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きゅう。

前回のあらすじ

ギルドに登録して、初めてのお仕事をした

 八月二十三日。前日に三十日分のギルド指定作業をクリアしFクラスに昇格した俺は、指定作業以外の依頼を受けにギルドに向かって歩いていた。


 三十四日かけて三十日分の作業を行ったというわけだ。


 四日余分にかかったのは、雨で作業が中止となったのが二日、出遅れて仕事にありつけなかった日が二日。どうやらこの二日間は、街道整備など外壁関連工事以外の作業の端境期に当たっていたらしい。


 平均すれば週休一日(一週間は六日)。


 まあ、いい塩梅か。


 宿代のほか、作業後に屋台で買い食いしてしまったが、この間の稼ぎで手元資金に一万ティウス以上加えることができており、こちらに来た時が三百八十二万ティウスだった資金が、三百八十三万ティウスになっている。


 贅沢しなければ、一日千ティウスを目安に稼げばよいことが改めて確認できた。



 ギルドに到着したのは、指定作業を受けていた頃よりは少し遅めの時刻。何せ、指定作業の受付時刻はギルドのロビーがものすごく混雑するのを身をもって知っているからな。そんな中では落ち着いて依頼内容を確認できないだろうと思い、時間をずらしたのだ。


 二番鐘が鳴る少し前にギルドに到着してみれば、予想通りロビーから指定作業希望者の群れは掃けており、カウンター右の掲示板で依頼書を眺める者、斡旋窓口で受注手続きをする者、軽食コーナーで朝食を摂っている者などがパラパラといる程度で、落ち着いた雰囲気だ。


 俺は依頼を確認しに掲示板の近くまで歩いて行った。


 依頼には、常設依頼と通常の単発依頼とに分かれており、掲示板の左側に常設依頼を記載したボードがかかっており、その右に通常の単発依頼を記載した依頼書が貼られている。


 登録時にもらった小冊子によると、常設依頼は主に薬草や魔核、鉱石などの採集と、ホーンラビット、ゴブリン、コボルトなどの駆除の依頼がある。これらは、特に事前手続きは必要なく、素材や討伐証明部位を提出すればよいこととなっている。


 一方、通常依頼書は、特定の町や村からの討伐対象依頼だったり、商人の旅先での護衛、商家の用心棒、野盗討伐、警備隊の臨時雇い、荷運び、建築現場の補助作業、ドブ浚いなど、実に様々なものがあった。


 荷運びやドブ浚いなどは、一件毎の単価は数百ティウスだが、効率よくこなして日に数件達成すれば指定作業以上の賃金になりそうだ。また、それ以外の案件も概ね日割りで千ティウス以上にはなりそうな案件が多い。


 やる気と腕次第で稼ぎが変わってくるというわけだ。


 とはいえ、俺は一日千ティウスも稼げば十分と考えているので、かなり気楽な気分で情報集めのためにカウンターに向かった。



 どの窓口に行けばよいかと改めて眺めてみると、L字型に折れたカウンターの掲示板側に「総合案内」と書かれた看板がぶら下がっているのを見つけた。


 俺は、総合案内(無人)のところに立ち、カウンター内に声をかけた。


 「すみませ~ん」


 「は~い」


 すると、初日に登録手続きをしてくれた兎人族の受付嬢が窓口までやってきた。


 「どうしましたか」


 俺は、薬草の採集をしようと考えているので、常設となっている薬草についての情報がないか聞いてみた。


 「……そうですか、薬草がどういったものかといったことであれば、薬草図譜という冊子があります。また、この町近辺の薬草採集地については採集地図があります。どちらも有料で、図譜が八千五百ティウス、地図が千八百ティウスです。

