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リーヴル  作者: 西埜水彩
第一章 雪路さんとさーかさん
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『割れたガラスの瓶』

※(https://ameblo.jp/narasakura-34)に投稿されているSSを改稿したものです。

 がしゃん、ガラスの瓶が割れた。


 このガラスの瓶は大事な物で、空から降ってくる雨を幸せに変えることができる唯一の物だ。これがないと雨はただ身体を塗らすだけの物になって、幸せを受け取ることが出来ない。


 だからこれをみんな大事にするし、大事にしない人なんていない。一人一個しか支給されないし、これがないと幸せになれないのだから、当然のことだろう。


 でも僕はこのガラスの瓶を他人に割られた。割った本人は自分のガラスの瓶を持ってにやにやと離れていき、後に残されたのは、僕と幸せを溜めることができなくなった割れたガラスの瓶だけ。


 直さないと、これがなければ幸せにはなれないから。


 僕は持っていた傘を近くに置いて、恐る恐るガラスの破片に手を伸ばす、その途端指から出る赤い血。


「指切った」


 ガラスの破片で切ったのだろう、指からじわじわ血が出ている。それと同時に鋭い痛みが出て、思わず破片から手を遠ざけてしまう。


「痛い。だけどこのガラスの瓶を直さないと」


 指が切れて血が出るのも痛みが出るのも無視して、僕は破片を集める。結構細かな破片になってしまって、パズルが苦手な僕はどうつなぎ合わせたらいいのですら分からない。


 それでも僕は黙々と作業を続ける。


 降り続く雨が幸せに変わらないから、メンタルはどうしようもなく落ち込んでいるし、体や服はぐっしょり濡れていて、出血した指は痛み続けるという最悪な状況だ。どうすることもできないから仕方ないけど。


「あの子ガラスの瓶が割れている」


「保管方法が悪かったんじゃない?」


「大事な物なんだから、割れないようにしろって」


「ほんと、それだよね」


 僕の近くを呑気に話しながら人が通り過ぎていく。その人達は綺麗で傷ついたことが無さそうなガラスの瓶を手に持ち、傘で雨を防いでいる。


「可哀想にあの子」


「誰かに割られたのかな」


「そんな人のガラスの瓶を割るなんて酷いことをする人がいるなんて」


「最近たまにいるらしいよ、そんな人。本当に可哀想」


「本当だね。早く直して雨を幸せに変えることができるようになって欲しい」


 少し遠い場所からはひそひそと哀れみの声が聞こえてくる。


 可哀想にと思うなら手伝ってくれよ、何もしないのに見ているだけで可哀想だなんて、僕には何の助けにもならないから。


 僕のことを批判する人も、哀れむ人も。僕の辛さや苦しさを軽減してくれるわけでも無いし、僕のことを助けてくれるわけもない。


 こんな元の形が分からなくなった破片を水が溜めることができるような瓶に戻す、それは途方も無く難しい作業なのに、僕は一人でしないといけない。


 でも本当は分かっているんだ。この破片を触ると傷ついてしまう、それを嫌がるから誰も手伝ってくれないんだって。僕のことを助けるために、一緒に傷ついてくれる人なんて、この世界にいるわけ無いんだから。


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