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5話

 オスカー様が私に話しかけているのを呆然と見ていたロドリゴ様は、慌てた様子で私とオスカー様との間に割って入った。


「王立騎士団のオスカー殿が、どうしてメリル嬢に?」


 挨拶もなく割って入ってきたロドリゴ様に、一瞬オスカー様の眉間にしわがよるが、すぐに穏やかな口調でオスカー様は答えた。


「今朝がた古代魔法信者が描いたと思われる魔法陣が地下で発見されたのだ。それに関して魔法陣に詳しい人物に調査に協力をしてもらうのはどうかと案が出たのだ。その為、今日はこうしてきたんだ」


「そうであるならば、まずは彼女の上司である俺に話を通すべきだろう!」


 オスカー様にも通常通りに怒鳴り声をあげるロドリゴ様。周りはそれをひやひやとした様子で見ているが、オスカー様はあくまでも冷静な口調で返した。


「ふむ。確かに部署的には同じようだが……魔法陣射影師は一人だと聞く。つまり上司というよりも同じ部屋で仕事をしている者だと思うのだが……」


 ロドリゴ様はその言葉に顔を真っ赤にすると地団太を踏みながら答えた。


「俺はこの部署の統括を任されているのだ! 彼女が行くならば俺も行くのが当然だろう!」


 その言葉にオスカー様は眉間にしわを寄せ、どこか納得はしていない様子だけれど話を続けた。


「ではロドリゴ殿にも調査に協力をいただこう。彼女の上司というのであれば、一緒に同行してほしい」


「あぁ。それが筋だろう」


「では、ついてきてくれ」


「あ? 今すぐ?」


 今すぐにとはロドリゴ様も思っていなかったのだろう。だけれどそう言われては後に引けず、ふんと鼻息あらく漏らすとうなずいた。


「わかった。まぁ、部下が行くのだから仕方があるまい」


「助かる。では、現在の状況について資料をまとめてあるので読んでほしい。ここからは機密情報も共有していくので、別室で話をしよう」


「わかった」


「は、はい」


 私とロドリゴ様はオスカー様に連れられて別室へと向かうために歩き始める。


 オスカー様の後をついて行き、中庭を通る渡り廊下を歩いているといつもよりもドレス姿の貴族令嬢が多いことに気が付いた。


 美しく着飾っている令嬢達からは香水の香りがした。


「オスカー様がいらっしゃったわ!」


「はぁぁ。今日も素敵」


「本当に。どうか見初めていただけないかしら」


 うきうきとした声が響いて聞こえる。


「あら? あの後ろを歩いているのは……メイフィールド家の出来損ない令嬢じゃない?」


「まぁ本当に! 令嬢でありながら、王城に務め出したというのは本当でしたのね」


「結婚できない女性のなんと惨めなことかしら」


 彼女たちは小さな声で話をしているつもりなのだろうけれど、こちらに丸聞こえであった。


 何とも言い難い、居心地の悪さを感じながら、早く移動したいばかりに私は足早になっていく。


「きゃっ」


「ん? あぁすまない。歩くのが遅かっただろうか」


 足早になりすぎて、前を歩いていたオスカー様にぶつかり、私は慌てて謝罪する。


「も、申し訳ありません」


「いや、大丈夫だ。さぁ、行こうか」


 そう言うと、今度はオスカー様は私の横を歩き始めた。その歩調は私に合わせられており、ちらりとオスカー様を見上げると、オスカー様は言った。


「私は、自分の力で王城勤めの地位を獲得し、今の仕事に就いた君は素晴らしいと思う」


 その言葉に私は、ぐっと奥歯を噛みしめた。


 王城勤めというものは女性が容易に出来るものではない。私自身、十八の時に両親から結婚を勧められた。けれど、それを断り、頭を下げて王城で魔法陣射影師として働きたいと伝えたのだ。