 ただ、お見かけしたところ、まだ装備を整えられていないようですので、町の外に採集に出向かれるのであれば、装備を整えてからの方がよろしいかと思いますよ」


 兎人族の受付嬢──よく見るとネームプレートに「リリー」と書かれている──は、「何言ってやがるんです、小僧が」的な感じの少し呆れ気味な口調で教えてくれた。


 「そうだな。わかった。図譜と地図を買いたい。装備を整えるとしたら、どこがいいか教えてくれないか」


 「装備なら、東の通りをしばらく行くと職人街があるのでそこで揃いますよ。少々お待ちください」


 といって、事務スペースの奥の方に向かって行った。図譜などを取りに行ったのだろう。


 暫く待っていると、リリーが、A4版厚さ五センチ程の冊子と同じ大きさに折りたたまれた紙を持って帰ってきた。


 「お待たせしました。薬草図譜と採集地図です。合計一万三百ティウスです」


 といって、リリーは、冊子と地図をカウンターにおいた。


 ものすごいボッタクリ価格だと思うものの、俺の記憶はジジィの掌で遊ばれていて思い出せない以上、買うしかないのが実情だ。きっと、一度見れば「思い出す」ので、二度と見る必要がなくなること請け合いだが、仕方がない。くそぅ。


 と思いつつ、俺はカウンターに白銅貨一枚と青銅貨三枚をおいて、冊子と地図を受け取った。


 「ありがとな」


 俺は、出口に向かって歩きながら、擬装用に肩に掛けることとした鞄経由で【保存領域】に冊子と地図を放り込んだ。


 さて、しかたがない。次は、装備を整えるか。


 実のところ、武器は《光サーベル》があれば他はいらないし、何なら《魔刃》で十分ともいえるが、ひのきの棒で何でもサクサク切っちまうのも常軌を逸している。


 防具も全身を魔力で覆ってしまえば、大概問題ないので旅人の服のままで何ら問題ないのだが、やはり見た目も大事と思い、リリーのいうとおり一応装備を整えておくことにした。


 ギルドを出ると、宿屋のある東通りに向かい、宿屋の前をそのまま通り過ぎて歩いて行った。


 暫く歩くと、リリーのいうとおり、鍛冶屋や木工細工屋などが並び始め、町の風景がいかにも職人街という感じになってきた。



 歩いていると金物屋を見つけたので覗いてみたが、金物屋では農具は売っていたが、武器の類は扱っていなかった。


 「鉄剣、鉄剣、、、」


 と、探して歩いていると、通りの左並びに「ゴットフリート武具店」の看板を掲げた店を見つけた。



 俺は、武具店の入口の戸を押し開いた。


 店内は、それほど広くなく、右手に剣、短剣類、左手に斧、メイス、モーニングスターなどが陳列してあり、正面にカウンターがあり、カウンター奥の壁にはハルバードとデスサイスがクロスを組むように飾られていた。その右手は狭い通路となっている。


 店内に入り、右手の剣類を眺め始めたところ、通路の方に気配を感じた。


 「いらっしゃい。剣をお探しかな」


 おぉ、カイジンっぽい声だな。ちょっとシブイ感じ。


 と思い振り向くと、?


 「もう少し、下だ」


 といわれて目線を下げると、身長百四十センチメートル程のずんぐりしたヒゲ親父がムッツリと立っていた。


 おぉ(二回目)、絵にかいたようなドワーフだ。ドワーフだよね、きっとそうだよね。年齢は、、、見た目じゃわからんな。人でいうと四十代といったところだろうか。オッサンだね。


 「なんだ。ドワーフを見るのは初めてか」


 「ああ、噂には聞いていたが、会うのは初めてだ」


 ちょっと感動。


 「会うのはか。お前さん、人族にしては弁えてるな。

 ふむ、、、、」


 といって、何故か俺をじっと見つめてくる。というか、上から下まで、それは舐め回すように見てくる。ちょっと、キショい。


 そういう趣味はないんだけど。


 「お前さん、剣は両手持ち、いや片手でも扱うか。ふむ、構えは右足前が主だな。

 両手持ちだが、重量はそれ程ないものを使っているな。右手一本で無理なく振れるぐらいにな。

 だが、盾は持たないと、、、。ちょっと変わった技法のようだ」


 と、剣道の特徴を言い当ててくる。あなたギボさんですか。ちょっとビックリ。


 「そのとおりだ。よくわかったな」


 「重心位置やちょっとした体の動かし方を見れば、凡そのところはわかるもんだ」


 いやいや、そんな当たり前のことじゃないと思うんだけど。


 「すごいな。そのとおり。セイバーぐらいの片刃の剣を使うんだが」


 実際に真剣は扱ったことなんてないけど、剣道の理合いはそうしたものだからね。もっとも、直刀で同じように扱えるかというとそうでもないが、まぁ、装備としては形ばかりだから、こだわっても仕方ないからね。


