勉強会
「それでも王太子は見向きもしなかったんでしょ?」
「うん。横顔もやっぱり素敵だったよ。代わりに一緒にいたリヴァル侯爵令嬢が、『頑張れるだけ頑張ってみなさい』って」
フィーユがさっぱりしたように言った。彼女自身、手詰まりの閉塞感から方針転換出来て気が楽になったんだろう。
そしてドリアーヌ・リヴァル嬢の言葉もまた、まとわりつく下級貴族令嬢を正しく導く慈愛に満ちてる。やはり侯爵令嬢、素敵な淑女だ。
で、その彼ら彼女らに認めてもらう人間になるためには、彼らが目指している高潔な貴族になる必要があるだろう。
学業も生き方も、精神も、その目標に至るための努力を見せねばならない。じゃないと、そもそもの視界に入れない。
(面倒くさぁ……)
わたしはゴメンだ。そういうの嫌で、楽しい学生生活を期待してきたんだ。
だけど現状の学園の雰囲気は大なり小なりそれを求めてくる。打開するためには最大要因の王太子殿下の意識を変革せねばならない。
そのためのフィーユ・シャルマン男爵令嬢。
(この子を鍛えて王太子にぶつけて壁を打開する)
わたしの幸せのために、全力で頑張ってくれ。
近く、前期校内試験がある。
ここは第一弾のアピールポイントだな、と思ったわたしは、フィーユに自身の成績を聞いてみた。
彼女はちょっと優秀目の順位だった。
入学試験は内部生に有利な問題が多いが、フィーユは不利な外部生の方ながら、全体の上位10%に入っている。
(マジか…)
夢の中で、外部生の上位生徒にすら負ける内部生中位下に甘んじてたわたしには、独力でその成績を記録できるフィーユに何も言う事はない。
聞けばエルサ嬢も外部生クラスの上位で、アンバーまでもが中位の上らしい。
わたしは真ん中より少し下のあたりのはずだ。
なのでテスト勉強は、形としては皆んなで頭を突き合わせながらそれぞれ集中してやる感じかな?分からないとこが出てくれば、その都度得意な子に訊けばいい。
放課後、フィーユがこっちの教室に来てから、お互いに教え合いっこをするのもいい。
アンバーとエルサはそれぞれ週に二、三回、所属する倶楽部活動に行くので、それ以外の日に参加。フィーユもクラブをいくつも掛け持ちしてたけど、それらは王太子殿下の側近の方々と知り合う目的で登録したもののため、やり方を替えた今は行かなくなっても問題ない。
参加の日には、エルサとフィーユがお互い苦手なとこを教え合い、ふたりでアンバーとわたしの勉強を見てくれる。
正直一年生の範疇なら、さすがのわたしでも困るところは少ない。なのでわたし自身の確認も兼ねて、そのちょっとだけ手薄なとこをフィーユに尋ね、併せて彼女たちにも重要なポイントへの意識を再度繰り返し向けるよう促してみたりする。
抜けがちな知識、疎かにしてしまいがちな細かいポイント、夢でひと通り経験したとはいえ、自分でもうろ覚えのとこがちょくちょくとあるもんだ。
そうやって一緒に勉強しだしてよく分かったんだけど、勉強出来る子の集中力ってホント凄い。
エルサとフィーユのふたりは、ひとつの事をやると決めてそこから没頭していく様は、一種鬼気迫るものがある。わたしやアンバーはただただ圧倒されてしまう。
とりわけわたしなんかは、あれこれすぐ他が気になる落ち着きのない脳みそしてるから、とてものことふたりのようには出来ないね。
(エルサは読書好きから、フィーユはご実家のお仕事柄から培われたものなのかな?)
わたしが仕向けた問いの回答にも、全力で頭脳を働かせて考え抜こうとする姿勢はとても真似出来ないし、尊敬する。
(夢の中のわたしが負けたのも必然だね)
こんな子が、なんで王太子殿下相手に下手うってたんだろ?
願わくばこの現実世界でこそ、報われて欲しい。
そうやって皆んなで毎日のお勉強会を始めたら、放課後たまに残ってたりしたクラスメイトたちが、わたしたちが仲良しアピールしまくってるフィーユ嬢の存在を気にしだした。
隣りのクラスの子だし噂の子だし可愛いし、興味を引くのも無理はない。
特におしゃべり好きなバヴァルダージュ嬢が、件の男爵令嬢と『ラフネス』が何やら集まってやってるらしいぞ?と放課後すぐ帰る子たちにまで広めると、徐々にクラスメイトの野次馬が増えていった。
文句言うほどではないけれど、なかなかに迷惑だ。
女子は、まだいい。
わたしたちが教え教わりしてたら、自分たちも混ぜてくれない?と素直に勉強会に混ぜて欲しいと言ってくる子たちがいたりするくらいだ。いっしょに予習復習テスト対策してるだけだから、全然問題ない。
鬱陶しいのはアホな男子連中だ。
勉強するわけじゃないのにちょっかいかけてきたり、あれこれ質問するふりして話しに入ってこようとしたりする。
同じ班のユージーンやアミーなんかが居る日は「やめろ」と抑えてくれたりするけど、その都度、手が止まる。集中しきれなくなる。
特に綺麗系のエルサが重点的にちょっかいかけられるから腹立つ。「ねーねー、これさー」と、しょーもない質問ばっかだ。
どちらかと言えば男子が苦手な方のエルサは、振り払うわけにもいかず、その度に戸惑うように苦笑して勉強にならない。
さすがにイラッとした。
「だからここまでやってきたことを一般化できたらコッチとこっちがイコールでない事が確定するでしょ!んでMの構造にγ0でも何でもいいから加えてこの論証に当て嵌めたら上手くいくでしょうがウルサいなぁっ!」
つい、絡んでくるアホな男子を怒鳴りつけてしまった。




