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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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106 復帰しちゃった!?噂の吟遊詩人を探せ!?






 爽やかな一日の始まりだった。ラボチルであったかい朝食をいただき、外へ出ると――鼻先にふわりと冷たいものが触れた。


「雪だ……粉雪だね。かわいいな」

 指先に乗る前に溶けてしまう、小さな、小さな雪の粒。昨日よりも街が静かで、朝の空気はいっそう澄みきっている。


「今日も降ってるのか」

 カゲミがちらちら落ちる雪を見上げた。

「悪くない……なんかワクワクするな」


 そんな会話をしながら、僕たちはアクア・スパイラル――記録師協会の本部へ向かった。


 歩いていくうち、巨大な影が視界に入る。

 薄く雪をかぶった、堂々たる巨大建築物。まるで巨大な巻貝が地面に横たわっているような形だ。淡い水色の外壁に粉雪が積もりはじめ、その静けさがどこか神秘的だった。


「相変わらず、でっけぇ建物だよなぁ……」

 タリクが上を見上げる。

「雪をまとった姿も、なかなか乙じゃないか」

 ミラが楽しそうに目を細めた。


 積もっていく雪さえ、今の僕には“歓迎の花吹雪”みたいに見えた。


 記録師協会での手続きは、思ったよりもずっとスムーズだった。担当の事務員さんが書類を確認するたび、僕の顔を見て何度もうなずく。


「セオトさん、復帰おめでとうございます。みなさまも宿舎の利用が今日から可能ですよ」

「……よ、よかったぁ……!」

 胸の奥の緊張が一気にゆるむ。昨日の“雪の野宿危機”を思い出し、心の底から安堵した。


「これで安心だな」

 ツバネが微かに笑い、肩を軽く叩いてくれる。僕は深く息を吸い込み、協会の高い天井を見上げた。

 昨日までの雪の迷子みたいな気分は、もうどこにもない。懐かしい場所で、また記録師として歩いていける。ここで働けることが嬉しくて、胸がじんわりと熱くなる。


「――ノートリアとしての新しい一日が、今から始まる」

 つぶやくと、仲間たちがふっと笑った。




 宿舎へ向かう廊下を歩いていると、角の向こうから、雪玉が転がってくるみたいな勢いで元気な声が飛んできた。

「あ! セオトー!昨日いなくなったでしょ!」

「僕たち置いてかれちゃった!」

「でもまた会えたね!」


 みるん・きくん・はなすんの三人衆が、粉雪より軽い足取りで跳ねながら駆け寄ってくる。


「ご、ごめんね!昨日はちょっと色々あって……!」

 事情を説明しきれないまま謝る僕のコートを、みるんがくいっと引っ張った。


「知ってる?“闇の吟遊詩人”って街でうわさになってるんだって!」

「闇のノートリアなのかも!」

「探しにいこうよ!」


 きくんとはなすんのテンションは最高潮。廊下の空気ごと跳ねている気がした。


「待て待て待て待てー!」

 僕は両手を広げて三人を制止する。闇の吟遊詩人……?いや、そんな厨二ワード、記憶のどこかがビシバシ反応してしまう。


 (それってもしかして――セリアン……!?)

 僕が振り返ると、仲間たちはそろって「うん」という表情をしていた。ミラさんに至っては、笑いを堪えきれず腹を抱えている。


「あのね、三人とも」僕は深呼吸して、落ち着いた声で言った。「多分それって、セリアンのことだと思う」


「えぇー!」

「セリアンなんだー!」

「だとしても会ってみたいー!」


 無邪気すぎる三重奏に、僕は思わず額を押さえた。

 (セリアン……君、街中で“闇の何か”として噂されてるの……?お騒がせ者になってない? 本当に大丈夫……?)

 ……なんだか、新任務の悪寒がする。……うん、不安しかない。


「……よし。じゃあ、僕たちで様子を見に行こう」

「やったーー!!」

 三人衆の声が廊下に弾けた。


 こうして、僕たちのミラソム初任務は――まさかの“闇の吟遊詩人捜索”から始まることになった。……暗雲、立ち込めてないよね!?




 夜が明け、淡い光がミラソムの街を照らしはじめた頃。


「お世話になりました。私は吟遊詩人なのですが――仲間が記録師をしているので、このアクア・スパイラルにもよく来ると思います。また寄ってもいいですか? おやじさん」


 帽子のつばを軽く持ち上げ、礼儀正しく頭を下げるセリアン。屋台のおやじさんは、腕を組んでセリアンをじろっと見たあと、ふっと口元をゆるめた。


「……ああ、歓迎するぞ。またキュウリ漬けを食べに来い」

「もちろんです!私の歌も聞いてくださいね」

 セリアンはぱあっと微笑んだ。その瞳は、まるで雪明かりみたいに澄んでいる。


 彼がいたのは、アクア・スパイラルの高層階――研究塔の中でもとびきり静かな区域だった。


 昨夜、野宿のつもりでキュウリ漬けを食べていたら雪が降りはじめて困っていたところを、おやじさん……ガンロさんが「使っていい」と仮眠室を貸してくれたのだ。


 ガンロさんは――第一研究室の主任だった。

 研究塔は早朝でもひんやりしていて、水の魔法が循環する低い音が遠くで響いていた。


 (まさか、あの人が“第一研究主任”なんて……)


 身も知らずの自分に手を差し伸べてくれた感謝と、また訪れたいという小さな決意を胸に。


「私ができることでお返ししていければいいよね」


 静かな朝の光が、長い廊下にまっすぐ差し込む。よし――街へ出かけよう。











 記録師協会は、人いきれと紙の匂いでいっぱいだホン。


 禁書と意思疎通、会話ができるとは思っていないのを察したんだホン!

「……ホン。ここでは、喋っちゃダメなんだホン……」

 ホンホンもスイタンも、むっつり貝のように口を閉ざしてるんだホン!


「……スイタンも、がまん……するホンホン?」

 スイタンは小さくうなずく。(コクン……)


 廊下を通りかかった記録師たちが、何気なく交わす会話が耳に入るたび、

 むずむずとした衝動がふくらんでいくんだホン!


 「……でも、うっかり喋っちゃうかもしれないホン……」


 ホンホンがぽそりとつぶやくと、スイタンも同意するように、しおしおとページを震わせた。


 (禁書は怖くないホン……!)



 ――禁書ホンホン。







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