料理大会と式典
わたしがほとんど何もできない行事が、王都学園にはいくつかある。
そのひとつが外部生たちによる料理大会で、全学年対象で希望者が各自エントリーし、参加する。
外部生は地方貴族が多く、基本は領地経営などを学ぶ。一方で、家督を継がない次男三男、女性などは、卒業後の進路に向けた知識も学ぶことになる。
代表的なのは執事や侍女、ガヴァネスチューターなどの各家門に就く仕事で、民間で就職する者もいる。一部優秀な生徒は、試験に通りさえすれば、国の官僚になる道も用意されている。
そして、もう一方の代表的な就職先として、各屋敷に雇われる料理人や庭師の道があった。
なので学園の料理大会は、外部生徒が主体でありながら、お祭りのような華やかさのあるイベントになっていた。
料理大会は和気藹々とした家庭料理部門と、そのまま進路に直結する事もあるシェフ部門が用意されている。
シェフ部門の審査は学園長や招待客が行うが、今年はなにせ、王太子殿下とその近習がいる。お目に留まる可能性が高いとなると、皆の力の入れようだって変わるものだ。
クラスにもシェフを目指す子が何人かいて、食材の確保に躍起になっていた。
(これ、商売にならないかな?)
なんて思ってたら、めざといドシップ商会の息子や他の商売人の子たちが、すでに商品の売り込みをしてた。わたしの出る幕なんて無いね。
わたしは料理なんてからっきしだ。だからほとんどスルーしようとしてたけど、アンバーとフィーユが家庭料理部門で出ると言い出した。
「え、料理できるの?凄い!」
素直に関心した。
フィーユは料理というよりも軽食とかお菓子が好きで、ちょくちょく作ってるそうだ。試しにひとつ貰ったら、素朴だけど優しい甘さで、パクパクといくらでも食べちゃえる系のお菓子だった。熱いレモンティーが合いそうだ。
家庭料理部門は屋台形式らしいので向いてると思う、と言ってた。
アンバーは郷土料理を出す。といっても地元の海産物を焼くだけみたい。むしろ料理大会は各地方の特産品の宣伝の場でもあるという。なるほど確かに、売り込むのには絶好の機会だろう。
なら、他のとこのも食べ比べ出来るのかな?にわかに楽しみになってきたぞ。
大会当日、屋外にズラッと並んだ屋台ブースで家庭料理部門が開催された。審査はポイントを購入した生徒や招待された王都民で、売り上げとアンケートで順位が決まる。
でもまあ、こっちはあまり重要じゃない。出店者も客も気楽に飲み食いする感じだ。
悲壮感あるのは、シェフ部門。
大食堂使って順番に予選と本戦で審査されていくらしい。
ウチのクラスからは7人3チームが参加で、皆んなの前で「行ってくるゾ!」と気合いを入れて万雷の拍手で送り出されてた。他所のクラスでは絶対見られないような団結力に、他の参加者たちが目を白黒させてた。
あっちはまぁ、結果出るまでわたしら外部生は立ち入り出来ないので、屋台巡りして楽しんでおこう。
アンバーの焼く貝とかエビの食欲誘う匂いや、ちょっとしたスープを配る子の屋台や、ドリンクを売る子の屋台などを、エルサ、バヴァルダージュ嬢、ユージーンたちと散らばっては集まりして味わって、最後はフィーユのブースの焼き菓子で締めた。
あれもこれも料理好きな子たちが作ってるだけにハズレは無く、美味しい。各地の名物も楽しめて、王都って凄いなと感動した。
やっぱり友達との買い食いは楽しい。これはもっと街でも皆んなが楽しめるべきだよね。
フィーユの屋台は、彼女と同じ班グループの子が手伝ってくれていた。
コーニー・チージーというクールビューティーな女の子で、フィーユが自らの行動を省みて勉学に励むようになったのをきっかけに仲良くなったという。話してみて良い子だなとは思ったけど、「焼き菓子が美味しくて」と言ってわたしたちに混じってもぐもぐ食べてたから、単に餌付けされただけなのかもしれない。
わたしはそんな新しいお知り合いに、持参したティーセットで紅茶をご馳走した。料理は出来ないが、お茶は煎れれるのだ。
レモンもちゃちゃっと切って添えたら、焼き菓子といっしょに口にした皆んなが目を見開いてた。
うん、予想通りめちゃくちゃ合うわ。フィーユのお菓子、定期購入しようかな?
夕方近く、審査と集計が終わって、閉会の表彰式になった。わたしたちも会場に入れるから、興味本位でぞろぞろ連れ立って発表を聞きにいく。
家庭料理部門は二年生のグループが一位になり、シェフ部門は三年生が優勝した。今回は特別枠でパティシエ賞も作られたみたいで、それも三年生が取ってた。彼らは来年の就職で、かなり大きなアドバンテージを得た事だろう。
そしてこの大会の最大のサプライズは、表彰と賛辞を王太子殿下がされた事だった。
(あぁ、まぁそらそうだよね)
と、その隣りに侍っていた記憶のあるわたしは特に驚かなかったけど、会場はざわついた。
「学園から素晴らしい料理が生まれた事を王太子として誇りに思う。今後の活躍に期待している」
とのべてニコリと笑ったお顔に、会場中から黄色い悲鳴が上がった。
普段のあの顰めっ面が破顔一笑した時の威力。努力を認めた者にだけ向ける特別な表情。
驚きと、一気に魅了された衝撃で、それまで畏れ多く遠巻きにしていた生徒たちも心を掴まれてしまった。
元から殿下に憧れてたフィーユなんかは、感激に口元を両手で抑えて、涙目になりながらプルプルしてた。あれこそが、幼少期に初めてお目にかかった時に見た殿下のお姿だ、と感動してる。
けど一方で、優勝してたら直接お声がけしてもらえてたのに、と悔しがって落ち込んでもいた。
いやいや、料理なんて一朝一夕では出来ないんだから、それは無いものねだりだよ。
「学園にはまだいくつも行事あるし、今後それらの表彰は殿下がやるからチャンスはあるよ。フィーユの得意な事を磨いて、どれかで一位取りにいこう」
そしたら王太子からのお声がけもあるさ。
いくつかはわたしが裏で手伝って勝ちに行くつもりしてるし、なにより彼女は定期テストで王太子たちに食い込んでるからね。今年中にはアピールして認められて、お近づきになる資格を得るつもりなのだ。フィーユには頑張ってもらうよ。
「うん」と言って舞台上の王太子殿下を見つめるフィーユの瞳には、強い決意の色が宿っていた。




