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記憶にございません

 うっわ……怖いな、今にも癇癪を起こして殴ってきそうだ。化けの皮が剥がれたか。

 勝手に勘違いした挙句、遠回しに自分の倍率上げることを要求? なんて強欲な奴。

 しかも生徒会長に釣り合わないとか、そもそも俺の方から勘弁して欲しいぐらいだ。


「いや、可能性は0じゃないしワンチャンはあるだろ? 倍率だけで人間性を——」

「いや、いやいやいやいやいやいや、無理ですよ。無・理ッ! あー、もう本当にただの馬鹿が叫んでただけじゃないですかァァァ」


 それでも可能性が0とか言われると否定したくなると、苺谷はイラつきが隠せない様子で両手をブンブンと振り回して否定する。


「まぁまぁ、落ち着けって」


 とりあえず冷静にさせるため、頭でも撫でてあげよう、そう思って手を伸ばす。


「ぇ、今何しようとしました? 冗談でもやっていいことと悪いことがありますよ?」


 しかし、その手はバチンッと赤くなるほど叩き落とされ。

 なぜだか、彼女の不機嫌さはさらに加速していた。


「聞いてますか、言ってください? 何しようとしてたんですか」

「いや……頭を撫でようとしていただけ、だけど」


 うんうんうん、と手を組みながら苺谷は指を弾ませて頷き。自分の髪の毛を指差した。


「だけ、だけですかッ?! これ、セットに何時間かけたか分かります? それを先輩程度の人間が崩して良いと思いますか、漫画かドラマの見過ぎですよ」

「あぁ……その、それは確かに悪かった」


 あまりの気迫に、謝罪の言葉が飛び出る。

 可笑しいな、少女漫画じゃ大抵黙る展開だからそうなのかと思っていた。

 俺は頭を撫でられたことなんてないし、

 それにしても、あの髪……そんな時間かけてセットしてたのか。


「はぁ……覚えてください、髪の毛は男女問わず『聖域』自分よりランクの高いモテる人のみが触れることを許されているんです」


 少し落ち着いてきたのか、苺谷はため息を吐き。

 まるで子供に言い聞かせるように教えてくる。

 

「鏡を見て客観視する能力をつけてください、先輩は少ししたら顔も忘れるほど特徴のないモブです。それはもう探すのにめっちゃ苦労するレベルで」


 念には念を押し。

 彼女ははこれまで声をかけてきた同級生たちをチラリと見て、小息を吐く。

 口ではヒロインにはならないと言っても、何も思わない点がないって訳ではないんだな。

 高嶺の花とか言って、自分をへりくだって傷つけなくてもいいのに。


「大丈夫、お前も負けず劣らず可愛いし、いつかネットで話題になって生徒会入りするんじゃないか? 生徒会長が俺に惚れて落ちる可能性もあるしよ!」


 苺谷の目が俺に戻り、少しだけ口元が緩む。

 

「もしかして慰めているんですか、別に最初からそのつもりですけど。先輩のこと好きになりそう」


 パッパッとスカートを払い、くるりと回って服装チェックした彼女ははにかむ。

 好き、今まで一度も面と向かって言われたことない言葉にドキっとしてしまう。

 なので、試しにもう一度自分の手を彼女の頭へ近づけてみる。


『バッチンッ』


 俺の手は動くと同時にはたき落とされ、苺谷はニコニコしながら微笑んできていた。

 ジンジンと赤くなり、少し震えている右手をさすりながら冷めた目で見返す。

 この嘘つきが、よくそんなデマカセばかりヘラヘラ言えるな。純粋な乙娘(おとこ)を弄びやがって。

 

「それにしても先輩はまだ腐った目で夢見ているんですか? 良いですか、よく見開いて生徒会長を見てくださいよ」


 苺谷が指差すと群衆の隙間からドームへ入ろうとする生徒会長の横顔が見える。


「あの人が、先輩のヒロイン? もっと自分磨きしてから言ったらどうですか、視界にすら入らないですよ」

「0.01%だろうと可能性を言っただけだ、間に受けんなよ。恥ずかしいだろ」

「まったく、そんな風に向上心がないからモテないんですよ」


 露骨に「はぁぁ」っと息を吐き出して両手を上げる苺谷に、何言っても馬鹿にされると悟る。

 結局のところ、勘違いさせた腹いせがしたいだけなんだろう。

 それならそうと好きにさせれば、

 ——不毛な争いをしているその刹那、行き交う生徒たちの頭と頭の僅かな隙間。


「っん……?」


 そこを縫うように見えた生徒会長の目線が僅かの間、俺と合ったような気がした。

 

「「っえッ?」」


 彼女の眼差しがキラキラと輝き、ウィンク。


「——ゔ、ゔぉぉぉぉぉぉぉおおおおお゛っ!!」

 

 冷静に考える時間もなく周辺が湧き立ち、鼓膜を刺すほどの音量が轟く。

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