帰郷
たっぷり日数をかけて到着したラフネス領の光景に、三人のご令嬢やその従者たちが絶句していた。
丸一日、馬車は荒地で苦労してきたはずだ。
その先にたどり着いたのは、外国との密貿易で栄えまくってる、煩いくらいの雑踏の都市だった。
王国の端っこ、中央から隔絶するような山と荒地で閉ざされた陸の孤島で、信じられない繁栄都市が現れたのだ。
建物などは目新しいわけではないけれど、流入している人の数が半端ない。混雑で賑わっていて、あちこちの商店から金が飛び交っている。
人が流れ、物が流れ、金が流れ、情報が流れる。それも、ロワイヨーム以外の国々の物までが流通していた。
「伯爵の地位にしては狭い土地だからね、端々まで手を入れれてるんだ」
昔の騒動で、ウチは先祖代々の土地の大部分を削られてしまった。ラフネス伯爵家、なんていう大層な称号ながら子爵家程度の領地しかなく、それだけの収入で、伯爵家としての義務も果たさなくてはいけない立場におかれていた。
「だからね、色々とやってるんだよウチは」
外に言えないような事もある。そっちは大っぴらにはしていないけど。
あくまでロワイヨーム王家の許容範囲内で、ウチを成敗するコストと天秤にかけさして商売をしている。
「こんなに栄えてたら、王国から召し上げられちゃったりしないの?」
と、同じ商人気質のあるシャルマン家のフィーユが、心配そうに言ってきた。大丈夫、それは秘密があるんだよ。
「ウチは忌み地だからね、直轄領にはされないんだよ。隣国との間の魔窟地帯から、国を守るための緩衝材って扱いにされてる。
何か事があれば切り捨てられる地域だけど、それだけに多少疑わしくても見逃されてるの」
下手に王家が手を突っ込んで何かあれば、それは王家の持ち出しで処理しなきゃならなくなる。
議会の顔色伺って身を立ててる今の王家が、わざわざそんなリスクはおかさないでしょう。ウチに押し付けて黙認してる方が安上がりだ。
エルサもエルサで、このラフネス領から噂の侯爵領までがわりと近い事を気にしていた。そら同じ地方の物語なんだから、モデルになった家同士もご近所だわね。
でもむしろ、もっと近かったのを削られてこういう風になったんだから文句言わせないわ、と笑っておいた。
馬車はマカダム舗装された街道を軽快に走って、ラフネス領事邸へと入った。
門からすぐさま迎えに出てきた使用人たちが荷物を下ろしにかかり、馬車や荷馬を厩舎へと回す。他家の従者たちにもウチの案内がついて、わたしたちは領邸に入って執事らに歓迎された。
……トタンに、半年ぶりのラフネス伯爵家侍従長の顔が飛びついてきた。
「遅いですよっ!」
主人に向かって、文句を言う。
おいおい、多少寄り道したけど、遅くはないでしょ。王都からここまでどんだけ離れてるか、アンタだって知ってるでしょうが。
「まぁいいや、伯爵と伯爵夫人に挨拶行ってくるから、彼女たちを広間に案内しておいてあげて。大切なお友達だから、丁重にね」
わたしから離れようとしないアビゲイルをうざったらしく片手で引き剥がし、とりあえずラフネス伯爵夫人に帰宅のご報告に上がった。




