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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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102 チルっちゃった!?記録師の現れた夜!?






 キュリシア中央の高原地帯。

 湖と水路が都市を縦横にめぐり、地熱と湧水に温められた街は、ほのかな蒸気をまとって輝いていた。

 水面はまるで鏡。朝と夕には光景が二重に重なり、「幻の沼都」と呼ばれるタマルナならではの景色をつくり出す。


 その中心にそびえ立つのが――アクア・スパイラル。

 螺旋状の研究塔で、科学者と巫女、そして水を愛する芸術家たちが夜通し語り合う場所だ。塔を囲む研究区・芸術区・居住区は細い橋と水路で有機的につながれ、夜には灯りが揺らぎ、街全体が別世界の顔を見せる。


「……わあ!きれいだ!」思わず僕は息をのんだ。

「やっぱり地下より地上がいい!サイコー!」初めて訪れたミラソムの景色に、胸が高鳴った。


「うんうん、そうだろ?」とミラさんが微笑む。

「ここは“知恵の沼都”。第二のアオハって呼ばれることもあるらしいよ」


「え、第二の?」

 カゲミがくるんと振り返る。「すごいじゃん!アオハの兄弟都市みたいな感じだ!」


「学者と祈り手が一緒に暮らす街だよ。『水の記憶を再現する装置』の研究も進んでる。巫女たちはその共同研究のために派遣されてるんだって」


「へぇ……科学と祈りが同じ場所で?」

 僕は思わず空を見上げる。蒸気に光が溶け、塔の輪郭がゆらりと滲んでいた。


「倫理的な議論もあるみたいだけどね。でも、巫女さんたちは“水の力を信じる”って立場で来てるらしいよ」

 ミラは肩をすくめつつ、優しく言った。

「この街、案外あったかいよ。冷たい未来都市って感じじゃない」


「まずは、腹ごしらえだな。協会は明日にしよう」

 タリクの合図で、僕たちは蒸気の街の夜へ歩み出した。



 ラボチルへ続く細い石畳の路地は、夜の帳が降りてもかすかに青い光を宿していた。水路の奥から静かな水音が響き、まるで街そのものがゆっくり脈打っているようだ。

 ふわりと、焙煎豆の香ばしさと澄んだ湧水の匂いが混じった空気が漂う。その先にある灯りが揺れ、路地をやさしく照らしていた。


「ここが……ラボチル?」 

 僕は小さくつぶやく。


 湿った蒸気が淡く光をまとい、店先に吊られた風鈴がゆらりと揺れる。

 夜更けでも明かりが消えないカフェ。研究者や冒険者がひっそり集う場所だ。扉の上には、水滴の形をしたランプが縦に3つ。その光が水面に反射し、小さな螺旋模様を描いていた。


 扉の向こうからは、低いざわめきが聞こえた。ギルド帰りの冒険者、帰宅前の研究者たちが湯気の中で語り合っている。


「じゃ、入ろっか」

 そっと手を伸ばし、扉を押した。


 ――ちりん。


 澄んだ鈴の音とともに、あたたかい蒸気と、湧水の冷たい香り、焙煎豆の甘い匂いが一気に押し寄せた。

「いらっしゃいませ。……あら、旅の方ですね?お連れの方は記録師さんでしたね」


 淡い青の装束をまとった巫女が奥から現れる。

 水紋亭と同じ流紋を首元に飾りながらも、装飾はより繊細で、まるで“水の記憶”を纏っているかのようだった。


「三名様はラボチルは初めてですね?」と彼女。

 穏やかに微笑んだ瞳が、どこか研究者のような鋭さも帯びている。


「はい。僕たちも、記録師です」

「お招きできて嬉しいわ。どうぞ、お好きな席へ」

 その言葉に導かれるように、僕たちはラボチルの夜へと足を踏み入れた。


「ここは、夜の実験と夜の祈りが同時に行われる場所です。――どうぞ、心ゆくまで“水の声”を味わっていってくださいね」



「雰囲気、すごくいいな……」

「いい香りがしてる!開いてる席に行こうぜ!」

 カゲミが駆けだそうとした、その瞬間――。



「スンスン……」

「スンスン……!!」

「スンスン……!!!」


 鼻を鳴らす音が三つ。

 ラボチルの扉の影から、モブ……いや、あの独特の存在感を持つ三人組が、珈琲ではない匂いを嗅ぎあてて飛び出してきた。


「この匂いは……カッパの赤ちゃん!?じゃなくて――」


 ぱちん、と水の粒がはじけるような声。そして同時に、三つの顔が輝いた。


「ぼくたちの仲間!セオトだーーー!!!」


「わっ!?みるん、きくん、はなすん!?久しぶり!」


 次の瞬間、夜のカフェらしからぬ勢いで、三人が全力で僕にしがみついてきた。みるんは腕に、きくんは背中に、はなすんは足にまとわりつく。え?僕をどうする気!?身動きできないんだが?


