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ろく。

前回のあらすじ

村人を治療したお話し

 「腹減った」


 村には午前中に到着していたが、すべての負傷者の治療を終えると、既に昼はとっくに過ぎていた。


 「いや、本当に助かった。昼食を屋敷に用意しているので、是非食べて行って欲しい」


 と、ブルンから申し出られた。


 俺の方は遠慮する理由もないので、ほいほいとついていく。



 昼食は、パン、野菜スープ、腸詰肉と食後のコーヒーだった。とりわけ美味しいとまではいかないが、まずまずといったところ。


 ブルンとの食事となったので、昨夜の襲撃についてと治療の謝礼について、食べながら話しをした。謝礼については、俺としては、大した負担でもなかったし、むしろ治癒魔法を使用する得難い経験もできたので、どこか納屋にでも一泊させてくれればそれでよいとしたが、村としては格好がつかないこともあり、五万ティウスを礼金として支払うことで折り合いがついた。バーケンベルクから医者を呼んで治療してもらうこととなると、もっと費用がかかるらしいので、それならばということとなった。


 昨夜は、まず北側から襲撃を受け、それに対応している最中に西側からも襲撃を受けたため、西側の防衛が後手に回り、民家三軒焼失と、それに伴い老夫婦二名が残念ながら亡くなってしまったとのこと。ゴブリンにしては小知恵の働く奴らだ。ただ、北側は何とか守り切ったので村の損害は軽微であったのと、防衛に当たった村人に死者は出ず、負傷者もすべて俺が治療したので、襲撃規模の割に被害は軽微なものに済んだのが幸いだったらしい。


 襲撃してきたゴブリンは、総勢二百匹を超す大群だったが、その約半数を失うと、潮が引くように西に向かって逃げていったという。


 ゴブリンの襲撃は、年中行事ではあるらしいが、今までは十数匹からせいぜい三十匹程度だったので、今回の大襲来はちょっと変だと考えているようだ。


 いずれにしろ、まだ、百匹以上のゴブリンが逃げているので、再襲来が懸念されるところだが、それは、俺もブルンも同意見であった。


 あまり安請け合いしてしまうのもどうかと思ったが、なんとなく見捨ててしまうのも薄情な気がしたので、一晩村に泊めてもらえたら、明日撤退していったゴブリンを捜索し、討伐することを申し出ると、ブルンから、村にはこれ以上謝礼を払う余裕がないとして遠慮されてしまった。


