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侯爵領到着

 お世話になったキャラバンにお礼を言い、残りの謝礼金の署名をする。この札をフェアネス侯爵家への請求に回せば、わたしの馬車代を侯爵が支払ってくれるでしょう。



 隊商と別れたわたしは、風光明媚で豊かな侯爵領の街道をしばらく歩く。今日はとても良い天気だ。散歩には丁度いいね。

 そうして領都の中心、行政府の領邸前へやってきた。


「あなたがいて助かったわ」

 一緒に歩いてきた侍女のアビゲイルに言うと、アビゲイルはなぜか変に嬉しそうになった。

「じゃあ、はい、コレ」

 長兄の紹介状よ。先触れで領邸に挨拶してきて。

 下仕えが居なかったら、役所の誰か捕まえてお金払って頼まなきゃいけないとこだったわ。あんたのおかげで無駄金使わなくて済む。ほら、行ってきてよ。


 領邸を目の前にしてそう言うと、アビゲイルは今度は急にプンプン怒りだした。いや、意味分からん、いいからさっさと行けよ。


 路傍の石に腰掛け、爽やかな風を感じながら待つ。



(まぁ、歓迎はされないよね)

 アビゲイルには言わなかったが、侯爵領邸に住むのは前侯爵と前侯爵夫人だ。現フェアネス侯爵の両親だ。

 ふたりは当然、わたしの出生を当然のように知っている。そして当然、わたしを毛嫌いもしている。


(あの子もわたしについて来なけりゃ、嫌な目に遭わなくて済んだだろうに)

 歓迎されないであろう事は、確定事項なのだ。



 わたし達は昼前に着いて、そこから夕方日暮れ近くまで待たされた。それでもまだ、アビゲイルに持たせた手紙の返事が来ない。具体的に言えば領邸の守衛が、門の定位置に立ったまま目の前の石に座るわたしを迎えに来ない。

 その間、ぼーっと道行く人々を眺めてた。

 噂に違わぬ街の豊かさが察せられる。

 活気があり物流が多く、年齢層も老若男女幅広い。


(ホント、侯爵は理想的な施政者なのよね~)

 家族思い仲間思い領民思いの人格者で、優れた政治家で人気も高い。当然、その親である先代も領民に愛されてる。


 わたしだけが異物なんだわ、ホント。


 さてそろそろ、当初の予定通りに宿でも探しに行くか、と尻の埃を払い歩き出したら、それまで動く気配も無かった門番が、慌ててわたしに声かけ引き止めてきた。

 なんだ、もう返事はきてたのか。

 単に嫌がらせで放置されてただけみたい。




 門に招き入れられると、明らか下人が案内にきた。凄く胡散臭げな目で見てくる。

 気にしない。理解できるから。

 正門ではなく勝手口から邸宅に入る。執事や家人の挨拶も無い。


 邸宅奥の応接間に連れられ入ると、中にいたアビゲイルが泣きそうな顔で縋ってきた。

 あとは厳しそうな老侍女ふたりと冷徹そうな執事の老紳士。


 そして、昔数度見たことある前侯爵の厳めしい顔。



(ここに数時間閉じ込められてたのは、不良侍女にはなかなかと堪えただろうな)

 まぁでも忠告したのについて来たんだからしゃーないよね。



 汚れた衣装を摘んで、ちょこんとカテーシーをし、御目見得の挨拶をする。

「病気療養というわりに、ずいぶんと生意気そうな小娘だ」

 孫娘に対する第一声が、コレだ。どこが素晴らしい人格者のフェアネス一族だ、笑わせる。


「お陰様で、数時間綺麗な空気を吸わさせていただいたので、わたしの肺も喜んでいるようですわ」


 わたしを見る、忌々しそうな前侯爵の目つき。

 アビゲイルは、なんでなんで?!孫なのになんでこんな険悪なのよ!?と本気で涙目になってる。自分が思ってる病気療養の付き添いイメージとは、よほど違ったんだろう。


「離れに部屋を用意した。好きにしろ」

 吐き捨てて、用は済んだとばかりに前侯爵閣下はわたしたちを追い出した。

 部屋を出た瞬間に、老侍女のうちの偉そうな方が「明日から!おふたりには!それぞれの仕事をしてもらいます!」と甲高く命令してきた。

「なんだと!」と抗議しそうになるアビゲイルを押し留め、わたしは「よろしくお願いします」と頭を下げる。


「なんで!あんたは侯爵家令嬢でしょ!」と食い下がってくるアビゲイルを、「追い出されたくなかったら従いなさい!」と叱りつける。

(やっぱこの子、分かってなかったわ……)

 うんざりした。わたしのフェアネス家での扱い考えたら、前侯爵夫妻のとこ行ってまともな扱いされるなんてあるわけないじゃん。

 アビゲイルは事故が起こる前に王都へ返した方がいいかもね。そっちも算段しなくちゃ。



 わたしたちに当てがわれた離れの部屋は、完全に下女の物置き倉庫だった。

 雑魚寝大部屋じゃなくわたしたちふたりにしてくれたのは、何だかんだ言って配慮はしてくれてるんだろう。いきなり先人と仲良くなんて出来ないからね。


 さて、明日からは下働きの女中として頑張りますか。









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