どうしてこうなった ~ざまぁな結果に終わった転生ヒロインは、内政チートでのんびりまったりなスローライフを送る! ハズだった~
13作目になります。
前世知識とチート能力でNAISEIした、チート転生ヒロインの物語です。
誤字報告ありがとうございます。
いつも助かります。
皆様のお陰で、2023.10.30の日間ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング一位になる事が出来ました。
本当にありがとうございます。
その日、ヒロインは前世の記憶に目覚めた。
彼女はこの世界が、前世で遊び倒した乙女ゲームの世界であった事に、気付いたのだった。
事故か病気のどれかで、若くして命を失った前世からの、ヒロイン転生という勝ち組となった彼女は、早速前世の知識を総動員して攻略を始めた。
王太子とその側近である貴族令息達が、攻略対象である。
元ネタの乙女ゲームでは個別エンドの他に、ハーレムエンドが実装されている。
ハーレム……男子にとって男の浪漫だが、女性にとってもそれは夢である。
しかし、ヒロインは敢えてハーレムルートを拒否し、本命たる王太子攻略を目指した。
彼女は本命である推しに一途で、それ以外の攻略対象にはそこまで関心が無いのだ。
やり込み派ゲーマーとして、イベントスチルやあらゆる称号をコンプリートする為に、全クリはするが。
これが結果的に彼女を救う事になる。
ゲーム開始である学園への入学式で、王太子との出会いイベントを起こし、それから攻略ルートに乗る為に、彼女は様々な努力をした。
元ゲーでは好感度を上げる為には、ただ選択肢を選ぶだけではなく、勉強による知識やマナー、容姿などの能力値を一定の値まで上げる必要がある。
その上で期間内に、ある程度攻略対象全員の好感度を上げて、信頼を得なければならない。
能力が低いと留年もしくは退学というバッドエンドがあるし、好感度が足りないと誰とも結ばれずに学園を卒業するノーマルエンドもある。
昨今の乙女ゲームにしては、割と攻略が面倒なゲームなのである。
だが面倒な分、自由度は極めて高いので、恋愛そっちのけのルートが複数あり、中には王国のスパイとして活躍するルートなんかもあったりする。
前世のヒロインは、このゲームを相当やり込んだ。
全ルートクリアは勿論、ファンディスクやDLCのオマケ要素もやり込み、設定資料集まで読破している。
こと、王太子ルートにおける、王太子のセリフは空で言えるくらいだ。
更に必要な能力値の獲得だけではなく、カンストすらも可能なやり込みぶりだったので、正に彼女はこの世界では最強のチートヒロインであった。
そんな彼女だが、この世界の違和感に気付く事は出来なかった。
前世の記憶に加え、高い能力を得たのにも関わらず、悪役令嬢の存在を不自然なまでに認識していなかったのである。
一応、王太子の現婚約者として、ヒロインに注意をしたり、ヒロインに対する嫌がらせを、悪役令嬢の取り巻き達が勝手に起こしているなど、イベントが起きていた事もあるが。
やり込みをしていても、王太子以外にはそこまで関心が無かったのと、能力アップの為に日々の努力をしていた事もあり、悪役令嬢が悪役で無い事に気付く事は無かった。
能力値をカンストレベルまで上げ、王太子の好感度もMAX、その他側近達の好感度も攻略ギリギリまで上げ、一歩踏み出せばハーレムルートを完成させる事も可能なまでに至った。
後は卒業式と悪役令嬢との婚約白紙イベントを行えば、無事エンディングである。
悪役令嬢は本来なら婚約破棄となり、大勢の前で恥を搔かされるのだが、ヒロインとしては嫌がらせは受けたものの、攻略の為の必須イベントと割り切っている為、悪役令嬢に恨みなど無い。
ゲームではざまあと思ったが、現実ではちょっと可哀相な気がするので破棄ではなく、白紙と言う形で収めたかった。
そもそも、自分のやっている事は所謂NTRである。
ゲームはまだしも、現実ではやはり後ろ暗さがあったので、なるべく穏便に進めたかったのだ。
そんなある日、元ゲーではちょっとしたイベントスチル獲得の為の、王国記念式典で王太子達がやらかした。
