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リーヴル  作者: 西埜水彩
第一章 雪路さんとさーかさん
3/20

しおり

「このしおりは元から挟まっていたのですか?」


 病院にある庭のベンチ。そこに座って私は雪路さんと2人で同人誌を調べている。


「そうそう。僕はしおりを動かしていないよ。さーかも動かしていないんじゃないかな? そうじゃなければこんな状態にはなっていないよ」


「そうですね。しおりが2つ同じページに挟まっていますし」


 白に近いピンクベースに赤い太陽が描かれたしおりと、『リーヴル』と書かれたしおり。


 普通はしおりを2つ使わないから、何か特別な意味があるのじゃないかと思ってしまう。


「そうそう。なんで2つあるのか僕は分からない。さーかはもっと知らないはず」


「両方とも同じページに挟まっているんですよね」


「それもそう。この『割れたガラスの瓶』ってSSのページに挟まってる」


 雪路さんは同人誌を開く。


「この『割れたガラスの瓶』って話、読んだことはありますか?」


「あるある。幸せを作ってくれるガラスの瓶を他人に割られて、必死に直そうとするけど、どうにもならない話。バッドエンドっていうかダークエンドで、明るいところが何もない」


「そうですよね。最初から最後まで重くて暗いお話です」


 不幸なことが起きて、最後になっても幸せにならない。何よりも困っているのに誰も助けてくれない。そんな読むのが辛いSSだ。


「最後の『僕のことを助けるために、一緒に傷ついてくれる人なんて、この世界にいるわけ無いんだから。』って文章が心に残ってる。やっぱり人を助けることで、心が傷ついちゃうし」


「それもそうですね」


 1人で抱えきれない事情が他人を傷つけない安全なことではないことってくらい分かる。人助けのためには傷つくことがある。そのリスクを取らずに生きていこうとする人だって多いだろう。私もそうかもしれない。


「だからこのSSが同人誌の中では一番好きかな? てゆーかこれは僕の人生みたいだから、しおりが挟まっていたのかも?」


「とゆうことは雪路さんにこのSSを読んで欲しくて、しおりを同人誌に挟んだ人がいるってことですか?」


「そーかも。そうじゃなければしおりを2つも挟まないよ。きっと1つだけだと、外れてしまう可能性があると思ったんじゃない?」


 幸せを感じることができないほど心が傷つき、他人との関係もよくない。このSSを人生に例えるとそんな感じになるかもしれない。そしてそれが自分の人生だと、雪路さんは考えている。


 雪路さんは苦しみや辛さを抱えていて、誰の助けも得られない。そんな状況にあるようには見えない。だけどそのせいで今入院しているのかもしれない。一日中寝ているとかさーかさんは言ってたし。


 雪路さんはひどい心の傷を負っていて、生活がぼろぼろになっている。そんな気がした。


「どうですか? 何か分かりましたか?」


 さーかさんが現れた。さーかさんは入院しているわけではないので、しょっちゅう会うことはできない。まあ雪路さんとも会うことはあんまり出来ないけど、同じ病院にいるからか、さーかさんよりは会いやすい。


「しおりを見ているん。同人誌にしおりが2つ挟まっているの、前から気になっていたから」


「そうですね。今同人誌には2つのしおりが挟まっています。どっちもお洒落で、手が込んでいます。私どっちも好きです」


「確かに手が込んでいます」


 赤い太陽が描かれたしおりは布製で、丁寧に裁縫されている。もう一つもお洒落な字体で『リーヴル』と書かれていて、素人が作った物には見えないほど素敵な出来だ。


「こっちは手作りじゃないから? 布製だし、こーいうしおりが売っているのを見たことない」


「そうかもしれません。それじゃあ誰が作ったのでしょうか?」


「うーん思いつかない。こういう同人誌ってゆうか本にお洒落な手作りのしおりをつけるような知人はいないはず」


 誰がこのしおりを作ったのか分かれば、その人に聞けば雪路さんに同人誌を渡した人が誰か分かる可能性はある。


 それでも雪路さんは誰かが思いつかないから、どうにもならないんだろう。手作りの品をフリーマーケットで買ってきたという可能性も否定できないから、本当は誰が作ったか分かっても参考にはならないかもしれないし。


「こっちの紙のしおりに書かれた『リーヴル』って何だろう? そもそも何語だ?」


 布製のしおりについて考えることを諦めた雪路さんは、紙製のしおりを見る。


「日本語ではないかもしれません。ウに点々がついていますし、日本語っぽくはないですし」


「それもそうだな。となれば何語かな?」


「分からないです」


 雪路さんと私の2人で考えるけど、何も分からない。日本語以外の言語っていっぱいあるから、それだけじゃあ何のヒントにもならない。


「そういえば『リーヴル』ってイートイン付きのケーキ屋ですよ。本も貸し出しているらしいです」


「それって東京にあるお店?」


「いえ、奈良市にあります。そこでそのお店で借りてきた本かもしれません。誰かが雪路さんの暇つぶし用に『リーヴル』でこの本を借りてきたのでしょう。その人が持っていたしおりと、この同人誌に元々挟まっていた『リーヴル』のしおりだと思います」


「えってゆうことはいつか返さないといけないってこと?」


 雪路さんが驚いたように同人誌を見る。確かに借りてきたのなら、返さないといけない。


「そこら辺はよく分からないです。でも『リーヴル』と何かしらの関係はあると思います。それに『リーヴル』は貸出期間が無制限ですので、借りパクはしてないです」


「借りパクしてないのならいいや。いつか返しに行こう」


 さーかさんと雪路さんの話はいつの間にか上手くまとまっていた。


 いやいや何かがおかしい。


 これじゃあなぜ布製、手作りのしおりが挟まっていたかの答えにはなっていない。しおりは1つで本来なら十分なはずだし、絶対このページを読んでもらえるようにっていうのが自分では納得できない。


「そうですね。もしかしたら同人誌を持ってきた人がいつか事情を教えてくれるかもしれません」


「そうだといいなー。最近さーか以外こないから、ちょっとさびしい」


「東京からお見舞いに来るのは大変ですから、仕方ありません」


 さーかさん以外来ないのなら、他の人が同人誌のことを知っているか怪しい。


 ていうかこの同人誌について知っているかどうか、他の人に聞けばいいのでは。それをしないのはなぜだろう? そこに深い意味が隠されているのかも。

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