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公共銀行モラトリアム

 成功させるために、ありとあらゆる手を尽くした。

 でも、上手くいくかどうか、不安は残る。確信が持てるまでは、焦ったく思っていた。


 正直なところ、それの金勘定が気になって、授業もうわの空で手につかなかった。

 おかげでここ半年で成績はボロボロ。



 その苦心が、報われる。

 





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「だから!今預けている分をとりあえず全部下ろしたいと言ってるだけだろが!」

 開業早々から、ズラリと並ぶ公共銀行の窓口のいくつかで、怒鳴り声が上がっていた。



「ですから、急に全額引き上げると仰られましてもすぐにはご用意は難しく……」

「そう言って俺たちの金を取り込むつもりなんだろ!」


 早朝に一日分の手形取り引きなどに訪れていた客たちが、何事かと覗き見る。

 大声をあげる男たちはバラバラで、そのくせ一貫して「預けている金を引き上げたい」と要求していた。

「知っているんだぞ!この銀行は潰れそうなんだろ!だからそう言って俺たちの金を奪おうとしてるんだ!新規の客だからって舐めるなよ!その前に、ウチの金は返してもらうからな!」

「どこでそんな出鱈目を…っ!?」

 窓口の職員は驚き、そして謂れのないデマに怒りをあらわした。


「出鱈目だと言うのならウチの金をおろしても問題ないだろうが!さぁ早くウチのだけでも返せ!」

「言いがかりには断固拒否します!当銀行が潰れるなど誰が言っているのですか!」

「あぁ誰も言ってねーよ!俺たち商人の中で噂になってるだけだ。噂は噂、信じる必要はない!さぁだから何も心配せず、俺らの金だけは先に出せ!噂が広まる前に、だ!」



 双方が鬼気迫る顔で罵り合いをする。そんなやり取りが、いくつかの窓口で展開される。

 客側の商人たちの方が必死なようだ。自分たちの金を確保しておかないと死活問題だとばかりに、早く全額降ろさせろと言う。



 他の客たちは公共銀行が潰れるなんて噂、聞いた事ない。第一、公共銀行が潰れるわけがない。

 でも、なんとなく、今日の取り引きはやめといた方がいいかもしれない。


 何人かがそそくさと金と手形を包み直し、銀行を後にした。

 その者たちは、店や家に帰り、公共銀行で見てきた事をポロリと話題にする。




 公共銀行が不渡りを出した。





 公共銀行の不渡りといっても、重なった取り付けに銀行側の準備預金が足りなかったため、国の指導でモラトリアム期間が設けられただけの事だ。

 この期間に、額面に足りる資金を集めて対応する。さほど多い件数ではないので、数日で準備出来るだろう。


 一方で、引き下ろしを申し出てきた商団のいくつかに説得も試みる。

 彼らはどこからか聞いた銀行の破綻危機などという、荒唐無稽な噂に踊らされただけの事だ。新参の商家が多く、経験が浅いためにちょっとした事でパニックになった。それを責めるような真似はしない。安心して預けておいてくれればいい。



 だが、モラトリアムの間にも、続々と投資の停止や預貯金解約の予約が入ってくる。

 最初の商人たち以外の大小様々な商店や富豪などが、とりあえず一度利確をしておきたいと言って資金の引き上げを申請してくる。その対応にも追われ、銀行のモラトリアムはズルズルと延びた。

 それがまた、不安を煽った。




 トドメは商業ギルドが、とある商団を不正取り引き容疑で国に告発した事だった。


 違法な商取引で不当に利益を上げた商団があり、市民生活に損害を与えた、という。

 その違法商団が利用していた銀行が、王都公共銀行だった。


 銀行での会計に国からの監査が入り、国の司法を司るリヴァル侯爵家が全面的に調べるという事で、事態の終息を計ろうとされた。

 当然、その過程で疑わしきいくつかの口座が差し押さえられ、銀行の業務は凍結された。全て、いつの間にかねずみ算式に増えていた新規顧客の口座だった。



 引き留めたはずの流出が、全て仇となった。






「ふ…っ、ふざけるなっっ!!!」

 閉鎖されてる銀行の応接間で、スーフィフル・ホスタイルの怒号が響いた。


「申し訳ありませんが、貸し付け審査は却下という事で御了承いただきたいのです」

 頭取が頭を下げる。

「なにぶん当方も業務が立て込んでおりまして、これにてお引き取りを」



 公共銀行はそれどころではないのだ。出処不明の取り付け騒ぎからリヴァル侯爵家による捜査という名の契約口座差し押さえで、疑義に信憑性が付いてしまったのだ。今や契約顧客たちからの問い合わせがひっきりなしに来ている。

 まずは破綻を回避するために資金を調達しなければならない。貸し剥がしを進めている時に、新規のローンなど認可出来るものか。



「それでは困る!こちらはもう公証役場に手形を持って行かねばならないのだ!申請は通っているはずだ!即刻発行しろ!」

「ですから、不可能です」

「私はホスタイルだぞ!」


 スーフィフル氏の怒声に頭取は(やれやれ…)とばかりに頭を振り、

「お客様のお帰りだ。玄関までお送りさしあげろ」

 と部下に命じて立ち上がった。



「待て!話は終わっていない!取り引きを不当に断るなど許されないぞ!」

 なおしつこく絡むスーフィフルにため息ついて、

「私共ではご要望にお応えしかねます。他銀行でご相談されるのがよろしいかと。それに……」

 冷め切った見下す目で、

「こちらはフェアネス直営です。お心得違い無いように」


 銀行構内から叩き出した。







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