 「謝礼は、来年の収穫の後でかまわない。ゴブリン一匹当たり百ティウスでどうか」


 と提案すると、一万ティス余りならと目算したのだろう、


 「その条件でよければ、お願いしたい」


 と合意した。



 その後、食後のコーヒーを飲みながら談笑となったが、ブルンから


 「その若さで、土系魔法、水系魔法、治癒魔法に多分火系魔法まで使いこなすとは、大したものだ。きっと名のある方に師事されたに違いない」


 と褒められた。


 まぁ師といえばジジィになるが名前なんぞ無かったなぁ、と考えていると、


 『お前さんも大概失礼じゃなぁ。無いんじゃなく、お前さんらには認識できんといったはずじゃが』


 と久々にジジィが割り込んできた。聞いて認識できないんじゃ無いのと変わらないじゃないか。


 しかし、村人たちの様子を見るにつけ、この世界でも三十七歳は堂々たるオッサンになるはずだが、若いといわれるのは解せんと訝んでいると、


 『気づかんかったのか。今のお前さんは十五じゃよ』


 ──何? やりやがったな


 これまで自分の姿を目の当たりにする機会がなかったので気が付かなかったが、そんなことになっているんかい! 十五歳って中学生じゃねぇか。


 『お前さんの世界じゃ、異世界転生といえば若返りじゃろ。ワシが入り込むに赤ん坊じゃ都合が悪かろうから、十五にしといたんじゃよ。ピッチピチじゃろ』


 ピッチピチ……、激しい虚脱感に襲われ、心の中でorzとなった。



 「ありがとうございます。著名とは言えませんが、優秀(ケッ!)な師に仕えることができまして、研鑽させていただきました」


 脳内会議を一瞬で切り上げた俺は、なんとか怪しまれないようにお礼を返すことができた。誠に不本意だ。




 ◇




 昼食を終えると、是非拙宅に泊まってほしいとブルンから誘われたので、ブランに案内されるまま村長宅にお邪魔することとなった。


 村長宅で客間に案内された後は、特に何事もなく夕食をごちそうになり、そのまま客間のベッドで就寝することができ、久しぶりにのんびりとした気分で過ごすことができた。


 おかげで、翌朝はスッキリ爽快だった。




 ◇




 朝食をご馳走になると、俺は約束した通り、逃走していったゴブリン達を討伐すべく村を出た。


 まず、逃走したとされる西に向かった。


 トラッキングなどしたことないので、足跡などの痕跡を探すなど無駄なことは端からせず、普段半径一キロメートルに設定している《魔力警戒レーダー》の探査範囲を五キロメートルに広げるという力技で対応した。


 五キロメートルに設定したのは、魔力が直進するためだ。直進しかしない以上、見通し距離から先は上空しか探索できなくなってしまうからだ。


 襲撃から一日以上経っているのでゴブリンの巣が五キロメートルより先にあると探すのが大変になるが、ゴブリンのような弱い魔物がそれほど広い行動範囲を持つとも考え難かったため、楽観視していた。


 案の定、西南西三キロメートルほど先にゴブリンらしき反応を捉えた。その数六十四。


 ゴブリンの巣として大きいか小さいかはわからないが、数からして、ここに一昨晩逃走したゴブリンがすべているわけではないので、この他にも同様の巣が残っていることとなる。すこし面倒くさい。



 その巣は、崖に穿たれた洞窟内に存在していた。


 俺は、巣に近づくと、《魔力標定レーダー》とリンクした電撃系攻撃術式を発動した。今回は、討伐証明部位(ゴブリンの場合、右耳)を回収する必要があるので、灰にしてしまわないよう燃焼系を避けたのだ。


 洞窟内でドンっという、くぐもった音が鳴り響いて、殲滅完了。


 村に来るまでに《魔力標定レーダー》を盛んに使っていたので、いまでは同時攻撃可能な目標数が六十四まで増えていた。おかげで一回の攻撃で殲滅できた。


 あとは《サイコキネシス》で倒したゴブリンを引き寄せ、右耳とついでに魔核を回収すると、掘った穴に次々と放り込んで焼却すれば作業終了だ。


 この巣に近づく間にも、新たな巣を三か所を発見していたので、それらも順繰りに処理していきながら、探査を繰り返し、都合七つの巣で、五百十二匹のゴブリンを駆除した。


 その中の一か所に、どうやら上位種であるキングゴブリンがおり、どうもその上位種がこの辺りのゴブリンを支配して村に襲撃をかけてきたらしい。


 作業自体は、淡々と進んだが、七か所すべて回るのに結局一日がかりだったので、俺が村に戻ったのは日暮れ近くであった。


 あ、また昼飯食いそびれた。




 ◇




 村に戻りブルンの下に赴いて殲滅完了の旨とその際の様子を伝え、討伐部位を確認してもらう。


 討伐部位の数の多さにブルンは目を剝いたが、約束は約束だとして、数を確認すると正式に契約書を取り交わしくれた。


 「おかげで村の安全を守ることができた。ありがとう」


 「対価をもらう以上、仕事だからな。仕事キッチリさ」



 これでこの村の騒動にも一段落ついたので、俺は翌朝出立する旨を告げて、宛がわれた部屋で休むこととした。村人たちには、明日以降もまだ後始末が残っているが、それは俺がすることではない。


 俺はブルンとの会話の中で出てきたバーケンベルクという町に向かってみることとした。


 ジジィからは人里に向かってみろと言われたが、その趣旨は、この村に行けというだけではなく、この世界をよく観察して自分なりに理解しろということだと思う。だから、この村に止まるのではなく、いろいろと見て回るのがよいのだろう。まぁ、のんびりとやっていくさ。




 ◇





 翌朝、ブルンに改めて感謝されつつ、俺は村を出てバーケンベルクのある北に向かうこととした。


 ブルンと、ディータなど村人数人が北門まで見送りに来てくれた。


 これからこの村では外壁の修理や焼失した民家の立て直しなど費用がかさんでいく。領主からの支援があるのかもしれないが、到着までには時間がかかろう。そう思い、


 「村長さん。お世話になった。これは一晩余分に泊まったお礼だ」


 といって、村に来るまでに狩ったホーンラビットの肉百羽分を【保存領域】から取り出して門の脇に積み上げると、その上にゴブリンから回収した魔核から五百程を入れた袋を載せた。


