4話
お腹がぐぅぅと音を立て、朝の肌寒さに私は目が覚めた。
「お腹すいた……」
起きた瞬間にこんなにも空腹を感じることがあるだろうか。私は呻き声をあげながら起き上がると、自分が寝ている場所を確認して首をかしげる。
「あれ? 私どこで寝た? え? えーっと」
そう考えていくうちに、少しずつ意識がはっきりとし始め、私は飛び起きると部屋を見回した。
「え? え? も、もふちゃん!? もふちゃん!」
そう叫ぶけれどもふちゃんの姿はなく、私は慌てて、もふちゃんを探す。けれど、机の下にも、洗濯物の山の中にももふちゃんの姿はなく、私はハッとして窓を確認すると、どこも開いていない。
「ど、どうして? え? でも鍵もしまっているし……え? え? あー……もしかして、夢? 私、もふもふで癒されたいからって夢見てた?」
私は頭を掻きながら、自分は夢を見たのだと思いながら、やけにリアルな夢だったなぁと幸せな夢に感謝した。
夢じゃなければよかったのにと思いながら、私は時計を見て、青ざめる。
「あ、あ、あ……やらなきゃいけなかった仕事終わってない。けど、もう行かなきゃ。でもお風呂……お腹も……ふぇ……」
時間が毎日足りなさすぎる。
私はどうしたらいいのだろうかと、パニックになりながら魔法具でいつでも沸かすことの出来るお風呂をいれ、机の上にあった少しぱさぱさになったパンをかじりながら仕事を出来る限り行っていく。
それから一瞬でお風呂につかり髪と体を洗いあげると、外へと出て、髪の毛を必死に乾かして三つ編みにむずび、眼鏡をかけて残りの仕事を急いで終わらせていく。
こういう時だけ、仕事場が近くにあって良かったと思う。
走れば3分でつく距離が、今はありがたい。
「おはようございます」
どうにか就業時間までについたと思っていると、いつもは少し遅刻してやってくるロドリゴ様がすでにいた。
しまったと私は思った。
「ああ~いいご身分だなぁ。昨日は俺に迷惑をかけ、次の日は遅刻かぁ!?」
朝からやらかしてしまったと心の中でげんなりとしていると、ロドリゴ様はいつものように机を叩く。
「お、おはようございます。その、ぎりぎり間に合っていますが……」
そう伝えると、ロドリゴ様はまた机を叩く。
「お前がまず言うべきは、申し訳ございませんでした! だろう! 昨日は俺に迷惑をかけて申し訳ございません! そして今日は遅刻して申し訳ございません! だろうが!」
苛立たし気にそう言われ、私は身をこわばらせながらも、頭を下げた。
「も、申し訳ございませんでした……」
「はぁ~嫌になる。お前、心がこもっていないんだよ」
私は朝から機嫌を損ねてしまったことに心の中でため息をつきながら、いつになったらこのロドリゴ様の話は終わるのだろうかと思う。
こんなことを考えてしまう自分は性格が悪いのだろうか。
威圧的で、早く仕事を終わらせろっていうのに、時間をかけて怒って。
けれどそれが間違っていると、見ている人たちは誰も言わないし、ということはやはり私の感性が違うのだろうか。
私がもっと仕事が出来て、私がもっと怒られないように手立てを講じていければいいのだろうか。
それから小一時間程嫌味を言われた後、どうにか仕事を決められた時間までに終わらせていく。
朝はパン一つで、お昼になればお腹がすくはずなのに、昼食時間になり食堂に行って、目の前にサンドイッチが並べられても今では食欲さえ消え失せてしまった。
私、何のためにここにいるのだろう。
そう思いながら、夜までもたないからとどうにか食堂でサンドイッチをどうにか口に詰め込む。
重い足取りで仕事に戻ると、机の上の魔法陣を見つめる。
私がやりたかったことは。
そう思っていた時、部屋の中がざわつき、一体なんだろうかと顔をあげるとこの部屋には似つかわしくない、身長の高い、逞しい男性が入り口に立っていた。
白銀色の美しい髪と青い瞳は、昨日の夢でみたもふちゃんにそっくりで、私はドキリとする。
もふちゃん。夢でいいからもう一度会いたい。
そんなことを考えていると、その男性は私の方へ向かって歩いてくるので、頭の中でこちら側に何かあるだろうかと首をかしげると、美しいその人の顔が、私を見つめた。
「魔法陣射影師のメリル・メイフィールド嬢だろうか。私は王立騎士団所属第二部隊隊長オスカー・ロード・アルベリオンという。今回、捜査協力をお願いしたいのだ」
どこかで聞いたことのある名前だと思い、私はアルベリオンとついたことで、目の前の人が、女性の憧れと噂されるアルベリオン王国第二王子殿下であることに気が付いた。
そしてなるほどと思う。
ざわめきの理由はこの人かと思い納得する。
けれど納得はしても何故自分の名前が呼ばれたのかは理解がおいつかない。
「だ、第二王子殿下に挨拶申し上げます! はひ! 私が、メリル・メイフィールドでございます!」
勢いよく立ち上がって私がそう言うと、何故かオスカー様は微笑みを私に向けたのであった。
逞しく美しい男性が微笑む破壊力を、私はその日初めて知った。
魔法陣射影師を思いついた時、これだっ!て思ったのです(●´ω`●)
どうかたくさんの人に読んでほしいなぁと思います。
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