夢とは状況が違う模様
「ほら、あれよ」
と、バヴァルダージュ嬢が指差したのは、王太子一団にアタックしている外部生の女の子だ。
(お、男爵令嬢じゃん)
不思議と、大昔に夢の中で見ただけの顔なのに、今でもそのまつ毛の一本一本までハッキリと思い出す事の出来る仇敵『フィーユ・シャルマン男爵令嬢』だ。
今生では関わり合いになりませんようにと願い、そそくさとクラスメイトたちの陰に隠れる。
……と、思っていたら、王太子の婚約者候補だという取り巻きの侯爵家令嬢が、
「いい加減になさいっ!!」
空気の震えるような迫力ある声で、一喝した。
(あ、あの天使のように可愛くて可憐だった侯爵家の女の子が、そんなキャラじゃなかったじゃない……)
幼少期の追憶、わたしととても仲良くしてくれた可愛い可愛いドリアーヌ・リヴァル嬢の今の姿を見て、懐かしさが込み上げてくると共に気品ある侯爵家令嬢に成長した時の流れを痛感する。
(強い女性になりすぎでしょ……)
あぁ彼女たちは、自分とは違う時間を生きてきた方々なんだな……。
よよよっと、ちょっとした感動で泣きそうになった。
シャルマン男爵令嬢は、その無礼さを叱責され追い払われた。
(あれ?王太子、一瞥もくれてないぞ??)
わたしの夢の中ではあんなにラブラブだったのに、親しくなるまでにはまだ期間があるのかな?夢の中で知った時は、もうふたりはかなり親しくなってた後みたいだから、こんな険悪な時もあったんだ、と感心した。
(あぁ、そういや確かなんか外部と内部のいざこざで?どうだかして仲を深めた、とか?言ってたっけか?)
興味無さ過ぎで覚えてないや。
そうだとするなら、男爵令嬢が入学間もないこの時点で、あんな「王太子殿下好き好き!」なんてアプローチしてるのは不可解だ。
彼女も外部生のはずだから、式典で一目惚れしたんだとしても急ぎすぎてる。
「にしても、王太子さま連れなさすぎない?」
「いや、あれはそうなるでしょ…」
わたしの疑問に、アンバーもエルサも否定的だった。
「内部生なんて未来の高級官僚さまでしょ?アタシらとはそもそも学園での目的が違ってるんだから。ましてや王太子殿下に話しかける無礼なんて……」
と、アンバーは震えてみせた。
「そうなの?」
内外部生ってそんな関係性だっけ?知らなかったわ。
だとしたって、王太子は無関心すぎる。
というか、彼女の実家のシャルマン男爵家の勢力を取り込みたいはずの王太子側から、フィーユ嬢の方に擦り寄っても良さそうな話なのに、取り巻きたちはむしろ、フィーユ男爵令嬢を王太子の周囲から排除しようとさえしてる。
(わたしがフェアネスから逃げたんだから、次ぎは男爵のとこの新興勢力を早く後ろ盾にしとかなきゃヤバくない?)
それかフェアネスの末の妹を代わりに貰えた?
王太子のやる事なんて正直知ったこっちゃないけど、国家の安定度具合からして心配になる。王太子の立場が脆弱で不安定だと、“あの男”の台頭があるかもしれない。それは一国民として、嫌だ。
でももしかしたら、もう婚約者候補の中から別の誰かひとり、決定しちゃってるのかな?とも思う。
それこそ、麗しのリヴァル侯爵令嬢かな?
彼女たちは元から王太子側だから、取り込んで地盤を広げて強固にする、ってのにはちょっと向かないかもしんないけど、あそこならばフェアネス侯爵家の威名の代わりに十分なるでしょ。
まぁもしそうだとしたら、男爵令嬢ともどもご愁傷様です(合掌)




