ホスタイル家
王都の庶民たちに比べ、地方に領地を持たない王都貴族たちは物価上昇の影響をモロに受けた。
お抱えの出入り商人たちが、口を揃えて物価の高騰で懐具合が苦しい、理解して欲しいと言うので、強く出れない。
必要経費の増加は、それだけ各家門の家計を圧迫する。
国も同じだ。
内政問題なので国から物価押さえ込みの財政支出があり、めざとい商人ギルドは自分たちが商品価格を釣り上げてる立場でありながら、国に対してその資金の貸し付けを提案する。
お上に恩を着せながら金を貸せたのは、大きい。商人ギルドは今回の景気変動を、ホクホク顔で歓迎した。
困ったのは、王都に邸を構える貴族たち。
その中でもホスタイル家は、貴族の名誉で競走馬を多数所有していた。家格に合わぬくらいの数を揃えていた。
家門で郊外に牧場を持ち、専門の職員を雇って飼育している。
その飼葉飼料が、高騰した。
生活必需品でないため、国からの助成金の対象から外されている。しかも商隊キャラバンが減便しているから、補助金の要望も国に上がってこない。
家畜の飼料は、ラフネス商隊が重点的に買い占めて地方に廻す事で、王都で書類上待つだけの需要には、ほとんど入ってこなくなっていた。
「何とかならないのか!」
ホスタイル家では、競走馬の所有をどうするべきか、連日言い争いがつづいていた。
王都子爵家のホスタイルは、競馬に造詣ある貴族馬主として一目置かれた存在ではある。
だが、金が余るほどあるような家ではない。
あくまで名誉と社会的地位が先行している家で、その名前に見合うだけの実績欲しさに無理をしてきたきらいがあった。
フェアネス侯爵家と対等とはいかなくとも、引け目のない程度に名を保ちたい欲求があった。
その名誉が、家計を圧迫している。
元が王都で国の運営に従事する王臣だ。収入は毎月決まった額の役職手当で、税で領地経営する領主貴族とは根本から違っている。
資材も自前で生産するわけでなく、貨幣で購入しなければならない。
高騰する飼料を必要な量だけ購入すれば、とてもじゃないが自分たちの生活が立ち行かなくなる。競走馬の維持など、出来やしない。
「処分すべきだ」と言う縁戚と、「失えばもう回復出来ない」と意地になる本家。
「馬たちを売るなり殺すなりした後に、すぐに飼葉代が元の値段に戻ったらどうする!」
当主はそれを恐れて決めあぐねている。
その間も、馬たちが毎日食う餌代は積み上がり、ホスタイルの蓄えを減らしていった。
ホスタイル家の三男で、既に貴族の籍から抜けて独立した準貴族の平民であるスーフィフル・ホスタイル氏も、本家との繋がりと自身の箔付けのために競争馬を所有していた。
その彼の邸宅に、新規の商団が売り込み営業にやってきた。
聞けば、山岳の田舎から直接自領の物品を売りに上都してきているらしく、物価高騰と関係のない地方のため落ち着いた価格の商品を提供しているという。
「ならば飼葉は扱っていないか?」
期待しないものの、一応尋ねてみる。そうしたら酪農も取り扱っているため、乾牧草なら安く用意出来る、と言うじゃないか。
それが本当なら、一度まとまった量を仕入れたい。期待通りに揃えれたなら、今後優先的に取り引きをしてやろう。
ホスタイル、ひいてはフェアネスの家門に出入り出来る商会となれば、新参でもそれなりの格を得られる。田舎商隊なら飛びつくような好条件だ。
そして、取り引きは上手くいった。
ホスタイルは最大の懸念だった所有馬のエサ代を、常識的な予算内で収める事に成功した。
新規参入の駆け出し商会ながら、王都子爵家ホスタイルは自分たちが君たちを育ててやろうとばかりに彼らを子飼いの商隊として信頼し、御用達の名誉を与えた。
急場がしのげた。実にちょうど良く、相場感の鈍い新人商人が商売を始めてくれたものだ。
ホッとしたのも束の間、ホスタイル家の一員スーフィフル氏が、職場で厄介事に巻き込まれた。




