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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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107 劇場おさえちゃった!?兄さんの力!?






 記録師協会を出て街へ向かうと、冬の白い息に混じって、いろんな声が聞こえてきた。


「昨日の“闇の吟遊詩人”、見た?」

「見た見た!黒いマントがバッサァッて!」

「歌で吹雪がおさまったって本当?」

「名前わかんないけど、絶対ただ者じゃないよ!」


 僕とミラさんは、思わず顔を見合わせた。


「……これは想像以上にヤバくない!?」

 僕の声はひゅっと裏返ってしまった。だって街中いたるところでセリアンの噂が駆け巡っているのだ。もう“ちょっと目立った”どころじゃない。完全に伝説級扱いだ。


 そんな僕とは反対に、ミラさんは雪の上をさらさら歩きながら、のんびりとした口調で言った。


「これはもう、セリアンが歌える場所を作るしかないね」

「場所!?そんなの、どうやって……」

「シオマに頼んでみるのはどうかな?」

 ミラさんは、ひょいっと人差し指を立てた。……その自信満々の仕草が逆に不安をあおる。


「兄さんに!? 本気で言ってます!?」

「うん。協会長だったらどこか劇場とか借りれないかな?みんな聞いてみたいはずだし、セリアンの歌の力、ちゃんと扱える場所を求めてるはずだよ。あの子って――“めちゃくちゃ強い音”を持ってるからね」

「強いってレベルじゃ……ない気が……」


 でも確かに、野外で歌われるよりは何倍もマシだ。僕たちは急いで協会へ引き返した。

 受付で事情を説明すると、案外あっさり話は通った。執務室へ案内され、シオマ兄さんに会えることに。

「セリアンか。セオトの仲間でミラさんの弟子なんだろ。いいぞ、責任者として許可する。劇場をおさえておこう」

 書類を閉じた瞬間、兄さんが突然――がばっ、と僕を抱きしめてきた。


「俺を頼ってくれて……うれしい!」

「わ、わっ、兄さん!?」

 予想外のハグに背筋がびくっと跳ねる。けれど、兄さんの腕はあたたかくて、ほっと胸がほどける気がした。


「お前が“助けて”って言ってくれるの、昔から好きなんだ。任せろ」

 そう言って離れる兄さんの表情は、妙に誇らしげだった。




「……劇場借りれちゃった……」

 協会のロビーへ戻った途端、僕は半ば呆然として立ち尽くした。手には光る許可証。現実感はふらふらと宙をさまよっている。

(セリアン……君、どこまで行っちゃうの……!?まさか初日から劇場公演って、どんな急展開なの!?)


 気持ちの整理が追いつかずぼんやりしていると――


「よし! これで人気爆発だぜ!!」

 カゲミの声が響いた次の瞬間――


 ビューーーン!


「は、速い!!」

 白い影となったカゲミが廊下を駆け抜けていく。


「早くセリアンを探そう!」

「わーい!」「行くぞー!」「ふふ、愉快だねぇ!」


 タリク、ツバネ、三人衆、そしてミラさんまでもが勢いよく走り出す。なんだこれレースか!?


「ちょ、みんなぁ!置いてかないで!!」

 慌てて荷物を抱え直し、僕も必死に後を追った。

 雪が降りしきるミラソムの街へ――僕たちは“噂の吟遊詩人”を探すため飛び出していったのだった。




「どのあたりにいるのかなぁ……。変装しててもオーラでバレちゃいそうだよね」


 昼の光が白く街を照らし、通りは昼食を求める人でごった返していた。香ばしい匂い、揚げ油のぱちぱちいう音、パン生地を伸ばすリズム。こちらの気配など気に留める余裕もないくらい、街は“生活のざわめき”で満ちている。


「セリアン、腹も減っただろう。屋台で多めに買っとくか!」

 タリクが腰の袋をぽん、と叩く。立ちのぼる湯気が冬空にゆらゆらと溶けていく。


「タリクは気が利くなぁ」

 僕がぽつりと呟くと――横から涼やかな声が重なった。

「同感だ。《私》もそう思うよ」


 振り返ると、禁書水声抄スイタンが、鈴のような気配をまとっていた。その存在は、街のざわめきとは不思議に馴染まず、しかし僕たちの会話には自然に入り込んでくる。


「セリアンとは繋がっているから、任せてほしい」

 スイタンは胸に手を当て、静かに微笑んだ。

「彼、……今は“落ち着ける場所”を探している。昼食を買って、静かな場所へ行ってほしい!」


「スイタン、場所の当たりはつくのか?」ツバネが尋ねる。

「うん。セリアンがうっすら考えている〝気配の方向〟くらいなら読めるよ。……ただ、はっきりした位置までは分からないけれどね」

 スイタンは街の喧騒の中の“静けさの層”を探るように目を細めた。


「でも、間違いなくこっちのほう。人の流れから少し外れた……影の通りだよ」

「セリアンらしい……」

 ミラが苦笑し、カゲミがため息まじりに肩をすくめる。


「まあ、腹減ってるセオトだったらすぐ見つかるけどな!においのほうに吸い寄せられるから!」

「それ、僕そんなに単純じゃ――」


 全員の視線が僕に向かい、僕は言葉を失った。



「じゃ、決まりだね」

 スイタンは軽やかに僕の胸元へ戻り、落ちついた声で言った。

「お昼ご飯と、セリアンのための“静けさ”を確保しに行こう」


 僕たちは、ざわめく大通りを抜けて、スイタンの示す“静かな方角”へと足を向けた。











「へえぇ、“闇の吟遊詩人”?」

 ミラソムへ転勤してきた水歌の巫女、ソアです。

 こっちへ来て早々、なんだか面白そうな噂ばかり耳に入ってきます。


 雪の街ミラソムは、冒険者も研究者も集まるにぎやかな場所。

 その中に、ノートリアの姿もちらほらあって――胸がそわそわしてくる。


「また……セオトたちにも会えるかなぁ」


 水紋亭を離れて少し寂しかったけれど、ここでもきっと、楽しいことがたくさん起こりそう。

 そんな予感が雪の匂いと一緒に、ふわりと胸をくすぐるのです。






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