 そう説明すると、ドワーフのオッサンは、壁に並んでいる剣からいくつか取って、軽く振ってみると、


 「そうだな。これなんかどうだ」


 といって、薦めてくる。


 突き出された剣の柄を取って、俺も軽く振ってみる。


 まずは、右手のみで、左一文字から袈裟斬りに。確かめるように、慎重に振っていく。


 次に両手で、八双から袈裟斬り、切り落とした剣を一旦引いて、上段から真っ向斬りに、更に今一度剣を戻し、正眼から突き一閃。


 正眼に戻し、納刀。


 直刀なのでどうかと思ったが、竹刀も真っすぐだし、振るだけなら違和感はない。むしろ重さもバランスも悪くない。


 長さ、身幅、厚さも申し分ない。良い剣といっていいだろう。


 「いい感じだ」


 といって、俺はオッサンに剣を返した。


 「そうか。それは良かった。お前さんの理合いでいえば、反りのある方が良さそうに見えたが、申し訳ないがうちでは扱ってないんでな。そいつはただの鉄の剣だが、多分、それが一番合ってそうだが、どうする」


 一目で客に見合った剣を薦めてくるなんて、大したオッサンだ。


 「一応聞くが、ただの鉄の剣以外の剣もあるのか」


 「そうだな、素材でいえば、ミスリルやオリハルコンといったものがあるが、値段はクソ高いぞ。因みに、その剣で三万八千ティウスだ。うちでは数打ちものは扱ってないんでな」


 予想以上の高さだ。勿論、資金不足ということは全くない。全くないのだが、所詮本来はあってもなくても良い装備なのだが。と迷ったものの、数回振っただけで分かるほど良い剣だ。少し迷ったが、買って損はないと思った。


 「では剣帯と一緒にもらおうか」


 「そうか。じゃぁ、剣帯はおまけしておこう。ちょっと待ってな」


 そう言って、オッサンは通路の奥に引っ込んでいった。


 多分、剣帯を取りに行ったのだろう。その間に俺は、支払のための硬貨を【保存領域】から取り出した。


 待つほどのこともなく、剣帯を持ってオッサンが帰ってきた。


 「三万八千ティウスだ。確かめてくれ」


 そう言って、俺はオッサンに白銅貨三枚と黄銅貨八枚を手渡した。


 「剣と剣帯だ。手入れ用の砥石なんかも付けといた。

 そんじょそこらの剣とは出来が違うと自負はしているが、とはいえ鉄剣だ。無理すれば、欠けたり曲がったりしないとも限らん。もし、砥石程度では手入れできないことがあれば、いつでも持ってこい。きっちり整備してやる」


 と心憎いことをいってくれる。


 俺は、剣と剣帯、砥石、油などの手入れ用具を受け取った。


 「ところで、防具を揃えたいんだが、どこかいい店を知らないか」


 このオッサンなら信用できそうなので、いい店がないか聞いてみることとした。


 「それなら、隣が俺の兄貴がやってる防具屋だ。身贔屓ではなく、評判は良いらしいから行ってみるといい。マルティンという店主だ。武器屋のゴットフリートから聞いてきたといえば悪いようにはしないだろう」


 と、教えてくれた。


 「ありがとな。じゃぁ、この足で向かってみることとするよ」


 俺は、ゴットフリート(しかし、すげぇエラそうな名前だ)に礼をいって、武器屋をでた。

剣を買ったよ

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