺で、いつもの面々が、なんとなく集まっていた。


「劇場の方向から、冷気が来てない?」

「……あー!!」

「クロム・リーフ支配人、最近“感情が高ぶると気温下がる”って噂、聞いた!」


 みんなで、苦笑まじりに肩をすくめる。


「それか、協会長のシオマさんじゃない?」

「愛が重すぎて、空冷してる説」

「やめて、気象兵器扱い」


 声が飛ぶ。


「ツバネの“胸のつかえ”が下りた反動とか!?」

「葛藤が昇華して、結晶化した!?」

「それ、寒すぎない!?」


 窓の外。

 街灯に照らされた雪は、音もなく、やさしく落ちていく。


「ねえ!雪食べにいこうよ!」

「いいね!お腹いっぱい食べたいー!」

「それは、お腹こわすね!」


 少しの沈黙。そして、同時に小さな笑い。


 ミラソムの夜は、今日もやさしい。


 ――みるん・きくん・はなすん、三人衆の推理は、まだ続いている。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