老年
こんなの書いてみた。ちょっと後悔。
ずいぶんわたしも、年老いた。もはやわたしは、役に立たない。ずいぶん長い間、わたしは小説や詩にかかわってきた。その中で多くの小説家や詩人を見てきたが、わたしほどの愚か者もいない。
わたしは芸術至上主義だった。だから、悪魔に女性を捧げて、悪魔的な短編を書いた事もあった。今では随分後悔している。その女性とは別れたままだ·····
若い頃は、全てがバラ色に見えるとよく言われる。しかしわたしは若い頃は暗黒だった。醜い青春時代をわたしはなんとか生き延びた。
わたしに取って傑作の小説を書くことは、未踏の崖に登るようなものだった。崖には大体とっかかりがある。
しかし時にはとっかかりのない崖もあった。それが「天外の魔術」だ。この崖は、わたしが最初にタイトルを天外の魔術としてしまったことにも起因する。
他にも小説にはいい思い出がたくさんある。が、それはここでは置いておこう。
今ちょうど、午後一時頃だ。わたしは昼食を終えて、庭のテラスで物思いに耽っていた。そこに来客がある。
「Rさんどうしてますか?」
そう声を掛けたのはわたしの知り合いの小説家だ。わたしは、人にさん付けで呼ばれることを好んだ。
「いや、考え事をしていてね·····」
「何を考えていたのですか?」
「いや、もしわたしが、彼女にもっと早く声をかけていれば、どうなっていたのか、考えていた·····こんなイフの話は考えるだけ無駄なことはよくわかっている。けれどもどうしても考えてしまうんだ······」
「彼女とは誰のことですか?」
「いや、西の方にいた、歌の上手い女の子だよ。今では結婚してしまったが·······」
「·········」
「若い頃はわたしもよく無茶をした。女の子を3人掛け持ちしたり、一日3度ソープに行ったり」
「そうですか。若気の至りですかね?」
「まあそうだね」
「しかしあなたの現在の奥さんは······」
「そう、若い頃には現れなかったNだ」
「わたしも恋愛してみたいなあ、美しい女性と」
「だったら傑作の小説なり詩なりを書いてみなさい」
「なぜですか?」
「女性が現れるよ」
「そうですかあ」
「そう。わたしのアドバイスを受け入れなさい」
「·········」
「一つだけ聞いてみたいことがあります」「なんだい?」
「あなたが一番好きだった人は、誰なのですか?」
「それは······そうだな」
小鳥が鳴いている。庭は静寂に包まれた。静寂には永遠の声が聴こえるのだろうか?
「それはね永遠の好きな女がいてね····-·」
「どんな人でした?」
「鼻のラインが美しい人だった····」
「そうですか·····」
これを読む君にも好きな相手が或いはいるのかもしれない。そうして君は片思いをしているのかもしれない。けれどこの世界は何とかなるのだと思う。
わたしの経験上そうだし、なんとかなるのが人生だ。
さてこのへんで君達に別れを告げよう。ではまた他日まで。それまで鍛錬をおこたらないように。また逢おう········