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種明かし

「あら、まだ学園にいらしたんですね、先生」

「誰だ!」



 電灯もつけずに頭を抱えうずくまっていたスーフィフル氏は、掃除道具を手にズカズカと入ってきた人物へ、怯えるような声で叫んだ。


「ラフネス…っ、何用だ!勝手に内部棟に入ってくるな!」

 わたしの顔を見て、憎しみに満ちた表情を歪ませる。



「謹慎が終わったのにまだ講義をサボられてるというから、もう教職をお辞めになる決心がつかれたのかと思いましてね」

 空室のお掃除をしに参りましたのよ、とおほほと笑う。


「もう一度言う。ここはお前のような下賤な者が来るところではない。出ていけ」

 イラつきが全面に出ている。人を殺しそうな目だ。いや、実際にひとり殺してるんだったっけか。

 顔つき全てが、わたしの嫌悪感を掻き立てる。



「そうやっていつまでも学園に隠れているおつもりですか?」

「何が言いたい?」

「借金取りは怖いですものね。職を辞しての退職金でも、まだ完済には足りないですもの」

 くすっと笑ってやる。

「貴様…っ!」

 案の定、逆上して掴みかかってくるのを、近くにあった椅子をぶつけて止める。ぐふっと呻くスーフィフル氏に改めて座るよう促し、わたしは楽しいネタばらしを始めた。



「もうじき公証役場から、債権を買い取った連中が先生を訪ねてくるかもしれませんわね。おもてなししなきゃ」

「ぐ…っ、貴様、どこまで知っている?!」

「借金の額からなにから、全~部♪」

 忌々しく吐き捨てるスーフィフル氏の苛立ちが、実に楽しい。わたしは相当、性格が悪いのだ。


「……まさか、お前が俺を嵌めたのか?」

 ニヤニヤと笑う事で、応える。




「一体どこからだ」

「どこからだっていいじゃない。あんたはホスタイル、わたしはラフネス。お互い相手を食い殺す関係なんだから、どうなろうが必然ですわよ」

 馬鹿にしたような物言いに、スーフィフル・ホスタイルは我慢ならず激昂した。


「お前か…、お前が元凶なんだな!俺の借金はお前のせいなんだな!なら、お前が代わりに払え!お前が責任もって金を出せ!」


 吼えるように叫び、物を弾き飛ばしながら飛びかかってくる。そこを狙いすまして、鳩尾に向けてブラシの柄を突き刺した。



 ごふっ!と吐き噎び、悶絶するスーフィフル氏。


(ホント、簡単に挑発に乗ってくれるから読み易いわ)

 人間、脳が憔悴しきっては、冷静な判断など出来やしないんだろう。


「何言ってんの、借金は正真正銘あんたのもんでしょ。わたしをどうこうしたって変わらないわ。頑張ってお国のために完済することね」

 多額の負債を抱えた王国民は、国の管理下で強制労働に従事して返済する義務を負う。闇の組織に借金して五体や命を損なうより、よほど良心的な制度だ。


 元貴族の傲慢な男が、耐えられるかどうかは別にして。




「ぐうぅ…、ラフネス、貴様…っ!」

 咳き込み苦悶しながら、なおわたしに危害を加えようと立ち上がりつつ、ふと気づく。


「……いや、ラフネスはあの時に断絶したはずだ……。今は死にかけのジジババしか残っていない。あのクソ野郎から姉さんを取り戻す時に、フェアネス侯と共に調べ上げたのだ。

 縁戚は全て把握しているし、あのクソ野郎の愛人たちにも全員当たり、子がいたり妊娠したりしている者は誰もいなかった……。


 このまま放っておけば取り潰しになったはずのラフネスに、血類だといって入り込んだお前は、いったい、誰だ……?」


 さっきまでの憎悪ばかりだった男が、急に冷静に、そして不思議そうに言い出した。




 わたしは呆れてため息をつき、

「ウチを疎ましく思っているはずの王家ですら、正統だと認めたラフネスの血縁を、たかだか子爵家の厄介身分の男が偉そうに囀ってくれるものよ……」

 たまらなく不快になった。わたしはこの男と同じ空間に居るのが嫌になって、後は借金取り達に任せて立ち去ろうとする。


「いや待て、お前のその年齢は確か…まさか、そんな……っ」

 それを男は呼び止める。


 十何年も前に見た、かすかな面影を思い出し、


「アンネセ……」



 ガツンッ!!と思い切りブラシの木頭で殴り飛ばし、男を昏倒させた。


「あんたみたいな小者は、余計な事知らなくてもいいのよ」



 わたしはサリー・ラフネス。田舎伯爵家の娘。







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