サボれるだけサボろう
しばらくして、再び侍女が呼びにきた。家庭教師の先生がお待ちだ、という。
(体調悪いって、言っといたよね?)
「今日は気分が優れないので、お休みします、先生にもお引き取りを」
そう伝言するよう指示すると、今度はカナ切り声で喚きながら、家庭教師の中年女性が入ってきた。
勉強が遅れますよ!情け無い!愚鈍!間抜け!
いつもうんざりするほど聞かされているわたしに対する罵詈雑言の評価を寝起きの耳元で聞かされ、本当に気が滅入る。
「本日は見ての通り体調が優れません。ご足労かけておいて申し訳ありませんが、今日のところはお引き取りを」
殊勝な態度で頭を下げる。ヒステリックなキンキン声は脳に響く。さっさと出て行って欲しい。
「あるいは授業をやったていで、時間までお茶を喫してお寛ぎください。ウチのものに用意させます」
と、一緒になって部屋に入ってきていたアビゲイルに指示する。ついでにあなたもその間休んでて構わないわ。わたしは寝る。
散々わたしへの悪口をフェアネス家の使用人たち相手に言いながら、上機嫌にお茶して帰った家庭教師。
(アレに教わる事も、特に無いよね…)
次からも理由をつけてサボろう。身にならない勉強より、もっと楽して愉しみたい。夢で見たような生き方はごめんだわ。
その後お昼時になったけど、父と長兄は出仕し次兄は学園に行ってるが、母と下の双子と会うのも何となく嫌だったため、多少腹は減ったけど変わらずベッドでゴロゴロしてた。
お茶の時間になり、軽食が運び込まれて本日初めての食事。
「甘いのはたべるんだ」
と小馬鹿にしたように笑うアビゲイルをジロッと一瞥し、
「わたしはあなたに、朝も昼も手軽な食事をもってくるよう命じたはずよ?あなたの怠慢で食べれてないだけ」
一応体調不良と称してる手前、自分で食い物を取りに行くのはよろしくない。
あと、この部屋で出来る事といったら…
「湯を用意しなさい」
石牢に入れられて以来、久々の入浴だ!こびりついた垢を洗い流してサッパリしたい。
アビゲイルは心底嫌そうな顔をしてめんどくさがったが、食事の事で詰られて引け目に感じたのか、命じられた通り真面目に風呂を用意してくれた。
(案外可愛げがあるじゃん)
ちょっとだけ見直した。