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ご。

前回のあらすじ

イージスシステムを作っちゃったってお話。

 俺は、歩きながら《魔力標定レーダー》と組みあわせる攻撃術式の設定を組み上げていった。


 所詮は瞬時に使うためのパッケージなので、細かな出力調整は行わず、ざっくり五段階にしておいた。初めは三段階だったが、一段上げた際の出力差が大きすぎるように感じたので、段階数を増やしたのだ。


 その結果、結構な種類の攻撃術式をパッケージ化することとなってしまった。美しない。


 化学攻撃が、燃焼系×五、凍結系×五、電撃系×五の十五種類。物理攻撃が、弾体の種類別に岩×五、純鉄×五を用意した。実のところ、物理攻撃についてはあまり期待していないので、弾体の生成に手間を掛けたくなかった。そこで、どこにでもありそうな岩と【保存領域】に大量に保存している純鉄を利用することとした。


 各種攻撃術式を試しながら歩き続け、慣熟するよう魔獣を発見する都度、威力、発動速度を確認していたら、いつの間にか大量の魔獣を撃破していた。



  ホーンラビット  × 一二八

  ソルジャーアント × 九六

  ゴブリン     × ニ五六

  コボルト     × 五ニ

  オーク      × ニ九

  ミノタウロス   × 四

  ワイバーン    × 二



 このうち、素材価値のあまりないソルジャーアント、ゴブリン、コボルトについては、処理する手間を惜しんですべて灰にしておいた。


 ホーンラビット、オーク、ミノタウロス、ワイバーンは、必要な素材をはぎ取り、残りはエチケットに沿って焼却した。


 歩き続けて三日、魔獣とも暫くエンカウントしなくなってきたと思っていたら、遠くに集落をみることができた。




 ◇




 集落は、空堀を巡らし木製の壁に囲まれており、南面の壁に設けられた門に道は続いていた。これまで歩いて来て分かるように、魔獣の多く出る平野に近い村であるので、堀と壁で守っているのであろう。それほど大きな村ではない。人手が限られていることを考えれば壁が木製なのは致し方のないところなのだろう。


 俺は、門の少し手前で槍を持った二人組の門番に止められた。二十代ぐらいの小太りの男と、三十代ぐらいの痩せた男だ。


 「止まれ。この村に何か用か」


 声をかけてきたのは、年上の方だった。考えてみれば、そう訊ねられることは十分ありえるのだが、魔法に夢中で何も考えずに歩いてきたため、適当な答えを用意していなかった。とはいえ、考え込んだりしても不審に思われるだけなので、咄嗟に、


 「俺は、廻国修行中の魔術師だ。南の平原を抜けて来たのだが、漸く人里にたどり着いた。一晩厄介になりたいのだが、お願いできるだろうか」


 と答えた。廻国修行中以外は真実だが、廻国修行は怪しさ満点だったか。だが、もう一つ咄嗟に思いついた貧乏旗本の三男坊よりはましだろう。口に出した言葉は戻せないしな。


 「おお、あんた魔術師か。よく南の平原を抜けて来れたな。大したもんだ」


 どういうわけか、納得してもらえたようだ。


 「それであんた、治癒魔法は使えるか? 使えるなら助けてもらいたい者がいるんだが、お願いできるか」


 信じてもらえたかどうかはわからないが、魔法師には用があるというわけか。治癒系の魔法はまだ使ったことがないが、使えるはずだ。多分、感だけど。


 「助けられるかどうかは、その者の具合如何によるが、診てみることはできると思う」


 一応、言質を取られないよう、リスクヘッジしまくりの言い方をしてみる。


 「そうか。なら悪いがお願いできるか。見ての通り辺境の小さな村なので、大したお礼はできないが、どうかお願いしたい」


 俺が分かったと答えると、二人の門番のうち、俺に話しかけて来た方が村の中に案内してくれた。


 「俺は、ディータ。さっきのヤツはアルヌフだ。よろしく。早速だが、村長のところに案内するのでついて来てほしい」


 見ず知らずの者に丁寧に頼み込むとは、よほどのお人好しでなければ、相当困っているらしい。俺は、治癒に関する魔法知識を身に覚えのない知識の中から拾い出しながら、ディータの後をついて行った。



