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リーヴル  作者: 西埜水彩
第三章 佐姫乃さんと春帆さん
13/20

作戦会議と飲み屋

「じゃあまた来ます」


 アップルタルトとチョコケーキを食べた後で、ブルーベリーのパイを買ったさーかさんは、雪路さんと2人で去って行った。


「さっきの人、霞ヶ丘さんの知り合いってことは、霞ヶ丘さんの恋人だった人ですかね?」


 とんでもないことを(ひびき)さんがさらりと言った。


「そんな感じしませんでした。そもそも雪路さんの友達の恋人ということは、雪路さんの恋人ではないですよ」


 雪路さんの話からは、佐姫乃さんが恋人だったという感じがしない。そもそも関わり自体雪路さんと佐姫乃さんが無かったのではないか、そう私は思う。


「いやいや霞ヶ丘さんはお付き合いが派手でしたから、ありえなくはないです。霞ヶ丘さん、一時期は毎月交際している相手が変わったらしいですよ」


 響さんの発言に、私は固まる。


 引きこもって他人と交流しない人が、過去は恋人をころころ変えていた。そんなことありえない、あってはいけない。


「私には人と関わるのが苦手な人が、恋人を頻繁に変えていたというイメージがありません」


「普通はそうなんですけど、現実はそうだったんです。霞ヶ丘さんはかつての僕ほど美少女ってわけじゃないですけど、可愛い子ですから。僕の友達も霞ヶ丘さんと付き合っていました」


「響さんは佐姫乃さんのこと詳しいですね」


 好きだからなのか。佐姫乃さんのことが好きだから、響さんは積極的に情報を集めていたのかな。


「そうです。霞ヶ丘さんは僕や聖さんと同じ会社で働いていて、仲が良かったんです」


「そうだったんですか」


 同じ会社だから仲良くはできないとどこかで聞いたことがあるけど、佐姫乃さんと響さんはそうじゃなかったみたいだ。


 そんな響さんも佐姫乃さんと関わることができない。ということは佐姫乃さんの生き方がつい最近かなり変わったってことだ。


 恋人をよく変えるほど華やかな生活を送っていた人が引きこもるなんて、それ以外の理由はなさそうだ。


「ところで響さんや聖さん達はどんな出版社で働いていましたか?」


 これ以上考えても仕方ないので、話を変える。


「遊風林出版で、この本を出した出版社です。あまり経営がよくなかったので、給料はよくなかったですが」


 響さんは本棚から、とある本を取り出した。


「マイナーな本って感じがします」


「実際マイナーな本ですよ、水布(みずぬの)さんのSSをコミカライズしたのです。あんまり売れませんでした」


 水布さん、どこかで聞いたことがあるけど、きっと気のせい。こんなマイナーな本の原作者を知っているはずがない。


 うん、この本も知らない。なんならこんなメジャーな出版社が出していない本、知っていたらおかしい。それだけは間違いない。


 ということで気持ちを切り替えて仕事をする。イートインスペースを利用するお客さまにコーヒーかお茶を提供するだけで、何もすることがない時間も多い。


 響さんが長時間いても問題がないのだから、イートインスペースを利用する人は少ないみたい。近鉄奈良駅近くという観光地なのに、これは問題かもしれない。いや持ち帰りの客が多いからいいのかな?


「お疲れ様です」


 閉店した後に、椛子(もみじ)さんが店内にやってきた。


 椛子さんは『リーヴル』で夜にカフェをしている。ということで今仕事が終わって私や春帆さんと違って、これから椛子さんは仕事をする。


「お疲れ様です。今日の売れ残りのケーキはケースにある分だけです」


 春帆さんは椛子さんに伝言した後、私とイートインスペースに残っている響さんのところにきた。


「明日は定休日ですし、ちょっとどこかに行きません? そこで佐姫乃の話をしましょう」


「いいと思います。佐姫乃さんのいないところの方が話しやすいですし」


「あっ僕も行きます」


 ということで私は春帆さん行きつけのお店へ、ここにいる人と一緒に行くこととなった。


「このお店です」


 JR奈良駅から徒歩15分くらい、新大宮駅近くに春帆さん行きつけのお店はある。


 なんでも新大宮駅近くには飲み屋が多いらしい。ビジネス街とのことだから、自然とそうなってしまったのかな? よく分からない。


「明日と明後日の定休日、どーします?」


「新作ケーキのデザインを考えたり偵察のために別のケーキ屋に行ったりする予定です」


「休みの日もケーキですか」


「休みの日だからこそ、ケーキのことをより深く考えることが出来るんです」


 春帆さんと響さんの会話を聞きながら、お茶を飲む。ガチに佐姫乃さんのことを話したいから、お酒を飲むのはやめよう。


「それにしても佐姫乃は全然会ってくれないんですよ。同居しているのに、佐姫乃を見ることが全然ないんです」


「霞ヶ丘さんはどこかに出かけることが多いんじゃないですか?」


「そうもないみたいです。買い物はしているみたいですけど、どこかで遊ぶとかもないみたいです。元々本が好きなインドア派でして、友達も少ないですし、遊びに行くのは好きじゃないみたいだからいいそうです」


「恋人がころころ変わったのに、友達が少ないのは意外です」


 響さんと春帆さんの会話に割り込む。なんか恋人を作りやすい人は、友達も多いイメージがある。


「それが佐姫乃には友達がほとんどいないんです。私以外に奈良でのつながりはないはずです」


 春帆さんは手を振って否定する。


「霞ヶ丘さんは東京だったら警察で働いている友達がいました。あと霞ヶ丘さんは梅屋敷(うめやしき)くんとも仲良かったですし、奈良にいたときよりも東京にいる時の方が人間関係は充実しているかもしれません」


 恋人をよく変えて、友達がいた東京。そこを離れて、人と関わらずに奈良で生きる。


 それは佐姫乃さんが人と関わるのがしんどくなったからか? ふとそんなことを思いついた。


 なぜ佐姫乃さんが人と関わることがしんどくなったのか、その理由は分からない。でもそこに何かしらの答えがあるような気がした。

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