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成功への契約

 事前交渉はまとまり、後日改めて公証役場で正式な契約を交わす事となった。



 その前に、頭金としてまとまった金を用意しなければならない。

 ローンの心配はしていない。そっちはアテがあるし、高い信頼度で自信もある。だが、今のホスタイル家に頭金を払える余剰金は無い。



 共に交渉の席に座っていたお抱え商人に、馬を買わないか?と打診してみる。

「え、ホスタイルブランドの馬を私共にお売りいただけるのですか?!これは望外の喜び!是非お願いしたく存じます!」

 思わぬ幸運のおこぼれに、商人は無邪気に喜びを露わにした。


「あぁ、キミには世話になっているからな。売るならほかでもない、キミの処が相応しいだろう。それを頭金にしたいんだが?」

「勿論相応しい値で買わしていただきますとも!なにせホスタイル様所有の馬となれば、他とは箔が違いますから!」

 実によく分かっている男だ。田舎商人でありながら、物の価値というものを理解している。


「キミと私の仲だ。気にするな」

 実に気分が良い。教職などという埃臭い仕事などより、私こそが子爵家の当主になるべきだったのだ、と今でも思っている。まぁロジェール侯に請われて分家独立を選んだのだから、仕方のないことではあるが。



「だがそうなると、愛馬たちのためにキミから買った飼葉が不要になってね……」

「あぁコレは気がつかず、失礼をばいたしました。当然、一緒に私共の方で引き取らせていただきます」

 ホスタイル家の馬を所有できる事になってホクホク顔の田舎商人は、スーフィフル・ホスタイルの提案を無邪気に全て受け入れる。


 人の禍福は糾える縄のようだと言うが、学園の謹慎処分などというのは、実につまらないものだった。そのおかげで出来た時間で、私はなかなかの幸運を掴もうとしている。実におもしろい。

 そもそもが、ロジェール侯に一目置かれているほど優秀な自分が、一教師として終わるなどあってはならぬ話なのだ。




 商人に頭金となる金を準備させ、自身は王都公共銀行に融資の申請を結びに行く。

 ここは王国で最大の資本金を持つ銀行だ。

 “公共”というが、国営ではない。実質的なオーナーは、貴族の中の貴族と讃えられたフェアネス侯爵家なのだ。


 国家運営の中枢を担い、公正中立を謳った侯爵家の圧倒的信頼度で、公共の銀行と認められている。口座を持つだけなら商人ギルドの紹介さえあれば簡単ながら、当然、堅実な経営のために融資の審査は厳しい。



 しかしながらこのスーフィフル・ホスタイルは、身内と言ってもいい男だ。貸し付けの認可はすぐに下りるだろう。

(最近は特に新規顧客が増えて景気が良いと聞く。融資の紐も弛むだろう)

 なんならそのフェアネス家にも、鉱山開発の出資者として一枚噛まさせてやってもいい。



 自信満々で審査を申し込む。今回の自分の仕事ぶりを職員どもに語ってやろうか、とすら思える。

 開発が軌道に乗れば、じき自分も貴族位に返り咲くだろう。成功談は家名を飾るのにもってこいだ。今ならその逸話に、君たちの名前を加えてやってもいいぞ。



 銀行員たちにニコニコとした顔で丁重に見送られ、スーフィフル・ホスタイルは自分の出した成果に大満足で帰路についた。




 そのローン審査の結果が出るまで、数日待つ。

 スーフィフル・ホスタイルは鷹揚に構えていたが、炭鉱主から頭金を早く支払ってくれないかという要請が届いた。


 この私に指図するつもりか?と一瞬不快になったものの、どうやら炭鉱主にはスーフィフル・ホスタイル以外からも鉱山の問い合わせが届いているらしい。



「恥ずかしながら私めは負債を抱えており、その債権者が借金の形に山を寄越せと強請ってきておりまして……。早く頭金で負債を完済し、売れ売れと脅迫してくる奴らから逃れるために、正式に手放したいのです……」

 と、スーフィフル・ホスタイルが考えているよりも切実だったようだ。


 どいつもこいつも競売前に安く買い叩いて手に入れようと画策していたようで、炭鉱主からすれば王国貴族で名の通ったホスタイル家に売却するという大義名分で、早くこの荷を下ろしたい、と考えた。



「分かった。譲渡の調印だけでも先に済ましておこう。これより貴殿は、我がホスタイル家の庇護下だ。安心なされよ」

 公共銀行からの貸し付けの書類はまだ揃っていないが、数日前後するだけだ。まず目の前の困っている老人を助けてやるのが、貴族としての矜持というものだろう。



 お抱え商人を呼び出して、すぐに馬の代金を揃えさせる。それを持って、老人と公証役場に赴く。

 書類を申請し、登記を確認し、公証役人とお抱え商人が証人欄にサインして、鉱山の売買契約はロワイヨーム王国の名の下、正式に受理された。


 スーフィフル・ホスタイルの成功への扉が開かれた瞬間だった。










「━━━━よし、釣れた」

 待ちに待った知らせに、わたしは握り拳を突き上げた。






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