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ラフネスの名にかけて

 バヴァルダージュ嬢が仕入れてきてくれた目撃情報は、とても重要だった。




「やけにしつこく河原芸人って言ってたみたいだけど、どういう意味なんだろね?」

 と、バヴァルダージュ嬢なんかは意図を探りあぐねて首を傾げたりしてるが、おそらくはホスタイルも知ったのだろう。


 ━━━━誰が件の劇の脚本を手がけたのか。





(エルサはホスタイルに気づいてる。そして、ホスタイルの方も……)

 エルサ・ルバドールという少女の存在を、奴も把握したのだ。




(ホスタイルがエルサを攻撃した。劇でホスタイルを……、“奴の姉である『ジュリア・ホスタイル』の本性”を暴露したエルサを狙って)



 世間ではあまり知られてないけど、このスーフィフル・ホスタイル教諭こそがロジェール・フェアネス侯と結託し、ラフネス伯を集団で襲撃して惨殺した張本人なのだ。結果的にはラフネスの利権だけを略奪する、卑怯極まりない騙し討ちの戦果を挙げた。


 もっとも、あくまでアレの扱いはフェアネス家とラフネス家による正々堂々とした決闘、という事になっている。その行為はロワイヨーム王家から称賛されこそすれ、なんら恥じるモノではない。

 正義が悪を退治した。それだけの話だ。




 それもあって、ホスタイル家の三男坊の厄介身分風情で家督を継げず平民に降下した後も、卿の地位を授かって学園の教職という準貴族の地位に就けている。


 スーフィフル・ホスタイル個人として、あの事件は自身の誇るべき輝かしい戦歴だ。疚しいなどとは、微塵も考えていない。





 ただ、あの劇では、ホスタイル一門はラフネスのおかげで兵役逃れをした卑怯者、とバラされた。それこそホスタイル家がラフネス家から何を掠め取ったのか、観劇席には暗に察っせられたはずだ。


 あくまで学生の素人演劇だ。学術的になんら根拠のある発表があったわけではない。

 気にするにしては、些細すぎる棘。

 それでも、


(言われてみれば確かにそうかも……)


 と、さざ波程度のゆらぎを起こしかねない新視点。



 そしてその文脈から改めて見直せば、事件により一番恩恵を受けた渦中の人物が浮かび上がってくる。


 わざわざ劇中で名指しはしていない。

 けれど、一昔前の噂話を知る者ほど、ジュリアの弟スーフィフル・ホスタイルをことさらに、名無しのキャストにされていた違和感に気づく。



 自身の名声に傷をつけられた、とあの男が密かに恨みを募らしていても、不思議ではない。




(もしかしてその逆恨みで、わざわざ大声で罵声浴びせてエルサを侮辱した……って事?)

 馬鹿馬鹿しいけど、奴のあの狭量さだ。地方貴族の外部生から暗に自分を非難され告発されたと感じたなら、やりかねない。

 そうだとすれば、奴は内部クラス担当の上級教諭の立場にいる。生徒指導も、担当している。


 調べた限りでは不可解なくらい、エルサは同じクラブの部員たちから理不尽な排斥行為を受けていた。それも例の捏造疑惑以前、ホスタイル教諭から暴言を受けて以降から。



 ホスタイル教諭の立場なら、その生徒たちに教諭の権限をチラつかせながらエルサをイビるよう嗾けるくらい、容易に出来るだろう。

 単に自身の溜飲を下げるため、あわよくば不登校から退学まで狙ったかもしれない。




 この憶測が万一当たっていれば、エルサがわたしたちに相談しようとしないのも説明がついた。



 ━━━━わたしをホスタイルから守るためだ。





(ラフネスをホスタイル、しいてはフェアネスと事を構えさせないために、独り我慢してくれてたのか……)

 大切な友達に、わたしの事で辛い思いをさせてしまってた。



 元々あの男はウザ絡みしてきていたのだ。ラフネスであるわたしに、事あるごとにいちいち突っかかってきてた。

 でも直接わたしに対し大っぴらな攻撃をしてこなかったのは、ラフネスに弱味を握られてるからだ。ウチがホスタイルと姻戚関係を結んでいた当時のあらゆる資料は、まだお婆様が保管してる。それを出されるのを、恐れてだろう。


 だからわたしも、なるべく関わらぬようにして知らぬふりを続けてた。わたしが沈黙をつづけてれば、余計な問題は起こす必要はないだろうと考えて。

 ホスタイルはどうでもいいが、それに付随してくるフェアネスが、正直に面倒くさい。




 けど、わたしの大切な友達に害を及ぼすというなら、話は変わる。


(醜聞の暴露なんてどうでもいい……)




 スーフィフル・ホスタイル、あんたを叩き潰す。









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