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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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112 重すぎちゃった!?汐真の愛!?






 中央塔を離れ、人気のない回廊を歩きながら、僕はフレクシアと“キュリシアの世界”すごろくをやることになった経緯を、順を追ってカゲミに話した。

 日本のしずく堂のこと。キュリシアに追放されたあと、閉じこめられていたフレクシアのこと。そして、ゲームという歪な形で世界に触れはじめた、あの始まりのこと。


 カゲミは黙って聞いていたが、話が終わると、ふっと息を吐いた。


「ふぅん……」

 頭をガシガシとかきながら、低く言う。

「それを、シオマさんは知ってたってことだよな」


 僕は、うなずくしかなかった。


「セオトのことだったら、なんでも知っていたいタイプか」

 カゲミは少し目を細める。

「それとも……監視したいのか。どっちにしても、束縛つよそうだな」


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。


「兄さんは……親代わりになって、僕を育ててくれたんだ」

 言葉を選びながら、続ける。歩みが、自然と遅くなる。


「……そういえば」

 記憶の底から、ひとつの声が浮かび上がる。

「前に母さんが言ってた。兄さんが、僕を大切にしすぎだから……少し注意してあげて、って」


 その瞬間。


「……そういうことか!」


 カゲミが、ぴたりと足を止めた。鋭い声に、僕も思わず立ち止まる。


「“守ってる”んじゃない」

 カゲミは、はっきりと言い切る。

「“離さない”んだ」


 静かな回廊に、その言葉だけが落ちた。水路を巡る微かな音が、やけに遠く聞こえる。カゲミは少し言い淀んでから、視線を伏せたまま続ける。


「……多分だけどさ」

「ご両親がそばにいなかったのも、シオマさんが――セオトを自分で育てたかったから、なんじゃないのか?」


 息が、止まった。

「……え?」

 喉から出た声は、自分でも驚くほど小さかった。そんなふうに考えたこと、一度もなかった。


「違ってたら悪い」

 カゲミはすぐに付け足す。

「でもさ。大事にしすぎる人間って、いるだろ」


 胸の奥が、じわじわと冷えていく。


 思い返せば――

 いつも兄さんは、僕の“そば”にいた。判断も、進路も、危険も。気づけば全部、兄さんの手の届く場所にあった。

 それを、ずっと――“安心”だと思っていた。

 でも。


「……もし、そうだとしたら」

 喉の奥が、きしむ。

「兄さんって……重たいな……」

 口にした瞬間、胸のどこかが、ひび割れる音がした。


 それ以上、言葉は続かなかった。これ以上考えてしまったら、今まで信じてきたものが、全部崩れてしまいそうだったから。

 カゲミは、何も言わない。ただ、僕の横に立っている。


 否定もしない。

 肯定もしない。


 その沈黙こそが、もう十分すぎるほどに――答えの重さを、伝えていた。




「……ということが、あったんだ」

 最後まで話し終えて、僕は大きく息を吐いた。

「はぁ……」


 場所はラボチル内の個室。

 円卓を囲むみんなに、中央塔での出来事、兄さんとの話、フレクシアの様子までを、一通り報告していた。

 一瞬の沈黙。


 誰も、すぐには言葉を発せなかった。空気が、完全に固まっている。


「……え」

「ちょ、ちょっと待って……」

「それ、つまり……」


 言いかけては、言葉が途切れる。驚きと困惑と、どう受け止めればいいのかわからない戸惑いが、みんなの顔に浮かんでいた。


 そんな中で。


「うんうん」


 ただ一人、のんびりとうなずいている人がいた。腕を組み、どこか納得したような表情。


「……ミラさん?」


「そっかぁ。やっぱりね」

 ミラは、完全に理解した様子で言った。

「汐真って、そういう男だよ」


 その一言に、全員の視線が一斉に集まる。


「え?」

「そういうって……?」


 ミラさんは気にも留めず、さらりと続けた。


「小さい頃から強かったよ。あの人」

 まるで昔話をするみたいに。

「だからさ。私たちを――日本へ転スイさせたんだよ」


 ……。


「…………は?」


 一拍、思考が、完全に止まった。頭が、まるで追いつかない。


「ガーン!!」

 次の瞬間、沈黙を破ったのはセリアンだった。

「師匠を転スイさせたのって――シオマさんだったのか!?」


 思いきり声に出してる!いや、それ、今ここで出ていい情報!?

 視線が一斉にミラへ集まる。個室の空気は、もはや原形をとどめていなかった。


 ミラさんはというと、まったく悪びれた様子もなく、「ん?」と首を傾げるだけ。

 ――たった一言で。


 ミラの発言は、ラボチルの個室を、完全に吹き飛ばしていた。



「えっと……」

 僕は思わず背中を丸めた。

「兄さんが……すみません。そんなことしたなんて、僕、知らなかった……」

 空気を和らげたつもりだった。けれど。

「謝らなくていいよ」

 ミラは、あっさりと言った。表情は穏やかで、どこか懐かしそうですらある。


「私も、君のご両親も――納得したことだからね」

 そして、ほんの一拍置いて。


「それと――」


 嫌な予感がした。

 この「それと」は、絶対に要らないやつだ。


「私たち、付き合ってたし」

「えええええーーーーー!!!!!」


 どっかーん!

 個室が揺れた。

 セリアンが、魂の抜けきった顔で仰け反り、今にもどこかへ飛んでいきそうな姿勢で固まっている。


「し、師匠……?」

「つ、付き合って……?」

「過去形!?」


 誰かの声が、遠くで聞こえた。ミラはそんな騒ぎをよそに、にこりと微笑む。

「まあ、昔の話だけどね」

 ――いや、情報の爆弾としては現在進行形すぎる。



 ラボチルの個室は、今日何度目かわからない衝撃で、完全にキャパオーバーしていた。











 ラボチルの個室が、今日だけで何度目かの衝撃音を立てた。


「……またか」

「またですね」

「今日は揺れ多くない?」


 カウンター裏で、店員たちは顔を見合わせる。


 がたん。

 どすん。

 そして――


「えええええーーーーー!!!!」


 壁越しに響いてくる、魂の抜けそうな叫び。


「……お客さま、大丈夫でしょうか?」

「ああ。壁も補強してるから大丈夫さ」

「荒くれ冒険者仕様だもんね」


 誰かがそっと、個室の利用状況プレートを見る。

 ――満席・会議中。


「会議っていうか……人生イベントだよね、あれ」

「ドリンク、追加いっとく?」

「いや、今入ったら巻き込まれるって」


 店員たちは、そっと視線を逸らした。


 ゆれる個室。

 止まらない悲鳴。

 それでも――誰一人、止めに行こうとはしない。


「……終わるまで、見守ろうか」

「ですね」


 ラボチルは今日も、

 静かに、やさしく、

 修羅場を提供している。



 ――ラボチル店員一同。






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