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リーヴル  作者: 西埜水彩
第二章 聖さんと響さん
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近鉄奈良駅

「えっと奈良駅に行くためには、どの電車に乗ればいいのかな?」


 駅に表示されている路線図をしっかり視る。


 バスに乗って駅に着くことまでは迷わずできた。あとは『リーヴル』の最寄り駅があるところへ電車で行くだけ。


 乗り換える駅の書いたメモを持ち、ホームで電車を待つ。


 見慣れない電車をちらほら見かける。私が乗らなきゃいけない電車もはじめて見たデザインだ。


 いやはじめてではないかもしれない。遠い昔に見たことがあるかもしれない。でもこの電車に親しみを抱くことが、私にはできない。


「もうすぐ文化祭やな」


「そうやな。練習せなあかん」


 目の前で話している女子高校生2人の会話にも違和感がある。入院してからたくさん聞いているはずの関西弁、それに私はまだ馴染めないでいた。


 電車での言葉に関する違和感。このことから私は記憶を失う前までは、奈良県いや関西ではないところで住んでいたと推測できる。それじゃあなぜ私は奈良県にいたのだろうか、そこが疑問だ。


 失ってしまった記憶。その手かがりは一冊の同人誌だけ。こんなハードな状況で、私は行動しなくてはいけない。


 そのために私は今日同人誌があるという、さーかさんに薦められた『リーヴル』に向かっている。


 電車を上手く乗り継いで、最寄り駅に私は到着した。


 最寄り駅は県名の名前がついていることもあってか、とても大きな駅だ。そのうえたくさんの人がいる。


 この駅から世界遺産へと歩いていくことができる。それで人が多いんだろう、閑散としているわけがない。


 何番出口から出れば良いのかな? 駅から『リーヴル』への地図は持っているものの、今どこにいるか分からないから頼りにはならない。


 しゃーない。まずは改札から出よう。


 たくさんの人が出ていくのについていき、私は改札の外へと出る。


 周りの人が使っているICカードも新鮮に見える。私は持っていないよく分からないけど、記憶にあるICカードはここではあまり見かけない。やっぱり私はこの辺りに住んでいる人じゃない。どこか別の場所から奈良へやってきたのだ。


「えっとあの出口からだと東向商店街へと出て、あっちの出口だと小西さくら通りにでる。どれがいいんだろう」


 改札の外で、地図を見ながらどこの出口から出ようか考える。


 私の行きたい『リーヴル』は駅のすぐ近くにはないらしい。そこでどの出口から出たらいいのか、全く分からない。


 何度もこの駅へ来たことのある人なら、どの出口から出れば良いのかすぐに分かるはずだ。ただし私にこの駅に関する記憶がない以上、私は今はじめて来た可能性がある。


 本当にどうしよう。とりあえず駅を出てから考えようか。


「どうしようー。行くべきか行かないべきか」


 私の気持ちを代弁するような声が聞こえてきた。


 思わず、声のした方を見る。そこには金っぽい茶髪の人が、同人誌を持ってベンチに座っている。


 その人が持っている同人誌、それこそ私の記憶の手がかりとなる『琥珀糖』だ。もしかしてあの人は記憶を失う前の私とつながりがあるのではないだろうか? すごく気になる。


「すみません。私はその同人誌を手に入れることができるところを探しています。そこでどこで手に入れたのか、教えてくれないでしょうか?」


 会ったことがない人にたいしていきなりかなと思ったけど、質問してみた。


 いや会ったことがある可能性は残っている。私が忘れているだけで、以前に関わったことがあるかもしれない。同じ同人誌を持っている以上、完全な初対面じゃない可能性はあるのだ。


「これは会社の先輩からもらったんです。そういえば話変わるんですけど、髪染めてますか?」


「染めてません、地毛です。ところでこの同人誌は会社の先輩が作ったんですか?」


 髪の話はよく聞かれるのでスルーして、私は気になることを聞く。


「いや先輩も何冊かもらったと話していました。誰からもらったのかは聞いていないです」


 あーそれは残念。もし先輩が作った本だったら、私の記憶に関する大きな手がかりになったのに。


「そうだったのですか。実は私ある事情からこの同人誌の作者を探しているのですが、それも分からないですよね」


「そうです。でも先輩ならご存じかもしれません。なんせこの同人誌を何冊か先輩は持っているらしいですから。この同人誌の作者か、作者関係者と会ったかもしれません」


「それならその先輩に会ってみたいです」


 今はどんな小さくても良いから情報が欲しい。その先輩が同人誌の作者を知っているのなら、なんとしてでも話を聞きたい。


「良いですよ~。実はその先輩、近鉄奈良駅近くのブックカフェに今いるらしいんです」


「ブックカフェですか、それはどこにあるんですか?」


「それが実は分からないんです。それで今どうしようか迷っています」


 その人は困っているようだ。だからこそ知らない人である私との会話をしてくれたのかもしれない。私がブックカフェのことを知っている可能性があるから。


「インターネットで検索してみたらどうでしょうか?」


「検索してみたのですが、それっぽいところが見つからなかったのです。ケーキが美味しいブックカフェという話でしたが、そんなお店ありませんでした」


「近鉄奈良駅近くなら、ブックカフェは映えそうなんですがね……」


 意外にもないらしい。先輩が行っているお店なのだから、ないわけがない。となればインターネットでは見つけられないような、マイナーなお店なのかな?


「その先輩と連絡は取れないのですか?」


「それは難しいです」


 先輩と連絡が取れない。そうなればお店の場所が分かるはずがない。


「じゃあとりあえず駅から出て探してみませんか? あちこち行けば、どこにお店があるのか分かるかもしれません」


 ここは有名観光地で、お店がたくさんある。でも全部歩いて回れないわけじゃない。


 遠回りにはなってしまうけど、確実な気がする。


「そーですね。そうしましょう」


 その人はベンチから立ち上がる。


 こうして私達は同人誌の手がかりを知る先輩を探すために、近鉄奈良駅から出ることとなったのだ。

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