 ディータに少し大きめの家まで案内された。


 「すまないが、少しここで待っていてほしい」


 村長宅の玄関口で待つように言い残すと、ディータは中に入っていった。


 程なくして、ディータを連れた三十代半ばほどの小柄な男が現れた。


 「私は、アーダルベルト・ツー・ブルン。ご領主であるブルーノ・フォン・シュトラウス様からこの村を管理するよう命じられている者だ。

 この村は、昨晩ゴブリンの集団から襲撃を受けた。撃退はしたものの村の者に犠牲が出てしまった。中にかなりの重傷で村では治療のできない者がいる。医者のいる北のバーケンベルクにはとても運べそうにない程だ。今、若い者に医者を呼びに行かせているが、残念ながら間に合うかどうか。

 あきらめかけていたところだが、魔術師殿に治療ができるのであれば、是非にお願いしたい。何とか村人を助けてほしいのだ」


 と、丁寧にお願いされてしまった。まぁ、もう助ける気にはなっているんだけどね。


 「先ほど、案内してくれたディータさんにも言いましたが、患者の状態によりますので、必ず助かるとはお約束できませんが、できる限りのことはやってみましょう」


 俺がそう答えると、ブルンはホッとした表情で感謝するといい、


 「ありがとう。患者は、北にある集荷場で手当てをしている。案内するので、ついて来て欲しい」


 と、村長自ら案内してくれるようだ。




 ◇




 ブルンは、ツー称号持ちなので、貴族・準貴族階級の者だ。従って、こちらも丁寧に応じておいた方がリスクが少なかろう。


 身に覚えのない知識から掘り起こせた知識によると、ここはヴァンダル王国という王制の国だという。国土の七割弱は王領で、残りの三割強を領主貴族が治める形となっている。封建領主は残っているが、王への権力集中がかなり進んでいるようだ。


 貴族は、上級貴族である侯爵、伯爵、下級貴族である子爵、男爵、準貴族である準男爵、騎士、郷士と六段階に分かれている(騎士と郷士は同格)。また、公爵という特別な貴族がいる。公爵は、王家から分家し臣下となった者のみが叙される爵位で、貴族として最高の栄誉が与えられていることとなっている。もっとも、基本的に政治・行政に関与することはなく、領地も持たないので、実効性のある権力は持たず、王家の血筋を残すためだけに存在しているといっても過言ではない。従って、貴族の実際の最高位は侯爵となっている。


 また、王・貴族の称号は、領地を有するか否かで異なり、領地を有する場合には「フォン」、有さない場合には「ツー」の称号をもつ。領主貴族はすべて上級貴族である伯爵か侯爵に限られており、ブルンが自分がご領主に仕えている趣旨のことを言っていたので、シュトラウスは伯爵か侯爵であり、「ツー」称号持ちのブルンが領主に仕える下級貴族であることがわかる。このような辺境の村の代官であれば、準貴族が相場だろう。


 因みに、「ツー」称号持ちの貴族は、誰から叙爵されたかにより慣習的に扱いが違うようで、同じ爵位であれば、王に叙爵された宮廷貴族は、領主貴族に叙爵された陪臣貴族よりも格上に扱われるようだ。




 ◇





 それはさておき、村の北側にある集荷場に向かった俺は、結果として、村を南北に縦断することとなったので、概ね村全体の様子を眺めることができた。村の東側には特に被害は見あたらないが、西側の壁際の民家三軒が焼け落ちているのが見て取れた。ゴブリンの襲撃に伴い、失火・焼失したのであろう。村人たちが、焼け跡のかたずけ作業をしている姿があった。


 集荷場と名付けられた大きな建物に入ると、十数人が板張りの床に薄縁のようなものを敷いて寝かされており、村の者が手分けして看護している光景が目に入った。


 もともと、収穫した穀物や野菜を保管しておく建物であるようで、埃もひどく負傷者を収容するのに衛生上よくないが、これだけの人数を収容できる建物がここしかなかったのだろう。致し方のないことだが、ますます早く処置した方がよい思うようになった。


 鑑定によりザッと状態を確認すると、重傷者が三名、うち二名は手当てがなければあと数時間、残り一名は明日一杯持つかどうかという状態。残り九名は、普通に治療をすれば一週間から一か月程度で起き上がれるだろうという感じ。


