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【完結】書籍化決定 愛されなかった社畜令嬢は、第二王子(もふもふ)に癒され中  作者: かのん


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28話

「おい、見てみろ。今年はなんだか、魔法陣が前よりも輝いているな」


「本当だわ」


「お花が咲いているみたいだね」


「魔法陣って、あんなに美しい物だったかしら」


 民衆から歓声の声が上がるけれど、私の耳には届いていない。


 私の目に見えるのは、魔法陣だけ。


「魔法陣、基礎形態修復。魔力調整陣書き換え、最適化開始」


 自らの魔力を流しながら、魔法陣の壊れた個所を修復していく。おそらく、近年この魔法陣には、本来必要な分量の魔力が、生きわたっていなかったのだろう。


 足りなかった分が、少しずつ魔法陣にひずみを生んでいた。


 それが、今回、魔力を本来流す時間になっても魔力の補給がなかったために大きな亀裂を生んだのだ。


 私は、魔力を流し込み、そして、充分に生きわたるように広げていく。


 そうすることで、私の魔力が魔法陣に馴染み魔法陣がさらに書き換えやすくなる。


 古代魔法の基本はそのままに、ただし、魔力の流れやすくし、魔法陣を最適化していくことで、以前よりも少ない魔力で魔法陣が仕えるように変えていく。


「古代魔法陣修復完了! 記録・保管用、転写開始!」


 私は魔法陣射影用の紙を取り出し、最後に保管用に転写をする。


 そして最後に、年に一度の建国祭の日にいつも魔法使い様がやっているように、私は魔法陣を大きく展開させていくと、魔力を流し、美しく光らせた。


 魔法陣が光り輝いた瞬間、私の視界は暗闇の魔法陣と私だけの世界から戻ってくる。


「きれいー!」


「我が王国は、案値だな!」


「国王陛下万歳! アルベリオン王国万歳!」


「不思議だなぁ。去年よりも美しく見えるぞ」


 歓声が上がっていた。私はいつの間にか、オスカー様に体を支えられており、後ろに倒れそうになっていたのだということに気付く。


「メリル嬢、ありがとう」


「オスカー様?」


 見上げると、オスカー様が私のことを心配そうに見つめていて、その瞳が何だか嬉しくて、私は微笑んだ。


「大丈夫です。すみません。少し、魔力を使いすぎたようです」


「あぁ。メリル嬢、抱き上げるぞ」


「え? っきゃ。お、オスカー様。私、歩けます」


「すまないが、私が心配なのだ」


 オスカー様はそう言うと、私の眼鏡を拾っていてくれたのだろう。私に眼鏡を手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」


