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シャルマン男爵家

 シャルマン男爵は領地を持たず、出身の街に拠点を置いて自治体の運営に携わっている。


 具体的には街の名士として、他方から来た役人との折衝や税、資材の取りまとめなどをしていた。主な収入源は炭鉱からの燃料採掘で、彼らが掘り出した燃料で王国のエネルギーの一部が賄われている。



 そのシャルマン男爵家の経営する豪華ホテルにお泊まりする事になった。

 上級貴族を接待する造りになっていて、学生がちょっと背伸びしたくらいじゃとてものこと宿泊出来ない施設だ。


 慣れない煌びやかさにアンバーもエルサも緊張してたけど、シャルマン男爵家からすれば地方貴族のご令嬢とはいえ、子爵家と伯爵家だ。手厚く歓待しておくのもおかしくない。



 そのままわたしたちは夕食会を前に、シャルマン男爵夫妻と会談する機会を得た。

 応接室でお会い出来た挨拶と、二日ほどお世話になる礼を述べて、娘のフィーユを交えて歓談する。



「ラフネス、伯爵家…ですか」


 と、シャルマン男爵はその名前にピクリと眉をひそめた。夫人はその空気に敏感に反応して不安げにしてる。

 フィーユはぼんやりとしてて分かってないし、同行のアンバーとエルサも触れないでいてくれてたけど(学園全体もそういう陰口を戒める雰囲気だったため)、十五年は前の醜聞、というか王都民に人気の侯爵家ロマンス劇の敵役だから、娘がそんな家の人間を連れてきた事に微妙な不快感を表していた。


 まぁ、王太子に近づかせたい娘が、王国の有力貴族と険悪な伯爵家の人間と仲良くしてるのは不都合だろうて。

 でもわたしの幸せのためにはシャルマン男爵令嬢には頑張ってもらわなきゃいけないから、ガンガンに関わっていくよ~。



 その後の夕食会では学園はどうだ、勉強はどうだ、という当たり障りのない話題に終始し、シャルマン男爵は王太子について一切口にせずニコニコしていた。この様子だと、


(後からフィーユを叱責したりしそうだなぁ…)


 果実水をゴクリと飲み下し、ちょっとだけ心配になった。

 ここはひとつ、シャルマン家をおだてておこうか。



「とても素敵なお部屋を用意してくださり、ありがとうございます。今回の旅行が素晴らしい思い出になりますわ」

 と水を向けたら、エルサが特に同意して、どの調度品が良かったとか建物の造りがいつの時代を模してるとか、いかに貴族好みだったか嬉しそうに喋ってた。成り上がり新参貴族の心をくすぐるのには十分だと思う。


 実際、わたしの目から見ても成金趣味とはならず質の高い絢爛さだと思った。ちょっとだけキラキラすぎるけど、一泊する宿としては夢があって良い。

 貴族の表面を取り繕うという意味ではよくやってる。



「いや、これはやはり学園の生徒さんだ、お目が高い。実は我が宿には王弟殿下もご宿泊されたことがあってね、その時にお褒めいただいた上でいくつかアドバイスも受けたものなのだよ。いわば王家好みといったところかな」

 ふふんっ、と得意げにふんぞり返った。



(王弟…)


 あの男かぁ…。

 新興貴族のとこにまで顔を出してるとは、ご苦労様なことですなぁ。



 ん?だけどそのわりに、シャルマン家は中央との繋がりを結びきれなくて、フィーユに王太子と接触させるなんて飛び道具を使ってるんだな?王弟とコネでも作った方が早そうなのに…。



 と、ようよう話を聴いてると、シャルマン家とその仲間グループは、新興の勢力としてそれなりの勢いはあるけれど、わたしが夢の中で見た時の新興貴族財閥派ほどの規模ではなさそうなのだ。どうもそこまでの財と事業拡大を、現世では出来ていなさそうなのだ。


(まぁあと二年あるし…)

 変わる事もあるんだろう、とシャルマン男爵の自慢話を片手間で聞いてたら、



 ━━━━あ、これウチのせいだわ……。


 やべっ、って感じで冷や汗出た。



 元々汚染された土壌と山と湿地がほとんどの狭隘地ラフネス領。そんな土地で農耕地を確保するため、ウチは大借金をして山を一個切り崩し、湿地を埋め立てた。


 その際に、山に生えてた樹木を全て切り倒して材木にしようとしたんだけれど、汚染された土壌の木のために建材にするにはサクすぎて使えない。

 そのため他に使えないかと思案した結果、搾り上げて品質のあまり良くない樟脳もどきを摂るようになった。


 その樟脳を民間医療の薬剤として流通させつつ、搾り取った残り滓をチップにして燻し、家庭用の燃料として安価で市場に卸した。いわば産廃処理の事業の一環だったんだけど、そのために炭坑で儲けてた男爵領が直接的な影響を受け、夢の中ほどの荒稼ぎが出来ず今に至っているっぽいのだ。



 更に数年がかりで一山分の樹木を使い切ったラフネス領は樟脳ビジネスを軌道にのせていて、次は樟脳のために王国の他領からではなく、近接する他国から材木を密輸入するようになった。

 結果、その後にゼネコンを形成し、文字通り財閥を形成するはずだった新興貴族組が、思うように材木を確保出来ず事業展開に繋がらずに勢力拡大が遅れた要因になった模様……。



(男爵令嬢が王太子攻略に苦戦してるの、わたしが原因のひとつじゃんか…)

 あくまでifの話だし、今のシャルマン男爵家には関係ないよね…?文句言われそうだし、黙っといてもいいかな…?(汗




 ま、まぁそれはそれとして、ラフネスとしてシャルマン男爵から警戒されてても、この男爵領や新興貴族組の市場は、ウチとしても魅力的だ。

 ぶっちゃけ樟脳は、大々的に宣伝できるような商品じゃなかったりするのよね。その点、何かと成り上がりで秘密の多い新興貴族組には横流ししやすかろう。


 ちょっとだけ、悪い笑みがこぼれちゃった。



 翌日の男爵領は、観光しながら楽しむというよりも視察になってた。あれとあれを合わせたら面白いなぁ、とか考えてしまう。やらないけど。




 それにしても男爵領に来て以来、フィーユのわたしへの依存が度を超しだしてないか?

 街を案内してくれる間、ずっと手を繋いで引っ張ってくれてる。「いっぱい紹介したいのあるんだ!」って、なんでわたしに懐くんだ、王太子を狙わないといけないんじゃなかったのかよ。


 はしゃぐフィーユは可愛いからいいけどさ。とアンバーエルサといっしょにほっこりしてた。






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