 「君たちはもう大丈夫だ」


 と言い残して、俺は、道沿いに北に向かって歩き出した。


 ディータから、


 「アイン! 君っていったい誰なんだ?」


 と声を掛けられたので、


 「通りすがりの神様さ」


 見送りに来ていた村人たちは、口をあんぐりと開けて、俺が歩き去っていくのを見送ってくれた。


 一回言ってみたかったんだよね~。




 ◇




 村の北門をでると、太めの道が北に向かって伸びていた。


 ランケンドルフ村に来るときは、魔獣しか見なかったが、バーケンベルクに向かう道では、極稀に人や荷馬車とすれ違うことがあった。それなりには往来があるようだ。


 ブルンから仕入れた情報では、町までは街道を歩いて三日程だそうだ。今歩いているこの太めの道が街道ということなのだろう。


 街道というと石畳などで舗装された道を想像していたが、辺境の地だからか、今歩いている道は、土がむき出しで、ところどころ車輪が取られそうな深い溝があったりする。この世界の道路整備事情は詳しくないが、ランケンドルフ村の南側の道に比べれば、はっきりと道だとわかる分だけ、立派なものだ。


 一人で歩いているのはやはり手持無沙汰なので、俺は新しい術式を考えながらあるいていた。


 しかし、どのようにイメージしてもどうしても実現できない魔法が二つあった。


 ──おい、ジイさん。


 『ぐぅぐぅ……』


 ──寝たふりしてんじゃねぇ!


 余分な時には茶々を入れてくるわりに、こっちに用があるときは面倒くさがって寝たふりするとは、どこがOJTなんだか。


 『何に用かな』


 当然用があるから声をかけたんだがな。いっても仕方ないので文句は割愛して質問する。


 ──聞きたいことがあるんだが、転移とか飛行とか魔法でできないのか?


 この二つの魔法は、どんなに具体的にイメージしても実現しないのだ。例えば、視界に入る離れた場所に自分がいる様子を強くイメージしても転移しないし、自分が空中を移動する姿を思い描いても飛行できない。この世界では、魔法はイメージを実現するものとして実装されているということなので、具体的なイメージを持てば実現できるはずなのだが、おかしい。何か隠し事でもあるのではないかと、ジジィに問いただそうというのが趣旨だ。


 『あぁ、それか。そいつはな、たぶんイメージの仕方が間違っとるんじゃ』


 どゆこと?


 『お前さん、転移なら、自分が離れた場所に瞬時に移動するイメージでアプローチしとるじゃろ』


 ──ああ、確かにそのとおりだ


 『それがイカンのじゃ』


 どゆこと?(二回目)


 『大前提が二つ。人には転移も飛行も魔法では行えないのが一つ。二つ目は、お前さんは神だということだ』


 どゆこと?(三回目)


 『一つ目から、普通にイメージしただけでは、どれだけ具体的に強く思い描いても、転移も飛行もできない。それがこの世界の仕様じゃよ。なんでかなんて問は、意味がない。前任者がそういうものとして世界を生成した。それがすべてじゃよ。

 ただし、じゃ。神には裏技がある。裏技というと語弊があるが、神という存在故に可能となるやり方があるんじゃ』


 ──と、いうと?


 『神は遍在する。遍く存在するということじゃ。それにより実現可能となる』


 ん~~~。さっぱりだ。詳しくプリーズ。


 『神は遍く存在する。即ち、同時にどこにでも存在するんじゃよ。だから、今、ここにいるお前さんは、同時にこの世界のあらゆるところにおるので、任意の自分を具現化すればよいということだ。

 それが空中であって、連続して次々に別の場所に具現化すれば飛行しているように見えるわな。

 まあ、頭で考えてもわからんから、いろいろ試してみるんじゃな。

 ただし、確かにお前さんはあらゆるところに存在していることは間違いないが、今はまだ、見える場所か行ったことのある場所にしか顕現できないから、マップ使っていってないところに飛ぼうとしてもできんぞい』


 わからん。が、やり方が違うらしいということだけはわかったので、試してみるか。どうせ暇だしな。

煙に巻き方が杜撰すぎ~

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