エルサのクラブ内での事
エルサ・ルバドール子爵令嬢は、学園の本草薬学調合クラブに所属している。
蟻酸とエタノールを混ぜて無毒化した結晶で希土類の溶出をしたり、それと植物を掛け合わせて新たな薬品を精製したりと、近代工業の基礎になる実験をする、いわば有機物での錬金術みたいな事を目指すクラブだ。
ウチがラフネス領でやってる樟脳もどきの精製なんかも、この分野の恩恵を受けてる一部だったりする。
そこが最近、仕入れの店からの素材購入の値段を釣り上げられた。
名誉ある学園の取引先でありながら突如、今までの数倍の価格を提示してきて、生徒たちの抗議虚しく全然取り合ってもらえない。
急な事でもあり、とてもじゃないけど学生の予算では十分な量を買えない事態に陥った。
やりかけの研究がいくつも同時進行してる状況で、素材不足での中断など出来ない事から、部員全員で急遽他の商店を回ったらしい。
フレンくんも一度、その時にエルサから仕入れの話を相談された。以降、気になっていたそうだ。
結局、それまでの専門商店とは違って一店舗では必要な素材が全部は揃いきらず、ドシップ商会他いくつかのお店を回ってようやっとギリギリ、八割方の素材を確保する目処がついた。
ホッとしたその時、支払いに充てるべき薬学調合クラブの予算が、凍結された。
理由はなんと、エルサが以前発表した論文に不正の疑いがあるとかいう、到底信じられない内容だった。
エルサは当然納得いかず、学園の運営部に抗議した。けれど、白か黒か疑惑調査が終わるまでしばらくの間予算執行を停止するだけだ、と言われて、そのままにされているらしい。
本当に調べているの?と不審になるくらい、そこから話が進まなくなったそうだ。
で、やむなく喫緊で、必要な実験素材だけはそれぞれのポケットマネーで購入した。そこからは、針の筵だ。
時間が経つとダメになる研究をしていた先輩や、締め切りの近い論文作成のために必要な実験を途中まで進めてた内部生などからエルサへの不満が高まり、嫌味陰口いびり等が始まった、という。
更に決定的な事に、そうして部員たちが苦労して書き上げた論文の対外発表も、追加措置で禁止された。
恐慌は、想像に難くない。
あらぬ疑いを掛けられてるエルサも被害者なのに、疑われるような論文には本当に不正が無かったのか?と白い目で見られ、むしろさっさと排除してクラブ内の清浄化をするべきだ、という動きになっている。
その反応も、日々過激にエスカレートしていった。
けれどもエルサも、実家から持ってきた植物で研究をしている途中で、道具や設備の整った学園の研究室から放り出されるわけにはいかない。ただ潔白を信じて、クラブに所属し続けるしかない。
読んでもらえるかどうかすら分からない上申書を、何度も何度も書いては提出してるらしい、とバヴァルダージュ嬢はわたし達に教えてくれた。




