まぁ予想通りの妥当な扱いだわ
翌朝から、わたしとアビゲイルのふたりには、下積みもかくや、というくらいの労働が課せられた。
商隊では、いっても八歳の少女に出来る程度のお手伝いだったが、領邸では当然のように一人分の仕事を要求された。
不慣れな上に意図的に力仕事ばかり回されて、さすがに体力的にヘトヘトだ。だけれど、目的のためにはまだ放り出されるわけにはいかない。
病気療養に静養にきた侯爵令嬢になんて扱いだ!とアビゲイルが憤激してたが、前侯爵にしてみりゃそんな無駄飯食らいを養う義理などあるわけない。
(だから着いてくるなって言ったのに……)
呆れて諭したら、あたし悔しくて悔しくて!と、ついに泣き出した。
領邸の使用人たちは、あからさまにわたしたちを嘲笑し嫌悪してる。与えられる食事も残飯に近い。
(食えないことはないけれど……)
わたしはともかく、アビゲイルには辛いばかりだろう。
仕方ない、ここでしばらく侯爵家を騙くらかすつもりでいたけど、計画を前倒しにするか……。
「アビー、逃げるなら逃げていいよ?その前に最後のお願い聞いてくれる?」
泣き顔のアビゲイルの頬を左右から両手で挟んで、その目をじっと見つめて真面目な話を切り出す。
「最後だなんて…っ!あたしはあんたの世話係よ!あんたが居る限りあたしもやるわよっ!」
涙をブワッと溢れさせ、強く否定してきた。
なんだなんだ、変に意固地になってるなぁ……。
「いいえ、お使いを頼まれて欲しいのよ。わたしの手紙を持って、とある伯爵家に連絡とってもらえる?」
この領邸の使用人たちも和気藹々としていて、関係性は良さそうだなぁ。
などと、無視と嫌がらせを受けながら水汲み薪割りの力仕事をなんとかこなしていると、付き人を引き連れた前侯爵夫人が、
「穢らわしい女狐のガキが!」
と、わたしを見るなり罵声を浴びせてきた。
━━━━わぉ、わたしが侯爵の子じゃないってだけじゃなく、生母も嫌われてたのか!
ちょっと新鮮な驚きだった。じゃあ双子の弟妹も、もしかしたらこの老婆は嫌ってるのかもしれない。
(王都でも有名な実母とフェアネス侯爵とのロマンスって、実際どうだったんだ??)
あの弟はともかく、妹がこのババアに傷つけられるのは可哀想だな、と少し思った。でもまぁ妹にも、そこまでたいした思い入れはないけど。
さすがにこの出来事は侍女の立場のアビゲイルには我慢ならなかったのか、わたしの制止を振り解いて前侯爵夫人に抗議し、案の定「無礼者!」と折檻を受けて、食事抜きの反省部屋に三日も入れられてた。何やってんだか……。
三日後、衰弱して出てきた彼女はポロポロと泣き崩れ、わたしの脱走の案に従うと言った。
わたしは侯爵家から隠し持ってきた資金を渡し、かねてからの計画通りの手紙を書いて、アビゲイルに託した。
「くれぐれも気をつけて。ここからそう遠くはない地とはいえ、絶対に最優先は自分の身を守る事を第一にするように」
不思議と自然に、アビゲイルを気遣う言葉が出てきた。自分でも意外だけれど、わりと本心だ。
━━━━あなたがいて助かったわ。
今ならもうちょっと、別の感情も込められるかもしれない。
向こうに手紙を渡せたら、返事はお金使って商人に言付けして依頼するのが確実だよ。自分で持って来ようなんて思わないように。
きっちりと言い含め、わたし独りを残す不安を口にするアビゲイルを闇夜に紛れて送り出した。