なんと、この場で悪役令嬢の断罪と婚約破棄を行ったのだ。
想定外の事態に流石のヒロインも目を白黒させた。
「え……? 何で? どーして!?」
本来であれば、今回は攻略対象と一緒にダンスを行い、スチルゲットの為だけのイベントに過ぎない。
なのにここでクライマックスである。
困惑するヒロインを他所にどんどん暴走していく王太子達。
好感度MAX王太子と側近達が、このような事をした理由として、ヒロインへの好感度と信頼度が上がり過ぎた事が原因である。
ヒロインの能力値がカンストレベルまで行ってしまった為、王太子の愛情や側近達の信頼が信仰の域にまで達してしまったのである。
その結果、ヒロインを害する存在である悪役令嬢を目の敵にしてしまった。
捏造ではあるものの、それなりに真に迫ったヒロインへの虐めの証拠を作り、それを以て悪役令嬢を排除しようとしたのである。
ヒロインはカンストした知力をフル回転させてこの状況を整理した。
そして、気付いた。
これは前世で良く読んだ、悪役令嬢が主役の婚約破棄物のそれだという事に。
少し考えれば違和感はそこら中にあった。
悪役令嬢との絡みが余り無かったが、接触を持った際は、短慮でヒステリックであった彼女とは別人のような佇まいであった事。
学園での評判も、本来なら最悪な物であったはずなのに、学園一の淑女であると評されていた事。
ヒロイン虐めイベントでは積極的に顔を出していたのに、全く出て来なかった事。
何故今まで気付かなかったのか。
変なマイナス補正でも掛けられていたのか?
いや、今はこの場を何とか収めなければならない。
何故ならこういう時、悪役令嬢が自力でざまあ返しを行うか、もしくは……。
そう思った時、会場に威厳のある声が響き渡った。
やっぱり出て来たよ、悪役令嬢のヒーローである。
悪役令嬢物あるあるの、婚約者の王太子よりも能力、美貌、地位、全てが遥か上のスパダリである。
終わった……と、ヒロインは思った。
彼は王太子達が用意した証拠の矛盾点を指摘し、逆に彼等を断罪した。
ヒロインが弁明しようにも、王太子側が悪である事は明白である上に、男爵令嬢に過ぎない自分では、どれほど詭弁を弄した所で、火に油を注ぐだけでしかない。
故に沈黙を選ばざるを得なかった。
こうして、王太子達は公爵令嬢たる悪役令嬢を貶めた罪で、断罪された。
王太子達は廃嫡されたが、ヒロインは王太子達の巻き添えは喰らわなかった。
学園の成績優秀者である事に加え、高位貴族である彼等に囲われた立場にあり、男爵令嬢としてはどうにも出来ない状況であるからだ。
その結果、悪役令嬢は関わっていないものの、他の令嬢達からは虐めを受けていたと言う事実もあった事から、お咎めは無しになった。
尤も、廃嫡された王太子の婚約者と成ってしまったが。
悪役令嬢の婚約破棄宣言に加え、ヒロインとの婚約まで宣言してしまったので、それを反故する訳にはいかんという事だった。
王太子から男爵の婿養子と言う、一見すると悲惨な処分と思われたが、ヒロインは喜んだ。
最悪、元王太子は幽閉されて自分は処刑、もしくは国外追放も考えられたからだ。
学園生活で学業と、健全な攻略を全うしていた甲斐があったという物だった。
元王太子達は『どうしてこうなった』と項垂れていたが、ヒロインとしては首の皮一枚で繋がったので、それに安堵した。
それから悪役令嬢は、例のスパダリの帝国へと渡って行った。
やらかしから謹慎処分を受けた元王太子達は退学となり、ヒロインの男爵領で面倒を見る事になった。
側近達は最初は親達によって鍛え直される予定だったが、男爵領は辺境の地で、余り裕福でないどころか過酷な環境でもあった。
故に纏めて男爵領に送られたのだった。
ヒロインは学園を中退した。
学園の先生方からは止められたが、例の婚約破棄の件で責任を取る為として、ヒロインは学園を去る事にした。
かなり惜しまれたが、例の件を出されてはどうしようもないと、退学届けは受理された。
ヒロイン的には能力はカンストしてるので、通う意味も余り無い上に、元王太子達を男爵領で放っておくのも忍びなかったからである。
