おまけ 幼い日の夢
たくさんの方に読んでもらえて嬉しかったのでおまけです!
静かな部屋で目が覚める。
天井を見上げれば、古い屋敷の木目が見えた。
公爵令嬢の部屋といえば豪華絢爛なものだと、皆が想像するだろう。
だけれども、私の部屋は広くはあってもあくまでも必要最低限の物しかない。
本館ではなく、別館のその離れにひっそりと建てられた家。
十歳の誕生日の日、私は本館からこの小さな家へと押しやられた。
『お前は古い古い本がすきなのだろう。ここならば図書室が近いから良いだろう』
『そうね。それにここであれば、貴方の大好きな魔法陣もたくさん書けるわよ』
広い空間があれば、いくらでも大きな魔法陣が描けるだろうと言われた。
けれどそれらはただの言い訳で、私を本館に置いておきたくないという兄と姉の考えがよくわかった。
お母様とお父様は私の姿を見る度に苛立たしげな様子を見せるから、お兄様もお姉様も私のことを二人には会わせたくない様子だった。
それはそうだろう。
父は不義の子として私のことを見ており、母は不義などしていないのに咎められる。
全ては私が、黒い髪と赤い瞳をもって生まれてしまったから。
どうしてこんな色で生まれてしまったのだろう。
お兄様やお姉様のように、美しい金髪碧眼の子だったならば、きっと愛されたのだろう。
だけれど、私は愛されることはない。
魔物のような瞳を隠すようにと眼鏡を渡され、髪の毛は出来るだけ目立たないように二つに結ん
だ。
一人で、息を殺して公爵家で生きる生活はとても窮屈なものだったけれど、最低限のマナーは受けさせてもらえたし、食べ物も与えられた。
だけれども、そんな毎日は私にとって不安でしかなかった。
いつものように自分一人で着替えを済ませ、そして髪の毛を結び眼鏡をかけて私は図書室へと向かった。
大丈夫。
どうにかなると自分に言い聞かせて、私は図書室に行くと魔法陣を学びながら、もっと描いてみたいと思い、つい、その日は図書館で魔法陣を描いてしまった。
そして、その魔法陣が青白く輝いた。
「わぁ! 成功だわ!」
綺麗だと思い、お母様にも見てもらえたら喜んでもらえるかな、褒めてもらえるかななんて思った。
だけれども現実は違った。
お母様がたまたま調べ物があって図書室へと来たのだ。そして、私が魔法陣を青白く輝かせているところを見つけた。
私はお母様に褒めてもらえるのではと自信たっぷりにお母様に見せたのだ。
「お母様! あの、とてもき」
――――パンッ!
綺麗でしょう? そう言いたかった。
お母様が笑ってくれると思った。
えらいね、がんばってと、言ってくれると思った。
そんなわけ、ないのに。
お母様に私は頬を打たれ、そして地面へとへたり込んだ。
ひりひりとした痛みが走った。
「このっ! 魔物が! これは秘密になさい! 絶対に、絶対にです!」
何度も、何度もお母様に叩かれ、私は涙を流しながらうなずくしかなかった。
あぁ。これはいけないことだったのだ。
お母様は喜んでくれないのだ。
嫌われたくなくて、何度も謝りながら私は悲鳴を上げた。
私は、あの日のことを夢に見て、悲鳴をあげて飛び起きた。
「きゃぁぁっ……はぁ、はぁ、はぁ」
「みゃぁ? みゃぁ?」
もふちゃんが、うなされる私のことを心配そうに見つめ、それから体を寄せてくる。
私は体が震え、それからもふちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「よかった……夢だった。はぁぁ。もふちゃん。もふちゃん……」
私は、あの日のことを思い出して泣きそうになるのをぐっと堪える。
「もうずっと前のことなのにね」
今でも思い出しては苦しくなる。
私は少し落ち着くと、もふちゃんを撫でながら夜の窓辺に近づき、それから空を見上げた。
「はぁぁ」
「みゃん」
心配するようにもふちゃは私のことを見つめてくれる。
「大丈夫。ありがとう……でも」
私は夜空を見上げながらつぶやいた。
「明日、オスカー様に会えるかな……会いたいなぁ」
心が苦しくなった時、オスカー様やもふちゃんと一緒にいると癒される。
人恋しいとはこういうことなのだろう。
「早く、明日になればいいのに」
私はそう呟きながら、もふちゃんを抱きしめた。
翌日何故かオスカー様が全力で甘やかしてくれて、私は、それはそれでこの後何か悪いことが起こるのではないかと不安になったのであった。
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