エピローグ
「のどかだね~」
小春日和の中庭で、のんびりと過ごす。
年の暮れ、季節は冬だというのに、学園内は柔らかい空気が広がっていた。
学園では、スーフィフル・ホスタイル教諭の退職が告示された。
急なことだったものの、年次末なのもあり、さほどの混乱なく生徒たちに受け入れられた。
むしろ先日の書類不備による損失計上の責任を取ったからじゃないか、さすが高潔なるホスタイル先生だ、とその決断、潔さが称賛された。
以降、彼の消息は知らされていない。
まぁ元々が内部生担当の講師だったし、外部生のわたしたちにはほとんど影響のない、無関係な話ではある。
でも、ハッキリと変わった事もあった。
明らかに、学内の雰囲気にゆとりが生まれたのだ。
王太子一派は相変わらずだ。
しかし当人たちの求道者的態度とは別に、そもそも他者への威圧なんて最初から無かったんじゃないか?というほど、一般生徒たちを監視する疑心暗鬼な視線が消えた。
具体的には、風紀の方針転換があり、放課後の街歩きが一部解禁された。
あくまで学園生徒の節度は守るように、と言い聞かされたが、帰宅途中の各店舗への立ち寄りなどの規制が無くなったため、王都の学生文化が数年ぶりの復活をみた。外部生の中には、イキイキとアルバイトを始めた生徒もいる。
「最っっ高!」
締め付けがゆるくなった具体的な理由は知らないけど、わたしにとっちゃ朗報でしかない。おかげで友達皆んなと、久々の寄り道だって楽しめる。
学期終わり前に、今まで出来なかった学生生活の楽しみを全部取り返す勢いで、街遊びに繰り出したりした。
節度?貴族は贅沢してなんぼでしょ!
あぁまぁわたしんチは、ちょっと前に大出費しちゃったせいでお小遣い寂しいけれども…。
発端だったエルサの論文は、権威ある薬理学研究室から問題なしの認定を貰って返ってきた。
研究論文としてはまだまだ未熟で穴もあるものの、学生としてはよくまとめられている、との寸評付きで。
この報告書をもって、エルサの所属してた本草薬学クラブは、止まっていた部費が正しく執行されるようになり、対外発表も解禁された。雑費を立て替えていた部員たちは胸を撫で下ろした。
併せて、数人が代表し、正式にエルサに謝罪を申し入れた。
特に内部生の先輩なんかは、外部生一年のエルサに頭を下げるなど屈辱だったろう。でも、自分たちが空気に流されエルサを針の筵に座らせ続けた事を真摯に詫びて、エルサもそれを受け入れた。
実情を聴けば予想通り、ホスタイル氏が劇の脚本に不快感を示してエルサ排除を思いつき、内部生たちへ圧力をかけてたそうだ。だから一応は、内部生たちも被害者なんだろうな。わたしはそれでも、そんな理不尽な要求は突っぱねるべきだったと思うけどね。
まぁ結果的にこの騒動が、ホスタイル氏失脚の致命的なきっかけとなったわけで、人生何が災いになるかわからない。
油断大敵。わたしもしっかりと肝に銘じておいた。
エルサは中断してた研究がつづけられるだけで十分だ、と言ってる。自分のだけじゃなく、先輩方の分も同様に。
だから正常化したなら喜ばしいし、これ以上不満を言う気は全く無い。
「それに私には、アンバーやフィーユたちが居てくれたから……」
と、はにかんでた。
クラブで孤立させられてたエルサを独りにさせないため、わたしたちはクラスや部活休みの放課後には、常に誰かがエルサと一緒にいるようにしていた。
どうしても辞められない事情のあるクラブで精神を擦り減らしちゃうのは仕方ない。それ以外では、皆んなあなたを愛してるんだよ、と積極的に伝え続けた。
特に、某ドシップ商会子息のフレンくんは、少しの時間でもあればエルサのもとに脚繁く通い、誠意を伝え、彼女の心に寄り添う努力を重ねた。
(わたしと裏工作で駆けずり回ってたはずなのに、いったいどうやって時間を捻り出してたんだ??)
他商会との折衝とか裏帳簿の管理とか、結構無茶振りお願いしてたのにね……。架空の商会を大量に作って公共銀行から引き上げさせたのは彼の手腕だ。悪どい事を見事にやってのけた。
これも愛の力か。まぁそれだけの成果を上げた今回の殊勲者だから、多少のご褒美は目をつぶってあげよう。
結果、エルサは生来の朗らかさを失わずにこの半年を乗り切り、名誉回復を勝ち取った。
そんな友達たちを持てた事を、わたしも誇らしく思ってる。
紅茶の湯気をくゆらせて、わたしは冬の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。