当初は王太子と結ばれて、王国の母になる事を目指していたが、今となってはこれで良かったのかもしれないとヒロインは思った。
容姿や礼儀と言った能力も、勿論カンストしているが、それはそれとして貴族社会めんどくせえと言うのが本音である。
現代日本で生まれ育った前世の人格的に、この世界の貴族社会は息苦しいのだ。
それに国母となると自由時間を取る事すら怪しいので、身軽な男爵の方がマシと言う結論に至った。
男爵領に戻ったヒロインは、早速行動を起こした。
前世の知識によるNAISEIである。
幸い、学園でカンストした知力チートのお陰で、前世のあやふやな知識が補完され、更にこの世界で活用出来るように成っていた。
「やっぱ、異世界転生の醍醐味は知識チートよね!」
学園物乙女ゲーの枠を飛び越えた、ヒロインのチート生活の始まりである。
先ずは農業から手を付けた。
辺境の男爵領は広い土地を持ちながら、大部分は未開発であった。
生活に使える土地は狭く、当然ながら生産量は少なく、男爵領は常に貧乏であった。
ヒロインはまず土地を開墾し、領民が豊かな生活を送れるようにした。
開墾の為の道具を揃える費用は、元王太子であったオーウェンの持参金から出して貰った。
ヒロインを愛し、信仰すらしているオーウェンは快く支払ってくれた。
開墾に当たり、危険な魔物の駆除には、元側近で騎士団長令息にして攻略対象でもあった、レイドの力を借りた。
彼もまた、ヒロインを信仰しているので、魔物の駆除に尽力し、男爵領の武力担当となった。
もう一人の元側近にして、宰相令息かつ攻略対象であったフォウルには、男爵領の流通や商品の交渉など、経済担当となった。
何だかんだで、元王太子と側近達は優秀な能力を持った人材である。
オーウェンの指導の元、男爵領は一つに纏まり、力を徐々に付け始めている。
何せ王族が先頭に立っているのだ、領民も付いて行くしかない。
長年頭を悩ませていた魔物も、レイドの持つ武力で次々と駆逐されていく。
フォウルによって、男爵領内での問題を指摘、解決された結果、風通しが良くなり、運営がスムーズになって行く。
その陰にはヒロインの知識チートが絡んでいるが、彼女は基本余り表に出ずに、オーウェン達三人に任せている。
三人はその優秀な能力によって、物事を良い方向に回しているが、それがヒロインの知識を実践しているからである事を自覚している。
改めて、ヒロインへの信仰を深めるのだった。
ヒロインは前世の知識と今世の知識を、極まった知力で混ぜ合わせ、次々と成果を上げて行った。
農地改革と農業の効率化による生産量のアップに加え、様々な加工法により農作物の価値を上げていく。
更に紙の生産に着手し、大量生産に成功した。
これにより、読み書き用の用紙だけでなく、トイレットペーパーも作られた。
これが貴族社会において絶大なムーブメントを起こしたのだった。
そして衛生観念を徹底し、水洗トイレ、ウォシュレットをも発明した。
これは正にトイレ革命とも呼ばれ、王国のみならず大陸を席巻した。
紙の生産と流通が盛んになった所で、ヒロインはある文化的行動を起こした。
彼女は前世、オタクであったが、自らもクリエイティブな活動をするオタクだった。
同人誌と呼ばれる二次創作漫画を描いたり、衣装を作りコスプレイヤーとして活動するアクティブ系オタクだったのだ。
今、彼女は創作欲に飢えていた。
何と言っても乙女ゲームの世界に転生しているのだ、そりゃあ捗るという物だ。
彼女は紙にイラストや漫画を描いたり、他ゲームやアニメ、漫画のキャラ衣装をデザインするなど、精力的に活動していた。
また、前世で良く聞いていた歌謡曲やアニメ主題歌、ゲーム音楽の楽譜を作り、実際に演奏をさせたりしていた。
これらがオーウェン達の目に止まり、芸術作品として公表される事になると、これまたとんでもないムーブメントを生み出したのだった。
彼女のデザインした衣装は、この世界の王侯貴族達の琴線に触れた。
当然ながら、元ネタはゲームやアニメのキャラクターの衣装で、現実の日本ではまんまコスプレであったのだが、この世界においては高い親和性を持っていた。
