短編 変わった呼び名
発売記念短編です! 読んでくださる皆様に感謝です!
かっこいい。
私は、王城の騎士団の練習場にて剣を振るオスカー様の姿を遠目からこっそりと見つめながらそう思った。
本当は応援席があるのだけれど、可愛らしく美しい貴族のご令嬢方が日傘をさしてきゃっきゃと応援しているので、その中に混ざる勇気がない。
「オスカー様素敵」
「本当に」
目がハート型になっているご令嬢達の声に、私はそわそわとしてしまう。
そう。
オスカー様はかっこいいのだ。
だから、美しい令嬢達の好意も当たり前だ。
「本当に……かっこいい」
私が小さな声でそう呟いた時、遠くにいるオスカー様がこちらを見て驚いた顔を浮かべている。
「え? 嘘。こんなに遠くにいるのに? え? 気づいた? え? いやいやいや。自意識過剰よ」
かなり遠い位置だ。
見えるわけがない。私はため息をついて、そろそろ立ち去ろうとした時であった。
走ってくる足音が聞こえ振り返ると、息を切らせてこちらに来るオスカー様の姿が見えた。
「え? オスカー様!?」
「メリル嬢! 来てくれたのかい?」
そう言って、オスカー様は笑顔で私の手を取ると、手の甲にキスをする。
「会えて嬉しい」
「オスカー様!? えっとその、れ、練習はよろしいのですか?」
顔が暑くなりそう尋ねると、オスカー様は笑顔でうなずく。
「大丈夫。今の時間は昼休憩の自主練習の時間だから。今日は昼会えないと言っていたから、驚いた」
最近いつも一緒に昼食も取っていたのだけれど、今日は急用ができて一緒にいられなかったのだ。
ただ、用が思っていたよりも早く終わったため、こうして遠くから眺めていたのだけれど。
「オスカー様、その」
「ん? なんだい?」
キラキラとしたご尊顔が近すぎて、私は息を止めた。
「ふ、ふはは。メリル嬢。なんだ? その可愛らしい顔は」
「だ、だって! ち、近いですよ。ドキドキします」
そう伝えると、オスカー様はにっと笑って私の髪の毛を優しく撫でる。
「君は本当に可愛らしい人だな……」
「いえ、あの、私なんて全然。ご令嬢方に比べたら……その……」
つい自信がなくていつも卑屈なことを言ってしまう。
するとそんな私の手をぎゅっとにぎり、オスカー様は言った。
「私にとって君は世界一可愛いのだけれどな」
「へ?」
「後少し時間があるだろう? ほら、まだ昼食食べてないのだろう。行こう」
「え? えっと、は、はい」
手を繋がれて、歩いていく。
オスカー様は周りの目など気にしない。
握られている手がとても暖かくて、私は、少しだけ自信を分けてもらっているような気持ちになった。
遠くからご令嬢達の声が聞こえた。
「あら……あぁ、あの方が、メリル様?」
「そうそう。オスカー様に溺愛される魔法陣射影師様ですわ」
「オスカー様の思い人ですね」
「はぁ。羨ましいですわぁ」
そんな声が聞こえてきて、私は、メイフィールド家の落ちこぼれという呼び名から、自分がオスカー様に溺愛される魔法陣射影師、というものに変わっていることを知ったのであった。
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