「約束」
吾輩は美穂である。
後ろ向きな兄の妹である。当たり前だけど。
その兄とやらが落ち込んでいるらしい。
ま、知ったこっちゃないね。
私は私で私生活を楽しんでいくのだから!
え?受験勉強?
なにそれおいしいの?
それより、春のコンクールの結果が早く知りたくてしかたがない。
どうなるだろう?
高校は中学よりも一足早く発表したっぽい。
多分、兄は残念な結果だったのかな。
あのネガティブさはどうかと思うけど、あんなけ頑張ってて残念な結果だったのならしゃぁないかな。
……はっ!いやいや、どれだけ残念な結果であろうと、男がめそめそするのはいけない!
うん、そう。
そういうことにしておこう。
危ない危ない。
危うく兄を擁護するところだった。
私はブラコンではない。
絶対ない。
断じてない。
……よし、オッケー。
「しっかし暇だなー」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」
これからの予定を立てていたら変なことをつぶやいてしまった。
「いつだったっけ?春のコンクールの発表」
と結月に聞く。
確か一週間後だったと思う。
「多分二週間後かな」
予想より一週間多かったぁー!
はぁ……。
机にへぼーと項垂れる。
まだまだ先かぁ……。
「一週間たったぞー!」
「急にどうしたの⁉」
あ、いつもの癖で考えていたことを口に出してしまった。
いけないいけない。
けど、後半分!
後半分待てば発表!
半分……半分か……。
おし!こうなったら別の小説でも作って気分紛らわすか!
「えいえいおー!」
「美穂ホントに大丈夫⁉」
「よし。やっと発表だぞー」
「なんか元気ないね。大丈夫?」
机にへぼーと引っ付きながら言っていたらそりゃ大丈夫か疑うわな。
けど、やっと、やっと!
今日で発表!
もう気になり過ぎて昨日は全然眠れなかった!
おかげさまでただいま絶賛お昼寝中!
なぜ机に引っ付いていたかと言うと、そういうことです。
眠たかったのです。
ただそれだけです。
「美穂ー。しっかり受験勉強してる?」
「あのそっちの心配より私の健康の心配をして欲しいな」
「春の小説コンクール。結果発表をします」
女の先生が淑やかに言った。
「このクラスは銀賞一名、金賞一名です」
はっ!金賞がこのクラスにいる⁉
これは私が金賞を取れる可能s――⁉
「銀賞、坂口 美穂」
可能性すら言わさして貰えなかったー!
うぅ……。やっぱ金賞は遠いなぁ……。
にしてもこのクラスでの金賞の人って誰だろ。
「次、金賞。花結 絢斗。おめでとう」
絢斗くん……ねぇ……。
「あー銀賞だー。ワーウレシイナー。はぁ……」
結局金賞は取れず仕舞いだった。
「あぁ、私に金賞は無理な壁でした……。兄が正しかった……!」
と、冗談をかます。
そんなことで折れる美穂じゃない。
折れている暇があったら次に備える!
それが美穂流である。
別名根性流。
そんなものはない。
「ねぇねぇ」
ツンツンと結月が私を突いてくる。
「なぁに?」
「絢斗って美穂の好きな人?」
「だからその前に私の心配をしてほしいな……」
結月は私の心配はしてくれないらしい。
「で、なんて?」
「前、美穂と一緒に恋バナした時に、美穂、絢斗くんのこと好きって言ってなかった?」
「あの、せめて声小さくして……?」
音量がデカい。普通に周りに聞こえるって……。
「で、どうなの?絢斗くんのこと好きなの?」
「私は……なんでもなーい」
「えぇ!?言ってよぉ!」
「言わなぁい」
ただの、青春の日々である。
「兄ー!この小説見ろー!」
「いやだからなんで僕なのさ。僕は編集者じゃないんだから」
「見てくださいお願いします」
「……」
「……どうしたの?」
「いや、なんでも」
いや、なんもない訳ないでしょ。
どう考えても落ち込んでる。
兄はネガティブだから直ぐ落ち込むけど、今回はなんか違う。
いつもは小説書いたり、誰かの小説見たりして気分を紛らわしてるのに。
「ねぇ、話してくれない?何があったのか」
「単純に、今回も、残念な結果だっただけ。」
「ホントにそれだけ?」
「……自分の友達が市長賞を取った」
なるほど。
自分より上の人が友達にいて落ち込んでる訳か。
「そんなの、よくあることじゃん」
「……でも、もう嫌なんだよ!何回も同じことを繰り返すのが!」
兄は吹っ切れたようで、叫んだ。
でも、そこには今までの努力が裏切られたというように、涙が目に浮かんでいた。
兄は昔から小説家を目指していた。
だから、色んな工夫をして、小説を書いていた。
その熱量は凄かった。
兄の小説はホントに面白い。
少なからず、そこには才能があった。
ただ、天才ではない。
でも、天才である必要はないと私は思う。
だって、その小説が、私と、ある人の心を暖めたのだから。
ある人。
兄にとって大切なあの人。
「でもさ、花音ちゃんと約束したんでしょ?絶対に世界一の小説家になるって」
私はそう言った。
この言葉が、兄の心に刺さることを願って。
この話の最後の兄を説得するところの流れが全然思いつかず、物凄く作るのが遅くなりましたっ!
このあと、兄はどういう風になるのか!
乞うご期待ですねっ!