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あなたもあなたも

「君の前前前世から僕は君を探し始めたんだよ〜」


 状況が追いついていないまま固まっていると、女の子は急に歌い始める。


「くッ、臭いだろ、離れろ」

「えっ、臭いですか? そんなキツイ香水でもないはずなんですけど」


 匂いを指摘した途端、パッと機敏に反応した女の子は距離を取って手首と制服の襟を嗅ぎ始め。

 そんな行為に安心し、俺は後退りして距離をとりながら胸を撫で下ろす。


「むっ、さすが先輩、引き剥がす嘘だったんですね? 見事に騙されました」


 別に嘘という訳でも無かったし、勝手に勘違いしただけだが、わざわざ訂正する必要もない。

 それにしても急に抱きついたりして、なんなんだ? こいつは。

   

 距離が取れたことで改めて、頬を膨らませて怒っているとアピールしてくる女の子の全身を観察する。

 肩に少しだけかかった毛先はゆるいパーマがかかっており、キラキラした黄色いシュシュを腕につけたオシャレな人。

 長いまつ毛と控えめなメイクで、元々も凄く整った顔立ちだと分かる。

 お椀型に膨らんだ胸、引っ込むところは引っ込んでいてスタイルも良い、サッカー部のマネージャーでもしてそうな女の子。

 間違いない、この子はモテる。

 

 だからこそ、分からない。

 一体なぜ、そんな美少女が俺に抱きついて先輩と呼んでくる?


「俺には仲が良い後輩どころか、知り合いもいない。お前はだ——」

「っあ、おはようございますっ! 先輩」

「っえッ?! あっ、あぁ、おはよう」


 声をかけたタイミングで、彼女は他の男子生徒に気付き。

 後ろ手にくるっと挨拶し、彼にはびっくりされながらも照れた返事をされる。


「おはようございますー、先輩っ!」

「ッア、お、おはざ……す」


 その後も他の生徒が通っていく度、女の子は「先輩」と元気に挨拶を続けていく。


「わざわざ入学する先輩たちを見送りか、マメだな」

「っはは、先輩は面白いこと言いますね? じゃ、入学式に行きましょう」


 俺の腕に手を通し、胸を押し付け、女の子は一緒に歩き出そうとする。


「いやッ、ちょっと待て! まさか、お前も入学式に出るのか?」


 俺が動かないと、自然と引っ張る形で止まった女の子は不思議そうに振り返って来る。


「当たり前じゃないですか、先輩」


 何を聞いているんだ、そう俺の方が可笑しいような顔で見つめ返し。

 ジャケットを見せびらかすようにパタパタと開いて、同じ制服であることをアピールしてくる。

 近くの学校に似た中学の制服が付近あるかと思っていたけど、もしかして違うってことか?


「飛び級は?」

「嬉しいことに、してないですねぇ」

 

 ごくごく普通に答えてくる彼女との間に、なんとも言えない空気が流れる。


「俺は今年で高校一年生になって入学式にでる」

「そうですね」


 自分のことを指差し、

 

「それでお前も入学式に出ると」

「ですね」


 次に彼女を指差し、一つ丁寧に聞いていく。


「そんで、俺とか他の奴らは?」

「えっへぇ〜、せぇーんぱいっ!」


 こてっと頭を傾げ、天真爛漫に輝く可愛らしい笑顔が俺だけに向けられ。


「——ッハ」


 一瞬、心臓に頭突きされた衝撃が走り、視界が真っ白になる。

 あっぶねぇ……心停止するところだった。

 ドキドキするな、そうじゃない、そうじゃないだろ! 俺。

 

「普通の学校でこんな笑顔を向けられたことないからって、騙されるな」

 

 まだ鼓動している左胸を無理矢理押さえ、深呼吸を繰り返し、声を出して自分に言い聞かせる。


「ようはお前……同級生を先輩って呼んでる変人ってことか」

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