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萌芽

 フィーユはわたしたちの言うことによく従い、真面目に必死に学ぼうとする。その一所懸命な姿を見てると、夢の中での彼女と違ってわたしの中での好感度は爆上がりだ。


(こんな子なら、そりゃ王太子がコロっといっちゃっても不思議じゃないよね)


 とても素直なのだ。


 純粋に、向上心がある。


 しかも従順なだけでなく好奇心もあって、積極的にわたしや他の子たちから話を聴き、知識を吸収しようとしてくる。

 そしてその時の瞳が、なんとも言えずキラキラしているのだ。教える側からしたら、こんな優良な生徒がいたら嬉しくなるに違いない。


 世を拗ね、怨み、呪ったわたしとは、人間の出来が全然違っていた。


 まだまだ将来の国母となるには足りないけれど、ひたむきな性格は一国民として評価したい。



(だけどやっぱ、平民臭が抜けないんだよなぁ……)

 ダンスレッスンの合間に、嬉しそうにひとりでクルクル回って喜んでるのを見て、ふと思った。この垢抜けなさが、かえって魅力になったのかもしれないけどね。



 少し激しめのステップ踏んで、フフーンフーン♪と鼻歌まじりに素敵に踊る。

 手伝いのユージーンとアミーが、つい見惚れてしまっていた。

 彼らも今じゃ、時間のある時にフィーユのパートナーをすすんで務めてくれている。こっちもまた、いい男の子たちなのだ。下心のある無しは知らない。




 貴族の社交にダンスは確かに欠かせない。淑女の嗜みに、刺繍も欠かせない。

 学業外に、フィーユがこれまで身につけ損ねてきたものを代わる代わる触れさせていくのも良いかもしれない。

 ついでだから、将来のために乗馬も少し教えておこうか。



 街へ遊びに行くのが制限されてしまった分、フィーユを淑女として育て上げようと、そんなこんなを考えてた。

 そしてどこへ出しても恥ずかしくないレディに仕立て上げたら、その時こそ、王太子殿下と運命の再会を果たすのだ。


(わたしや学園のためにも頑張ってもらわなきゃいけないんだから)

 ダンスだけでなく、見せ場も考えていくことにしよう。





 汗を拭きつつ互いにアドバイスをしあってると、それぞれのクラブが終わったアンバーとエルサが、一緒に帰ろうよと迎えに来てくれた。

 じゃあ今日のレッスンはお仕舞いね。


 部屋の机を戻し片付けをしてたら、エルサが「実は私も、やっぱりまだちょっと男の子苦手なんだよね…」とボソリと言った。社交ダンスのテストが、それでちょっぴり不安なんだって。


「この子たちでも?」

「う…っ」

 クラス行事やらでほとんど行動を共にしてる同じ班のユージーンとアミー、それからフレンくんたちですら、まだ隣りに立たれたら圧迫感を受けるんだとか。

 それはなかなかと大変だなぁ……。


 可愛いエルサちゃんに怖がられてると聞いたユージーンとアミーがショック受けてた。まぁそれも仕方あるまい。ご愁傷様だ。


「嫌いとかじゃないんだよ?隣りの席で勉強してるくらいなら大丈夫なんだけど、どうしてもね、男の子の大きな体とか声とかで……」

 と困ったように笑う。男子が悪いわけじゃなく私の問題、と言いつつ、ダンスのテストはどうしようかと悩んでるわけだ。



(最終的には慣れるしかないんだろうけど……)

 どうしたもんかねぇ?とわたしも頭を捻っていたら、


「ならばお嬢さん、私と踊りましょう」


 アンバーが跪き、エルサの手を取って頬に当てた。


「え?ええ??」

 戸惑ってるエルサをクルリと回転させ、そこからアンバーは見事な男役を演じて、エルサとワルツを踊る。


「ズンタッタ~、ズンタッタ~♪」

 にこやかに笑い、エルサをリードするアンバー。途中から「もう、どうしてそっちを踊れるのよ!」とエルサまでクスクスと笑い出し、可憐な円舞が場を華やげた。

 観劇して以来、男装の俳優に憧れが生まれたんだってさ。凄いね。


「あ、ズルい!私も踊りたい!」

 フィーユまでもがわたしの手を引っ張り、ふたりのダンスに参加する。

「ララララ~♪」

 こっちも上機嫌だ。いつの間にか四人でのロンドになって、クスクスと笑みが溢れる。



 フラれた形になった男子たちが、ちょっと残念そうに苦笑いしてた。可憐な華には敵わないよね。


「大丈夫、わたしのところがまだ空いてるよ?」

 踊りながらちょいちょいっ、と誘ったら、

「リスクが高すぎるんだよ、お前の隣りは」

 ユージーンとアミーふたりして、呆れ笑いで溜め息ついて肩を落としてた。



 なんでじゃ。





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