22話
くそくそくそ。
こちらに引き込むつもりであったメリル嬢をオスカー殿に取られてた。これまで何のために、言いなりになるように教育してきたのか分からない。
繰り返し、威圧し、委縮させるように仕向けてきたと言うのに。
ただし、それが完璧に上手くいっていたかといえば違う。
メリル嬢をうまく操ろうとしても、結局彼女の自我の根幹は折れることはなかった。
何度打っても、どんなに睡眠不足にしようとも、彼女は立ち上がり仕事を終わらせてくる。
理不尽なことにも耐える。
意味が分からなかったが、それでも最近になってやっとあと少しで心を折り、そしてこちら側へと引き込むことが出来るのではないかと思っていたのに。
「オスカー殿め……くそが。顔がいいだけの偽りの王族だと言うのに」
そう声を荒げたのは、メリルの上司のロドリゴであった。
「はぁ。メリル嬢のあの魔力も魅力的だったのになぁ。魔法陣調査の時に、せっかく芝居をうったというのに、結局オスカー殿も騎士団も誰一人死ぬこともなかったのは痛い。私が唯一奇跡的に生き残る予定だったのになぁ……」
その為にあのお方に体に魔法陣を刻んでいただいたのに残念だと、ロドリゴは息をつく。
ロドリゴは黒いローブを深くかぶると、地下への通路を降り階段を下りていく。
下へ下へと石造りの階段を下りて行った先にあるのは、広い空間でありそこが古代魔法信者達が集まる集会場であった。
集会場に入る前にロドリゴはローブの懐から仮面を取り出すと、仰々しいその仮面をつける。
この仮面をつけている時には、ロドリゴは強くなれるとそう思っている。
仮面をつけたロドリゴに皆が頭を垂れていく。
快感がロドリゴを襲う。
王城では末端の末端であるロドリゴだけれど、自分はこのような場所にいるべき人間ではないと分かっていた。
元々は侯爵家の次男として生まれたロドリゴだ。家督は告げないので王城勤めとして働くようになった。
両親のコネで入った王城は、思っていた場所とは違った。
自分を認めない人間ばかりだった。
気にくわなかった。
自分は優秀な人間であり、人からもてはやされるべき人間なのにと思ったが、それをだれも理解してはくれなかった。
そんな時、あの方に声をかけられたのだ。
素晴らしい人間である自分を蔑ろにするこの国は、そもそも間違っているのだと教えてもらった。
なるほどと思った。
そもそも国が間違っているから自分はこのような扱いをされるのである。
それからは古代魔法にのめりこんでいった。自分には魔力はないけれど、魔法陣射影師の傍で働いているということで、その資料などを持ち出すことができた。
メリル嬢が赴任してきてからは、彼女がその管理をするようになり面倒になったけれど、彼女に仕事を押し付けている間に探れば問題はなかった。
そして古代魔法信者として貢献した自分を、皆が崇め奉るようになった。
ロドリゴは背筋を伸ばし、そして祭壇の前へと進み出ると、そこに平伏す者達に向かって声をあげた。
「いよいよ、古代魔法を知らしめる時が来た! 偽りの王を引きずり下ろすのだ!」
自分が声をかければ皆が言うことを聞く。
あの方から受け継いだこの仮面には、不思議な力がある。貢献した証として譲り受けた仮面は自分をさらなる高みへと昇らせてくれた。
「さぁ、始めよう」
本当であれば魔法陣に詳しいメリルが手に入ればさらにことはうまく進んだであろうが、こうなった以上は仕方がない。
きっと上手くいく。
そしてこの国は古代魔法信者達のものになるのだ。
ロドリゴは仮面の下でにやりと笑った。
今日の正午こそ、偽りの王国最後の時だ。
ふふふ(●´ω`●)