瞬く間にそのデザインは貴族の間で流行となり、更にイラストや漫画も話題となった。
基本的にこの世界において、人物画は写実的に書かれた代物である。
ヒロインの描いたイラストは、元の特徴を捉えつつデフォルメされたキャラクター画なのだが、この世界では全く新しい、斬新な絵柄として評価されたのである。
更に漫画の技法もまた、この世界には無い概念であり技術であった為、芸術家の間で話題になっていた。
前世のヒロインは、絵も漫画もそこそこの上手さであったが、世に出る大量の作品に埋もれる程度の物であった。
それが能力カンストによるチート性能により、現代日本でもプロレベルと言える腕前へと昇華されていた。
それ故に、この世界の人々は魅了されたのである。
発表された音楽も、前世の流行歌だったり神曲と呼ばれた物だったので、多くの人の心を掴んだ。
更にこの世界はクラシックやオーケストラが主流なのだがその中で、ロックやバラード、ポップスと言った既存の音楽には無いジャンルも評価された。
ヒロインのやる事はこの世界には無い、全く新しい未知の概念であった。
その上で前世の日本や世界でも評価された、音楽や漫画をそのままパクっているのである。
大流行するのは当然であった。
ヒロインは更に、100円ショップでお馴染みの、ちょっと便利なグッズもこの世界で使える形で公表していた為、これに目を付けた商人達が大挙して押し寄せてくる。
人、物、金が大陸中から集まって来るので、男爵領は王国どころか、大陸でも有数の経済発展を遂げていた。
数年後、ヒロイン達の住む男爵領はトイレ革命の聖地及び、芸術の都として大陸中から注目される事になった。
大陸中から識者や芸術家、商人などが大量に男爵領に来るようになり、毎日がお祭り騒ぎだった。
生産量を上げる為、近隣領地すらも呑み込んでいった男爵領は、王国の国土の凡そ3割近くを掌握していた。
最早、大貴族のそれである。
王国側は危機感を覚えるものの、男爵領から得られる莫大な税収と、無理に奪おうとした際の危険度を鑑みた結果、手を出せない状態であった。
ヒロイン達としても国の運営なんて面倒臭いし、利益はそっちにも還元してるんだから邪魔すんなというスタンスである。
過去に何度も、オーウェン達の廃嫡を解き、王国中央へと戻るような嘆願もあったが、彼等はこれを拒否した。
死ぬほど忙しいが、恐ろしい速度で発展していく男爵領の行く末を見たい事と、最早女神の如き信仰する、ヒロインと共に歩んで行きたいからである。
農作物にそれらの加工品や料理、芸術、その他色々な道具や設備など、あらゆる方面で現代知識チートを発揮した結果、とんでもない規模で発展した男爵領。
この領が新しく世に放った品物は全て、大きな流行を生み、近隣諸国や彼の帝国すらも魅了した。
取り分け、帝国の皇室御用達になった嗜好品は、非常に大きな価値を持ち、巨万の富を生み出していた。
ここ数年で凄まじい発展を遂げた男爵領は、遠からず王国すら呑み込むのではないかと言われていた。
ヒロイン達はそんな気はサラサラ無いのだが。
とは言え、王族であるオーウェンを筆頭に、レイド、フォウルと言った王国重鎮の令息が住んでいるため、血筋的にも割と問題が無いのである。
更に王国のみならず、各国の俊英達が集い何故かヒロインを崇拝しているという状況だ。
最早現人神状態のヒロインである。
「どうしてこうなった……」
流石にこれは行き過ぎたなーと、ヒロインは内心ドン引きしていた。
現代知識とカンストチート能力、更に優秀な手駒を率いているのだから、当然と言えば当然である。
帝国すらも無理に事を構えるよりも、良好な関係を築いた方が得策と言うほど、男爵領はアンタッチャブルな存在になっていた。
「おかしいなー……現代知識チートでNAISEIしつつ、のんびりと趣味に生きる、スローライフを目指していたのに……」
王妃となって国の運営に携わる事よりも忙しくないか? と、ヒロインは訝しんだ。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。