 俺は、重傷者達が寝かされているエリアに向かった。


 彼らは皆、全く意識がなく、額に汗を浮かべて、浅い呼吸を繰り返している。特に重篤な二名には、あまり猶予がなさそうだ。


 しかし、治癒魔法をかけるにしても、その前に傷口を洗浄し消毒してからでないと、細菌等と一緒に瑕が塞がってしまう。洗浄だけでよければ《クリンナップ》が使えるが、これでは、消毒・殺菌効果までは期待できない。殺菌効果のある術式まで組んでいなかったため、今はアルコールを生成して、これで消毒するしかない。


 集荷場が不衛生なのと、ここでアルコールをぶちまけると術後またここで暫く安静にしなければならない患者のことを考えると、ここで治療するのはためらわれた。


 俺は、集荷場の外に施術用の小屋を用意することとした。


 ブルンに準備をするので患者を運搬するための戸板などを用意しておいて欲しいと告げ、いったん集荷場から屋外へと出た。


 外に出てあたりを見渡すと、東に少し離れたところに空き地を見つけたので、そこで《メイク・ヒュッテ》を起動した。


 いつもどおり四メートル四方の小屋が出来上がったので中に入ると、土を固めた処置台を生成した。


 【保存領域】から空の大きな木桶と椀を取り出すと、魔法で木桶に熱湯を注ぎ、椀を木桶に沈めた。別の木桶を取り出し、湯を注ぐと、生成した処置台にぶちまけて簡単な熱湯消毒を施した。


 小屋から出て、ブルンに患者を小屋に運び込むように指示すると、手の空いた村人数人を使って、小屋に運び入れてくれた。


 「患者は、そこの台に寝かせてほしい」


 と追加で指示をだすと、村人たちはそっと患者を処置台に寝かせた。


 一人目は、右胸を槍のようなもので突かれており、ずっと出血が止まらないようだ。


 運んできてくれた二人の男性に、患者の上半身を裸にするように頼むと、木桶に沈めていた椀にまず水を生成した。


 「念のため、確り抑えておいてくれよ」


 と二人の男性にお願いすると、生成した水で傷口をざっと洗い流し、《クリンナップ》を発動する。


 その上で、更に椀に今度はアルコールを生成して、傷口を消毒する。


 気を失っていたはずだが、患者が跳ね上がり処置台から落ちそうになるが、二人が抑えてくれていたおかげで事なきを得る。


 《鑑定》により、傷口が細菌等で汚染されていないことを確認すると、先ほど組み上げた治癒術式を発動する。


 《ハイケアー》


 負傷した男性の傷口があっという間に塞がり、損傷が回復したようである。


 「よし、これで安心だ。ただし、失血がひどいはずなので、体力が回復するまで暫くは安静にしておくのがいいだろう。次を運んできてくれ」


 目をむいて驚いている二人の男性に声をかけて、次の負傷者を運んでくるように指示を出した。


 指示された男性二人は、治療は済んだが、まだ意識のない元負傷者を再び戸板に乗せると、集荷場に戻っていった。


 次の患者が来る前に、俺は再び、木桶に熱湯を張って、処置台にぶちまけた。


 暫くすると、二人目の負傷者が運ばれてきた。彼は、腹部に大きな裂傷を負っており、たぶん鈍らな剣で横なぎに切られたのだと思う。一部、内臓にも損傷が及んでいるようで、よく今まで持ちこたえたものだと思ってしまった。


 一人目と同様に、処置を行い、三人目と入れ替えてもらった。



 三人目の治療が終われば、後は緊要性の高い負傷者はいないほか、ほとんどの者は自分で歩けるようなので、処置台を消し去り、腰かけを生成することした。


 今更ながら、範囲効果魔法があればよかったのにと思うものの、現状では、具体的な回復をイメージしながらでないと術式を完成できないため、一人ひとり対応するしかないのが歯がゆい。


 しかし、残りの負傷者は命に別状はないため、落ち着いて対応することとした。

元警察官といえども、医療従事者のようには消毒の仕方などの知識は持ち合わせていないので、なんとなくこんなもんだろうでやっていますね。助かってよかったです。

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