8話
「メリル嬢、大丈夫か?」
オスカー様からかけられた言葉に、私はハッとすると顔をあげる。
こちらを真っすぐに近距離で見つめられて、私は早く離れなければ心臓が持たないとバタバタとしてしまう。
「すすすす、すみません。私ごときがなんと不遜なことを!」
「いや、大丈夫だ。抱き上げるぞ」
「え?」
腕から出ようとしたのに、そのまま私はオスカー様に抱き上げられる。
一体全体何が起きたのだろうかと思っていると、オスカー様が周りに声をかける。
「状況を把握する! けが人はいないか!」
オスカー様の声に、皆が他の者達の状況を確認して、問題ないことを一人がオスカー様に報告をする。
「大丈夫です。こちらけが人などはありません!」
「俺は怪我をしたぞ! 転んだ! ふざけるな! こんな危険だと分かっていたら参加しなかったぞ!」
そう声をあげたのはロドリゴ様であり、こちらに向かって歩み寄ってくると地団太を踏みながら憤慨した。
「メリル! お前のせいなのだろう! お前が何かをしたのだな! 日ごろの恨みをこんなところで晴らそうとしたのか! いろいろと教えてやった恩をあだで返すというのか!」
その言葉に、私は言葉を返す。
「私が何もしなければ全滅でした。それでも何もするなと?」
ロドリゴ様は唇を噛んで声をさらに荒げる。
「はっ! とんだペテンだな。お前が魔法陣を失敗したのだろう! はぁぁぁ。だから魔法陣射影師など俺はそもそも怪しいと思っていたんだ」
突然魔方陣射影師をバカにし始めるロドリゴ様にため息をつきたくなる。
怒鳴り声を上げ続けたロドリゴ様が少し落ち着いたタイミングで、オスカー様が冷ややかな声で言った。
「我々は、今、魔法陣射影師である彼女に助けられたところだ。それなのにもかかわらず、彼女を罵倒するとは、どういう了見か」
「え? あ、いや、だって」
ロドリゴ様がまだ言葉を続けようとすると、オスカー様が声をあげた。
「今、ここに生きていられるのは、ここにいる魔法陣射影師の女性が我々の危険にいち早く気づき、行動したおかげだ! 皆、彼女に感謝し、それと同時にもしこのようなことが街で起こらないように調査を急ぐぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」
騎士団の皆が私の方を見つめて敬礼をし、私はその様子に驚く。
ロドリゴ様はその様子に黙り、オスカー様は私の方を見るといった。
「ありがとう。君のおかげで命拾いをした」
「い、いえ」
「だが、今回の一件、さらに緊急性が増した。今後も調査に協力してほしいが……君の意見を尊重する」
私はその言葉に、慌てて言った。
「調査協力します。私も気を抜いていました。もっと気を引き締めて参加します」
あっさりと私が了承したからだろうか、オスカー様が少し驚いたような表情を浮かべる。
私は答えた。
「危険とはいえ、古代魔法信者がここまでの古代魔法陣を描いたことは驚きました。しかもどういう理由で作動したのかも気になります。できれば私も今後研究に生かさせてもらいたいのです」
「君は……わかった。ありがとう」
私はうなずき、そろそろ降ろしてもらおうとしたのだけれど、その時ハッとする。
「お、おおおお、オスカー様! 怪我をしています!」
「どこだ!? 大丈夫か? あぁ、本当だ。ここ擦り傷が出来てしまっているな。うん、すぐに一度上がって医者へ見せよう!」
「違います! 私ではなくてオスカー様です! 腕! 腕怪我をしています!」
オスカー様の片腕は怪我をしており、血が出ている。私を庇った時に何かにあたったのかもしれない。
私が青ざめてそう言うと、オスカー様は困ったような表情を浮かべる。
「いや、このくらいは平気だが」
「平気? いやいやいや、痛いです! てててて、手当しましょう!」
「えっと、そう……だな。まぁ君を医者へとまずは連れて行かなければならないし、分かった。少し待ってくれ」
「え? はい」
オスカー様は私を抱き上げたまま近くにいた騎士へと声をかける。
「一度医者へと彼女の手当てをしてもらってくる。皆は残っている魔法陣がないか調査、もしあった場合は早急に退避するように。いいな」
「はっ! 了解いたしました。あの、こちら、魔法陣射影師殿の物ではないかと……」
そう言って騎士が持ってきてくれたのは、私の魔法陣射影綴りと転写して置いた今回の記録用の魔法陣である。
私は見つかってよかったと思いそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ命を救っていただきました! ありがとうございます!」
そう言って騎士は敬礼をすると立ち去って行った。
オスカー様は言った。
「皆が感謝している。君がいなかったら全滅だったかもしれない……」
「いえ、でも、今後は気を引き締めます」
「あぁ、私もだ」
オスカー様と数名の騎士、そしてロドリゴ様と一緒に私は抱きかかえられたまま地上へと向かう。
私は歩けると言ったのだけれど、オスカー様に下ろしてもらえなかった。
しかも、担がれるのではなく抱きかかえられており、私は良いのだろうかと思った。
「あの、私、歩けます……それに、行で背負うと言っていたのに……」
そう告げると、オスカー様は小さく笑って言った。
「そのために他の騎士を同行させた。安全にこのまま地上へ出よう」
「は……はい」
実際の所、私は久しぶりに自分の魔力を使ったので少し疲れていた。それと同時に少し不安に思う。
私が魔力を有して生まれたことは、限られた人しか知らない。けれどもそれが今回露見してしまった。
オスカー様も今は何も言わないけれど、いずれ聞かれるだろう。
魔力を有する人間は現在少ない。
そして、大量に魔力を有する者は、ほとんどいない。
それこそ王国の魔法使いアルデヒド様くらいのものである。
私は、どう話すべきかと頭を悩ませたのであった。
魔法陣射影師ってペンだこめっちゃできそうですよね(●´ω`●)
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