 両親からは大反対され、姉と弟からは私になど出来るわけがないと言われた。


 それでも、私は結婚して家庭を持つよりも、女性としての煌びやかな未来よりも、魔法陣射影師として働きたかった。


 メイフィールド家の力は貸すことはないと両親から言われ、私はもちろんだと答えた。そして努力に努力を重ねて、どうにか王城勤めの地位を得、そして魔法陣射影師として働くことが出来るようになったのだ。


 夢のようだった。


 魔法陣射影師として頑張るぞという気持ちで王城の門をくぐった。ここからは家に縛られることなく自分の力で生きていくのだとそう思った。


 けれど、現実は理想とは程遠いものであった。


 理想としていたのは、実家の書庫で見つけた古い魔術本に乗っていた、ロストマジックである魔法陣の研究と射影や修復。


 けれど現実は、昔王城で使われていた魔法陣の修復や、他の部署の雑用ばかり。自分の研究として魔法陣射影を出来る時間は限られていて、私はそれでも時間を確保したくて日常を犠牲にした。


 それが私の現実。


 令嬢達があざ笑う私の現実。


 だけれどオスカー様はそれをたった一言で認めてくれて、なんだがその一言で自分のこれまでの頑張りが少しだけ報われたような気がした。


「ありがとうございます」


 そう返すと、オスカー様は優しくまた微笑んだ。


 私はドキドキとしながら、さすがは令嬢達の憧れの的であると思ったのであった。


 別室へと移った私達は、他の騎士団の人達と挨拶を済ませていく。


 それから現在古代魔法信者と呼ばれる者達が暗躍していると言う情報を聞いた。


 王都の地下で古代魔法信者達の文様と魔法陣が描かれている現場が発見され、その魔法陣が一体何のために描かれたものなのか調査を協力してほしいと言われた。


 私はまずは現物を見てみないと分からない旨を伝えると、ロドリゴ様が口をはさんだ。


「メリルはうちの部署の人間だ。こちらにも仕事があるんだが?」


 オスカー様はその言葉にうなずくと答える。


「もちろんそれは重々承知している。だが、こちらの問題は、国民の命に関わるのだ。現在古代魔法信者達は危険な行為が目立ってきており、今回の一件も犯行予告のような声明文が送られてきている。このまま放置することはできず、魔法陣に詳しい者が必要なのだ」


 ロドリゴ様は眉間にしわを寄せると少し考えて言った。


「ならば、今回の一件が解決した暁には、多少こちらの魔法研究部にもその功績の一端を担ったとの報奨金が欲しい」


 何と欲張りなのであろうか。私はそう思いながらぎょっとすると、オスカー様は苦笑を浮かべてうなずいた。


「掛け合ってみよう。では、協力をしてもらおう」


「わかった。メリル。報奨金がかかっている。励めよ」


「はい……」


 はっきり言って、ロドリゴ様は魔法陣に関して詳しいわけではない。むしろ魔法分野全般に疎いものと思われる。以前聞いた話によると、人間関係でもめたらしく、王城内で行き場がなくなり配属されたらしいが、その仕事はもっぱら整理や片付け、後は良く言えばその場にいる者に適材適所に仕事を割り振っていくというものであった。


 魔法陣は魔力を有していなければ発動しない。だけれども魔法陣を発動させるほど強力な魔力を有している人間は数が限られている。


 それ故に、魔法陣自体、魔力がなければ使えないという点から現在あまり活用されなくなっているのだ。その代わりに、魔力がなくても使える魔法石を利用した魔法具という物が発達したのだ。


 魔法具自体は、魔法石を使い作ることで比較的簡単に使うことが出来る。


 ロドリゴ様のあまりに偉そうな態度に、私は大丈夫なのだろうかとオスカー様を見ると、軽くウィンクされた。


 きざである。


 私はばくばくとする胸を押さえ、オスカー様の破壊力に心臓が痛くなったのであった。


頑張って更新していきます!

おおよそ30話なので、土日も合わせると1か月いかないくらいで完結ですね(*´▽`*)

ブクマと評価が私の栄養源です(●´ω`●)よろしくお願いいたします!

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