「セオトー!!成長してる!匂いでわかった!」

「旅してたんでしょ!?水の流れが変わってたから気づいたよ!」

「ぼくたち、ずっと待ってたんだ!」


 大騒ぎする三人に、周囲の研究者たちは「またか……」と言わんばかりに微笑むだけで、誰も咎めなかった。(匂いが成長してるって何だ……あとで聞こう……)


「セオト、こっちこっち!今日のラボチル、すっごくにぎわってるんだ!」

「研究者さんたち、さっき“水脈の揺れ”の話してたよ!」

「はなすんはね、セオトが来る気がしてた!」


「……なんか、ちょっと久しぶりなだけなのに……懐かしいな」


 胸がじん、と熱くなる。

 巫女が切り盛りするこの夜カフェは、旅の合間の休憩地点のはずなのに、まるで“帰ってきた場所”みたいだ。


 タリクが苦笑して肩をすくめる。

「ハハハ!三人衆は相変わらずだな。いなくなったセオトの分も協会の仕事をしてたんだ。多めに見てやれ」


「そうそう。拙たちもいなくなった分も……だ。タリク」

 ツバネが腕を組んで睨む。また仲良くケンカが始まった。


 カゲミはきょろきょろと店内を見回して、目を輝かせる。

「うわ……!あっち、冒険者が魔導地図ひらいてる!こっちは研究者?楽しそう!」


 はなすんが誇らしげに胸を張る。

「ラボチルはね、“夜のほうが本気”なんだよ!」


 そう言うと、巫女がカウンターからこちらに気づき、淡い水光のランタン越しに、やさしい微笑みを送ってくれた。


「あっちのカウンター……めっちゃ湧水煎りの香りがする!」

「湧水煎り……?」

 初めて聞く言葉に、僕は首をかしげる。


「この街特有の焙煎法よ」

 さっきの巫女が、メニューを置きながらささやくように説明した。

「地熱で温めた湧水の蒸気を使って、豆に“水の記憶”を封じ込めるの。少し甘くて、どこか懐かしい味がするんですよ」


「へぇ……!僕、それ一つお願いします!」


「はい。あなたは……」

 巫女がカゲミに視線を向ける。

「オレ?えーっと……なんか……キラキラしてるの!」

「……“光うつしのゼリー”ですね」

「それそれ!!」


 まさか通じるとは思っていなかったのか、カゲミがめちゃくちゃ誇らしげだ。


 僕はというと、メニューの端に描かれた飲み物へ自然と目が吸い寄せられた。


「……‘反射沼のミルクティ’?」

「人気の一杯です」

 巫女がそっと声を重ねる。

「都市中央の沼に映った光をイメージして作ったんですよ。心を落ち着かせる作用があって……旅人がよく頼まれます」


「じゃあ、それもください」

「承りました」

 巫女が下がっていくと、隣の研究者グループの会話がふと耳に入った。


「……あれ、やっぱり記録師じゃないか?」

「影の流れを追ってるって噂の……」

「今日の観測データと関連してるかもしれん」

 ざわ……と小さな興奮がテーブル越しに伝わってくる。


「“影の流れ”って…………セリアン大丈夫かな」

 僕が小声で言うと、ミラさんは肩をすくめて笑った。

「この街は“観測の都”。珍しい現象も旅人も、みんな注目されがちなんだ。気にしなくていいよ。むしろ、それだけ歓迎されてるってことさ」

「なるほど……?」

「ほら、窓を見てみなよ」


 言われて振り向くと、水路に反射した蒸気の光がゆるく揺れていた。その揺らぎが、まるで僕たちを包み込むようにやわらかい。


「……落ち着きますね」

「うん。旅の夜はこうでなくちゃ」


 ちょうどそのとき、巫女が三つの光を乗せたトレイを持って戻ってきた。湯気と香りが重なり合い、テーブルの上に静かに広がった。


「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」


 ラボチルの夜が、ゆっくりと始まっていく――。











 ミラソムの石畳を歩くたび、後ろから視線が刺さる。

 さっきから妙に人がついてくる気がする。


(……気のせいじゃないな。これは、つけられている気配だ)


 セリアンはマントの裾を払うふりをして、さりげなく後方を伺った。


 ――つけてきているのは、三人組の若い町娘だ。目が合うと「ひゃっ」と肩をすくめ、でもすぐまたヒソヒソ声が追いかけてくる。


「……あの、お兄さん……!ちょっとだけ歌ってもらえませんか?」

「影の調べって噂に聞いて……」

「こっち向いて微笑んでほしいだけなんです……!!」


 セリアンは一歩だけ後ずさった。


「ごめんね。今は急いでるんだ。影の流れが待ってるからね」


 そうやんわり断ると――


「影の……流れ……だって……?」

「やっぱりミステリアス……!!」

「追うわよみんな!!」


「えっ、追うの!?」


 セリアンは思わず目を丸くした。


 町角を曲がれば、ぱたぱたと複数の足音。影の風を読もうにも、悲鳴が邪魔で集中できない。


「……はぁ。こういう時のための影歩き、かな」


 そうつぶやくと、セリアンの足元の影がゆらりと揺れ――すっ と闇へ溶けるように姿を消した。


「きゃあああっ!?消えた!?」

「まさか……影の魔法!?」

「尊……っ!」


 遠くの屋根の上に再び現れたセリアンは、そっとため息をついた。


「……やれやれ。影より人間のほうがよっぽど執念深いね」



 ――つづく?






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