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夢を叶えるもの +  作者: 山本 2k
第一部「高校入学と克服」
3/28

外伝「美穂・オリジン」

蒼空そら。これ読み終わったよ」

「ん。ありがと」

そこは小学四年生の教室だった。

僕――坂口さかぐち 蒼空そらは、小学一年生の時から小説にハマり、その後から小説を書くようになった。

今となっては、将来の夢だ。

小説家になるためにも、僕はある友達に自分の小説を読んでもらっていた。

「今回の小説はどうだった?」

と僕が聞くと、

「もう、私がその物語の世界に入ったみたいな……とにかくすごかったよ!」

「ハハ。そりゃよかった」

「私は蒼空の物語が世界で一番だと思うなー」

あはは、と笑いながら僕は「それは盛りすぎだよ」と返した。

と言いながらも、彼女の言った、「世界で一番」という言葉が世界で一番嬉しい言葉だと思った。

なにしろ、

「そんなことないよ。だって蒼空の物語、表現が可愛いし」

彼女――花結はなゆい 花音かのんのことが、僕は好きなのだ。

もちろん、誰にもこの気持ちは言っていない。

言っていないはずなのだが、この前僕の親友の目片めかた 颯真そうまに、

『お前、花音のことが好きなんだ』

と断定の形で言われてしまった。

そんなことどこで知ったと聞けば、

『いや、見ればわかる』

と言われる始末。

そんなことは置いといて、少なくとも花音ががっかりしてしまうような物語は、小説は作りたくない。

それが一番大切にしていることだった。

そんな僕を、花音は応援してくれた。

僕の小説を読むこともあれば、アドバイスもしてくれて。

花音は「友達の為だもん」って毎回言ってるけど、なんだかそれだけじゃない気がしてしまう。

ただの僕の妄想だとは思うけど。

とにかく、頑張って、いい物語を作っていこう。


お母さんみたいに。



美穂みほも小説書きたい!」

家に帰った時の第一声目がそれだった。

小学三年生の妹。

そんなのに、上目遣いでねだられてどう反応すればいいのだろうか。

っていうか、玄関で言うのか。

待ち切れなかったのだろうけど。

「はぁ……。分かった。けど、やり過ぎると目が悪くなるからな」

僕はお母さんが使っていた事務室のパソコンで作業をする。

妹には僕の作業の隙間にでもやってもらおう。

どうせすぐ飽きるだろうからな……。


「美穂もパソコン欲しい!」

三日ぐらいで飽きると思ってたんだけど。

一か月も続くとは……。

はぁ……。

美穂は自分の物語を作り出して、それを完結させると言った。

思ったより、ハマっているらしい。

流石に一台のパソコンでは限界がきた。

「美穂がパソコンが欲しいって言ってました。でも、親なら娘の心配を……」

とお父さんに相談した。

そしたら、

「兄なら、妹の願いを叶えたいと思わないか?」

あぁ……、これが親バカか……。

と思った。

まぁ、妹とお父さんがやる気である以上、止める必要もないか。



「蒼空!」

向こうから花音が走ってきた。

「新作できた?」

まるでテレパシーでも持っているようなタイミング。

「うん、丁度できたよ」

と、昨日プリントアウトしてきた小説を渡す。

小説掲載サイトなどに掲載してもいいが、あまり乗り気にはなれなかった。

ただ、花音に僕の小説を見てもらいたかっただけかもしれないが。

「ありがとう」

と言って踵を返す。

途中で足を止めた。

そしてこっちに帰ってきて、

「蒼空って小説家目指してるんだよね」

と言った。

「あ、うん。一応ね」

正直、実際に小説家になれるとは思えなかった。

小説家を将来の夢にした最初の頃は、実際になれると思っていたけど、もう、そんな年でもなかった。

まぁ、小学四年生なら許されるだろうけど。

少なくとも僕はその夢を目指すのを諦めてしまった。

別に深い理由はない。

諦めてしまったからだ。

嫌になってしまったからだ。

ただの妄想でしかない夢を追いかけるのが。

だけど、なのに、

「じゃぁ、世界一の小説家になってよね。絶対だよ!」

その花音の笑顔が、僕の夢を叶えてくれる。

そう思ってしまった。


この頃、蒼空の妹である美穂は小説を書くようになり、蒼空自身は小学一年生の時に夢見ていた小説家の道を歩み始めることとなる。

これは美穂の原点でもあり、蒼空の変換点でもある。

少なくとも、蒼空は花音の笑顔を見て、自分が何をしたいかに気づいた。


花音を悲しませるような物語は作りたくない。

感動させる物語を作っていこう。

僕はそう思った。

そんなことを考えていると、ふと視線が合った。

物陰からこちらを見ている赤毛の少女と。

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