「いや、今、古代魔法信者は全員捕縛し、移送中だ。メリル嬢が尽力してくれたおかげだ。ありがとう」


「いえ。お役に立てたのなら嬉しいです」


「君は……謙虚すぎる。王国を救った英雄だというのにな。さぁ、医務室へ行こう。まずはそれが先だ」


「あ、でも、後片付けなどは」


「他の部隊に任せたから大丈夫だ。さぁ行こう」


 オスカー様はそう言うと、一度国王陛下を見上げる。私はこの格好ではいけないと立ち上がろうとするのだけれど、国王陛下に手で制される。


 そして、視線で、よくやったというように見つめられ、うなずかれる。


 その瞬間、私は自分にも、出来ることがあったのだと。誰かのためになれたのだと、とても、とても嬉しかった。


 私はその後、オスカー様に連れられて医務室へと向かうのだけれど、私の意識は朦朧とし始める。


 オスカー様に抱き上げられて揺られていると、なんだか本当に心地よくて、全身の力が抜ける。


「ありがとう。メリル嬢。ゆっくり休んでくれ」


 オスカー様の優しい声が、聞こえて、私は穏やかに意識を手放したのであった。



 捕縛された古代魔法信者達の証言により、日常が上手くいっていない貴族の者達がそそのかされ、今回の事件に加担してたことが発覚した。


 ロドリゴ様は魔法陣を内側に描かれた仮面を渡されたことで、自分こそが古代魔法信者達を率いていく選ばれた者だと思っていたらしい。


 ただそれはアルデヒド様の策略であり、ロドリゴ様に今回の責任を押し付けようと仮面を渡したことが後に判明した。


 アルデヒド様は今はしおらしく全てこちらの質問にも答えており、減刑を求めている。


 魔力を持っているので、安易に処刑されないと本人は思っているようだ。


 大丈夫なのかオスカー様に尋ねると、静かに処刑の方が良かったと思える、魔力持ちの刑があるのだと聞き、ぞっとした。


 今後は法の下に裁かれることになり、私は今回の事件にかかわったことから最終的な調書にまでは関わったけれど、後はもう知らない。


 魔法使いが国を揺るがす大事件を起こしたなどということになれば、大問題である。


 だからこそこの事件は秘匿とされ、そしてアルデヒド様は原因不明の病によって療養中だと民には知らされ、新しい王城魔法使いには彼の弟子が担うこととなったのであった。


 アルデヒド様は弟子たちには今回の一件についてなにも告げておらず、だからこそ王国側もそれ以上情報を漏らすことはなかった。


 私の日常もあの事件から日数が経つうちに、元に戻っていく。


 ただ一つ違うのは、私の部署の机が一つ減ったということ。


 ロドリゴ様については、素行の悪さもあり、王城勤めから解任されたとの情報が回った。


 噂もしばらくの間は流れていたけれど、数日たてばもう聞かなくなった。


 王城内にある研究部という私の部署ではロドリゴ様がいなくなったことで、別の人が一人配属されたけれど、私の直属の上司ではないとはっきりと言われた。


「あの、ロドリゴ様からはいつも仕事を割り振られていたのですが」


 私はどういう意味か分からずにそう尋ねると、新しく配属されてきたその眼鏡をかけた男性は眼鏡をかちゃかちゃと鳴らして言った。


「基本的に前任のロドリゴ殿の仕事も今回来た私の仕事も変わりありません。研究部に届けられた仕事を確認したり資料を集めたり、各部署へと必要なものを配属したりという物です。それらは私の仕事でありメイフィールド殿の仕事ではありません。魔法陣射影師は部署は同じでも独立しているので、私の仕事とは無関係です」


「えっと、それはつまり」


「私の仕事は私の物。なので、メイフィールド殿は魔法陣射影師の仕事をどうぞ」


「は、はい。ありがとうございます」


「いえ、お礼を言われることは何も。あぁ、ここの資料このファイリング。メイフィールド殿がしたとか。とても丁寧でわかりやすいです。ありがとうございます」


「あ、いえ」


 私は自分の机に座り、それから小さく息をついたのであった。


 以前と変わらないけれど大きく変わった日常。そして、もう一つ、大きく変わったことがあった。


「あ、オスカー殿が来たぞ」


「もう昼食の時間か」


「メイフィールド殿も隅に置けないなぁ」


 小声でそんな声が聞こえて私はぱっと顔をあげると、入り口で私に向かって手をひらひらと嬉しそうに振る、オスカー様の姿があった。


「オスカー様」


 昼食の鐘が鳴り、オスカー様が部屋へと入ってくると、バスケットを私の前で掲げて言った。


「一緒にランチをしないか? 今日のサンドイッチは結構力作なんだ」


 オスカー様の後ろに、たまにしっぽがブンブンと振っているような錯覚を見るようになった。


 とても可愛らしい。


「は、はい」


 最近何故か、あれよあれよという間に、オスカー様と毎日食事をするようになってしまっていた。


 私のような者が、オスカー様と一緒に食事をするなんておこがましいことは分かっているのだけれど、誘われれば断ることなど出来ない。


「中庭で食べよう」


「はい」


 さりげなく手を取られ、エスコートをされる。


 私は、心臓がいつ爆発するだろうかと、毎日毎日思うのであった。


 最近では一緒に中庭で、オスカー様の持ってきてくれたサンドイッチをお昼に食べるのが定番になっていた。


 私は作ってもらってばかりでいいのだろうかと思っていたのだけれど、サンドイッチを頬ばっていると、オスカー様が私のことを優しい瞳で見つめながら言った。


「君は軽すぎるから、たくさん食べてくれ」


「え? ……はい」


 軽いだろうか。というか、もしやオスカー様にとってこの食事は、不健康そうな私に対する餌付けなのだろうか。


「あ、あの」


「ん? ほら、メリル嬢ついているぞ」


 ハンカチで優しく口元をぬぐわれる。


 私は動きを止めて、顔が真っ赤になっていくのが分かる。


 すると、オスカー様はさらに笑みを深める。


「っはぁぁぁ。君は、君は可愛いなぁ」


「は!?」


「すまない。君を見ていると、こう、なんていうのだろうか。胸の中をこう、わきわきと、可愛いと言う気持ちが湧き上がってくるのだ」


「え? ……それって」


 私はハッとする。


 私がもふちゃんに抱く感情と似ている気がする。もしや、オスカー様にとって私はもふちゃんのような存在なのだろうか。


「わ、わかります! 私、実は、あのもふちゃんっていうお友達の、猫……ちゃん? がいるのですが、可愛くって、可愛くって!」


 そう興奮気味に言うと、オスカー様は吹き出すようにしてからけほけほと咳き込んだ。


「大丈夫ですか?」


「あぁ。はぁ。そ、それで?」


「もふちゃんを見ていると、そのような気持ちになります。こう、湧き上がってくる感情があります!」


 そう伝えると、オスカー様が困ったように笑った。


「いや、その少し違う、かな?」


「え? そう、ですか?」


「あぁ。はは。でも君は面白い人だな。だけれど、君を見つめていると、心から可愛いと思ってしまうんだ。君は可愛いな」


「え? えっと……可愛くは、ない、ですね」


「ふっ。自分の魅力は分からないのだろうな」


 なんだか色っぽい瞳で見つめられ、私は慌てて視線をそらすと、持っていたサンドイッチをぱくりと食べた。


 ちらりとオスカー様を見る度に、優しい笑みを向けられるものだから、私はまともにオスカー様を見つめることが出来なかった。


「今度功績を祝う場が設けられるそうだ。上層部だけの内密の式ではあるが、君の功績が称えられる場が設けられて嬉しく思う」


「え! そうなのですか!?」


「あぁ。楽しみだな。私も一緒に出席するよう命じられた」


 私は楽しみではなく、必要ないのにと、一体何を着て参加をすればいいのだろうかと、そう思ったのであった。




読んでくださりありがとうございます!

いよいよ明日の朝で完結です(*´ω`*)

評価やブクマをもらえると、励みになりますっ!よろしくお願いいたします!


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