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分水嶺

 舞台衣装で内部棟を練り歩いてた時、そのわたしたちを憎しみのこもった目で睨みつけていた男がいた事に、わたしは気づいて無かった。






━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 学園祭の大賞は、例年通り高位貴族の子弟たちで形成するサロングループが獲得した。

 特に今年は、王太子殿下たちも在籍している。当然といえば当然だ。



(明らか斟酌されてんじゃん)


 とは思うけど、展示内容を見たら学術的にかなり重要な研究内容だったりしたので、むしろこんな学生のお祭りじゃなく然るべき学会でやりなよ……、となった。



 なんでも航海における帆船の運航と食糧への影響がどうたらで、壁画から推察される古代の船がどう航続距離を伸ばしたかを、模型展示と併せて新説として発表したらしい。

 その際、帆の意匠が当時のレース柄と関連付けされてて、これがまたフィーユのクラスの王朝喫茶のレース柄に絡んでいたため、招待客の中にいた学者の誰だか言うオジサン博士が気づいて「素晴らしい!」と言ったとかなんとか。



 だからフィーユのとこが審査員特別賞もらったのも、彼女たちのクラスが頑張って当時を再現した賜物なのだ。

 決っしてわたしとアンバーが、あそこで観客に愛想振り撒いて敵に塩を送る宣伝をしためではないのだ。


 そこんとこを、バヴァルダージュ嬢には分かっていてもらいたい。





 一方で、わたしたちの歌劇はどの賞にもひっかからず、ひっそりとした評価にとどまった。


 残念だけど仕方ない。なんて思っていたら、どうやらそれでは済まない事態になったようだ。



 担任の先生が言うには、わたしたちの歌劇の内容を問題視する意見が出てきて、学園上層部で賛否両論分かれている、という。


 その急先鋒は、件のスーフィフル・ホスタイル上級教諭だ。


 直接的にフェアネスを腐したわけではないけれど、ラフネスの言い分をメインにしたストーリーだ。それをラフネスが在籍するクラスが演じた事に疑問を呈している、らしい。

 “疑問視”なんて言葉で濁してるけど、要はクレームだね。



「悪人を賞賛するなど言語道断!これは貴族社会に対する挑戦、大問題ですよ!

 それも学園の生徒という、たとえ下級の外部生であってもロワイヨーム王国の恩恵を受けている者がやるなど、浅はかと言うほかない!」


 更には男女逆転というのも、侮辱と捉えられたらしい。

 こっちはそれなりに真面目にやってたのに、女子生徒が礼服を着て男を演じるなんて学園生徒にあるまじき破廉恥さだ、なんだってさ。



「そもそも演劇などは観るものであって、やるものではない!あれは河原者の仕事だ!

 伝統ある王立学園内で、貴族の子弟が演じるなど、以ての外だ!」

 相応の処分を下すべきであると、執拗なくらいに教職員ミーティングで追及しまくったらしい。



(それ、完全に私怨やん……。あれ観た人には、宿敵フェアネスより腰巾着ホスタイルがどんだけ恩知らずだったか、十二分にバレただろうからね)


 つい笑ってしまった。でも、笑い事じゃない。あの程度の事に、あれこれ難癖つけて処分されたら、やってられない。




「だがまぁウチは、商家の子や豪農の子なんかもいるからな。全部が全部、貴族の理りに従う必要はないさ」

 と、わたしたちの頼れる担任先生は、そんなこと言ってホスタイルの要求をつっぱねてくれてるそうだ。なにその男前。前々から思ってたけどこの担任、外部クラスの受け持ちなのに肝据わってない?



「というか、それよりももっとマズそうな事が起きててな……」

 なんて、急に声のトーンを落としてボソリと言い出した。


 どういう事?と不思議がってたら、たまたま観劇した数人の招待客からの口コミで、わたしたちの劇の評判が貴族の上品なおばさま達の間に広がっているんだと。

 その中でも特に、主演ふたりの妖艶な男装が話題になってるそうだ。是非とも揃ってお茶会に招きたい、という打診が、いくつも学園の方に来ているらしい。



「だから学園側だってお前らを処分なんて下手を打つ気は無い。が、問題はティボールラフネスを演じたのが……」


 ラフネス家の縁者である、わたしだ。



 芸名使ってたからお客さん達には知られてない。けど、貴族夫人のお茶会にラフネスが招かれるのは、非常に具合が悪い。

 あくまで皆さんは、わたしをフネス・サリーラという俳優志望の一生徒だと思ってる。それが実はラフネスの縁者でした~なんてバレたら、招いて下さったその家の評判を落とすし、迷惑がかかる。


 ましてやそれが学園から派遣された者だとなれば、学園も白い目で見られるのは確実だ。




「あくまで学生だからと断りを入れてるものの、なにせ上流階級の叔母様方だ。あの手この手でお声掛けされてくるかもしれん。

 もし向こうから接触があったなら、まず報告した上で学園生として失礼ないよう気をつけてくれよ」

 気苦労が絶えないわ…とばかりに、先生はため息ついてらした。それでいて、わたしがラフネスである事を今まで一度として、侮った様子を見せた事が無い。



(あれ?もしかして彼、わりかし優良物件だったりする?)


 先生既婚だっけ?年齢差とか気にする方?地方住みってどう思う?

「おい、聞いてるのか?」

 あ、はい。



「ご婦人からの評判が良かったおかげで学園からのお咎めは特に無しだ。それでも納得されてない教職員の方々もいる。おとなしくしろとまでは言わんが、挑発するような事はするなよ?」

 やだなー、わたしみたいな事勿れ平和主義者が、挑発なんて野蛮な事するわけないじゃないですかー。平穏無事こそわたしの座右の銘ですよー。


 ジロリッと、胡乱臭げに見られた。



 あれ?ラフネス云々じゃなく、わたし個人が信用ならない感じ?実に心外だわ(笑)








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