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フィーユ・シャルマン男爵令嬢

 シャルマン男爵令嬢は、わたしを人目につかないところへ促した。



「さきほどは、ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げる。正直、この子からコレをされるのはむず痒い。

「何の事でしょう?わたしは探し物をしていただけですので」


「私の事、知ってますよ…ね?」

 シャルマン嬢が少し弱い声で言う。いや、知らんよ。わたしから王太子を取った相手ってくらいで、交流とか無かったし。

「……お噂程度ですわ」



「では、噂を知った上で助けてくださった事には感謝します。だけど、これ以上私と関わると貴女にも迷惑かかると思うから、次からはもう私から『ありがとう』と言うのも控えさせてもらおうと思って」

 仲間だと思われて、同じ扱いされるのを防ぐためなんだろう。今も誰かに見られないよう気を使ってる。わたしを気遣ってくれてるのは驚きだけど、シャルマン嬢、相当メンタル参ってない?




「あのさぁ、わたしも噂くらいしか知らないけど、王太子殿下に直接アタックするの、もうやめたら?」

 効率悪いし、外聞も良くないし。敵を作るだけの結果にしかなってないからオススメしない。

「……わかってます」

 クルッとわたしから顔を逸らした。隠そうと重ねた拳が小刻みに震えてる。


「それでも、やらなきゃいけないんです」



(独り悔し涙を噛み殺してまで、王太子殿下にちょっかいかけるなんて…)

 この子の意志ではない誰かに強要されているのだろうか。それもやけに急ぐように…。

(夢の中じゃあ、あんなラブラブで、いやになるくらい甘ったるかったのに)

 ここから二年であの状態になるのかな?道筋が全然見えないけど。


 それよりあの王太子殿下の今の状況が、とてもじゃないが緩い雰囲気になる気がしない。



(それを突き崩すのはどうせこの子なんだろうって放っておいたんだけどね……)

 あくまでわたしが見た夢の中だけの話だと分かった上で、あの王太子がシャルマン男爵令嬢に向けてた眼差しは、政略や打算だけでない優しさ慈しみがあった。ずっとわたしが欲しかったものだから、良くわかる。



 だからいつかふたりはあの状態になるんだろうと思ったし、シャルマン男爵令嬢自体に、それが不自然に思われないだけの魅力的な容姿が備わっているから心配してなかった。

(腹立つけど、クリッとした目元やパッチリ睫毛、ツンッとした鼻筋なんて、成り上がり貴族とは思えないくらいには可愛らしいもんね)



 ただ、近い将来そうなるだろうとはいえ、それを達成するまでのこの子の無謀なチャレンジで学園全体の空気が重くなってるのは、正直勘弁して欲しいんだよなぁ……。










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