サリー先生の放課後ダンスレッスン
フィーユは庶民のダンスは得意だけれど、パートナーと踊るのには不慣れだ。
平民の踊りにも恋人と共に踊るものは当たり前にある。だけれども貴族の社交ダンスとはタイプが異なるし、フィーユ自身まだ未成年なため、そういうダンスと縁が無かったのだ。
だから練習のパートナーを、わたしと同じクラスの班仲間であるユージーンたちに順番で頼む事にした。
既に顔見知りの仲ではあるけれど、改めて紹介したら、フィーユは同年代の異性と接するのに初々しく照れまくってた。
「はい、照れてばっかいたら練習にならないよ!ちゃんと手を取り合ってポジショニング取って!」
「う、うん…」
せっついたら、もじもじしてる。ユージーンはユージーンで、可愛く頬を染めて自分をチラ見しては慌てて誤魔化すように目線を逸らすフィーユの挙動に、満更でもなさそうにデレデレしていた。
「友達相手で恥ずかしがってちゃ、いざ目標のレグノ殿下と踊るとなった時に、どうすんのさ!さぁ、目の前の男をレグノ殿下だと思って!」
と、わたしが言ったとたん、
スンっ…
さっきまで照れまくりだったフィーユの顔が、一気に冷静な色に変わった。
(うん?)
黄金の髪に深い海の瞳の、秀麗で精悍で高貴で憧れのレグノ・ロワイヨーム王太子殿下。王国の小太陽、未来の聖王。
それと比べて、整ってはいるけれどまだまだ年相応に子供っぽく田舎の臭いの残る地方貴族の末っ子ユージーンくん。
わたしに言われた通りに想像したのだろう。瞬間で、緊張が全部吹っ飛んだ平常の顔になってた。
「ワッハッハッ、そら比べちゃダメだって!」
「え、あっ、ちょ、違うよ!ちょっと、殿下とは違うなぁって、思っちゃっただけで!」
慌ててわたしの発言を訂正するフィーユに、ユージーンはアハハッと苦笑してた。
「そら俺だって、さすがに王太子殿下と比べられて勝てるとは思わないからいいさ」
相手は彼女の想い人だしね。それでもちょっとだけ、肩を落としてガッカリしてる。
「大丈夫大丈夫、振られてもウチが貰ってあげるからさ!」
その肩をバンバン叩いて気合い入れ直してあげたら、「悪魔のような提案すなよ……」と余計にしょんぼりしてた。なんでじゃ。
ユージーンがショックで使えなくなったかな?と思ったけど、そこはそれ、ちゃんとフィーユのダンス練習に付き合ってくれた。
ウンタッターと足の運びを確認しながら、抱き寄せられ左右に離れ、フワリと回転する。
「姿勢を真っ直ぐに!伸ばした手の指先を意識するの!一番広がったところ!ここだよ、ここが一番わたしの美しいとこだよ!って観てる人にアピールするの!」
試験で審査されるとこを、フィーユに重点的に教えていく。
男性パートナーの足を踏んじゃうのは、それはもう男子に我慢してもらうしかないでしょう。そればっか気にして萎縮してたら、優雅になんて舞えなくなるもんね。
とかなんとか偉そうに指導してるけど、実はわたし自身、ダンスはさっぱりなのだ。
夢の中で一通りやったはずとはいえ、誰かと踊ったのは王太子殿下と3回?程度。練習すら、パートナーは無かった。
フェアネス侯は当然として、ふたりの兄だった人たちや執事などにも一切練習に付き合ってはもらえず、ただ女性パートのステップを独りでひたすらになぞり、支えてもらうパートでは男性の腕をイメージして自分だけで身体を逸らせ、繋いでくれると信じる手を想像してターンをしてた。
現実世界の方でも、ラフネスに移ってからのわたしは祖母の事業の手伝いに追われ、正直ダンスなんてどうでもいいやとうっちゃってたとこがある。社交パーティーでダンスを褒めそやされる必要なんて無いからだ。
だからわたしのダンスは楽譜棒読みのメロディーのみで、リズムや柔らかさが欠片も無いのだ。
当然、パートナーとのハーモニーなんて生まれるわけもなく、頭に残っているのはわたしの拙いダンス姿に対する叱責と嘲笑のみ。
(まぁ、逆に笑われて指摘された不恰好なとこが修正ポイントだって分かって、かえって良かったんだよね)
フィーユにも、その注意するところ、見られてるところを伝えられて、非常に助かってる。
こうして放課後ダンスレッスンは有意義につづいていったのだった。




