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リーヴル  作者: 西埜水彩
第四章 梅屋敷さんと水布さん
18/20

水布さんの事情

 椛子(もみじ)さんが開店準備を始める。ケーキ屋の営業時間はもうそろ終わりだ。


「梅屋敷さん、家に来ませんか? 佐姫乃がいますよ」


「いいよー。久しぶりに霞ヶ丘さんとも会いたい」


「佐姫乃は梅屋敷さんとは会いたいとは思っていないかもしれません」


「それでもいい。行ってみる」


 春帆と梅屋敷さんが盛り上がっている。


 この話だと、梅屋敷さんが春帆さんの家に来ることとなったらしい。


 私は自分が水布だって実感が全くない。水布とは私は全く関係ない人、そっちの方が正しいような気がする。


「僕も行きますよ、行きます。霞ヶ丘さんと梅屋敷さんの二人きりにはさせません」


「気にしすぎだよ。第一水布さんか谷田さんがいるから、二人きりにはならない」


「いや怪しい。なんだかんだ言いつつ、やりそうです」


 響さんが梅屋敷さんと話している。これは三角関係ってやつかな? いや確かすでに聖さんと佐姫乃さんと響さんで三角関係になっていたはず。それに加えるのだから、ややこしそうになる。


「じゃあ宝山寺さんも来ましょう。そして二人っきりにならないように見張れば良いのです」


「そうします」


「いや遠慮してよ。響くんがいると話しづらいって、霞ヶ丘さんと」


 3人は呑気に話している。私が水布なのか否か。その話は今放置されている。


 梅屋敷さんは私のことを水布さんと思っているけど、それは違うかもしれない。いくら髪の色が珍しかったって、同じ容姿の人が他にいないわけじゃない。まあ私と同じで染めていないアイスシルバーの髪の人、見かけたことはないのですが。


「じゃあ行きましょう」


 片付けが終わった後、私達は春帆さんの家へ行くこととなった。住んでいる春帆さんと私、そして佐姫乃さん目当てかもしれない梅屋敷さんや響さん。それにしても本当、佐姫乃さんはモテる。流石恋人を頻繁に変えていた人、人気があるのかもしれない?


「霞ヶ丘さん、いる?」


「いたとしても姿を見せるとは限りません」


「そうですね。僕も最近会っていませんし」


 谷田さん、梅屋敷さん、響さんの3人の後ろに続いて、私も家へ戻る。


「そういえば霞ヶ丘さんも水布さんと会ったことがあるはず」


「そうなんですか?」


 それは驚き。だってそれなら佐姫乃さんも私が水布なのか分かるかもしれないってことじゃない。


 今まで会ってなかったから分からなかっただけで、そうじゃなかったら早い段階で分かっていたのかな?


「てゆことで霞ヶ丘さんに会いに行こう」


「いや流石にそれはまずいです。ちゃんと梅屋敷さんがどういう理由で家にくるのか佐姫乃に教えましたけど」


「霞ヶ丘さん、びっくりするって」


 梅屋敷さんを春帆さんと響さんの2人でなだめ、みんなでリビングへ行く。


 聖さんはリビングにはいないらしい。私達以外の誰もいない。


「あっ『水布さんは生駒市に住んでいたことがあったから、来てもおかしくなないです』って佐姫乃から連絡がきました」


 春帆さんがスマートフォンを見る。どうやら春帆さん、佐姫乃さんに今の状況を詳しく教えていたみたい。


「そーいえばそんなことブログに書いていたな。それじゃあ水布さんが奈良県にいてもおかしくはないってことだ。すなわち水布さんはここにいる」


「いやいやなんでその話から、私が水布さんであるってことになるんですか?」


 水布さんが生駒に来ておかしくない、水布さんが私であることは一緒じゃない。なぜそれを春帆さんと梅屋敷さんはわからないんだろうか?


「まあスマートフォンを水布さんが私に愛知県から送ってきたから、奈良県じゃないって可能性もある。だけどやっぱり見た目が大きい。そういう見た目で奈良県に来る可能性がある人は、水布さん以外にはいないよ」


 梅屋敷さんがさらっと言う。


「まあまあ、水布さんは生きづらさをブログで語っていました。そこで1人で旅行することもないほど、インドア派だってかもしれません。そこで奈良には来ていないかもしれません」


 弁護のつもりだろうが、響さんがめちゃくちゃなことを言い出す。流石に生きづらくてインドア派だから旅行しなくて奈良に来ないは、無理がある。生きづらい人だって、旅行することがあるだろう。


「霞ヶ丘さんだって奈良に戻ってきている、水布さんだって戻ってきてもおかしくない」


「いやただ戻るだけでスマートフォンを途中で他人に送りますか? フツーは自分で持っていくと思います」


「それもそうか」


 春帆さんの意見に対して、考え始める梅屋敷さん。もちろん私は水布さんじゃないから分からない。


「それって単純に自殺しようと思ったからじゃないでしょうか? 身元が分かる物があれば、誰が亡くなったかわかります。でも適当な場所で身元が分かる物を処分してからだと、それが分かりません。そこで身元不明の遺体となって、他の人に知らされずにひっそりと死ぬことができます。久しぶりです、雪紀(せっき)さん」


 お茶の入ったコップを持って、聖さんが現れた。


 身元不明のままひっそりと死ぬために、奈良に来た人。それが水布こと私。いやそんなことありえない。てゆうかそんな手の込んだこと、何があってもしたくない。


「聖さん、ぶっそうなことを考えてるね。でもそれならありえそう。スマートフォンを送った理由にはならない」


「それなら今の状況にも説明できそうです。自殺に失敗して、記憶喪失になったのでしょう」


 梅屋敷さんと響さんが無責任な話で盛り上がる。


「私、今でも水布さんが私だって認めていませんから」


 少し大きめな声で断言して、その場を私は離れる。


 どこに行けばいいのかわからなくて、今寝泊まりしている部屋へ行く。


 そこに置かれたシンプルなベッドに寝転び、天井を見る。私は『琥珀糖』の作者で、水布さんで、自殺に失敗した人。そんなこと今まで考えもしなかったのに、なんでこうなるんだろうか?

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