20話
私とオスカー様はその後調査のために、急ぎ王城へと戻ることにした。はっきり言えば、二人でのお出かけがこのような形で終わってしまったことは残念だった。
もうこんな機会は二度とないだろう。
だけれども、今は目の前の事件解決が先である。他の魔法陣も確認しなければならない。
今回は少人数精鋭ということで私の他に5名の騎士が同行して現場へと向かうことになった。また緊急用の魔道具も持参する形となり、私達は緊張しながら魔法陣を確認しに向かったのであった。
魔法陣自体はおそらく一つ目と同じ作用の物であり、魔法陣の確認自体は問題もなく比較的簡単に終えることが出来た。
ただし、他の二つの魔法陣に描かれた文字を読んだ時、私は顔を強張らざるを得なかった。
「オスカー様、神殿の文字と照らし合わせてみたところ、文面が出来上がりました」
「聞かせてくれ」
「一つ目が、神の名の元に、古代魔法が蘇る時が来た。二つ目が、この国の王は偽りなり。始まりの日が偽りの日。三つ目は、正す時が来る。王国は終わり古代魔法こそが神の意思だと皆が気づくだろう」
私はそれを書き出した神を机の上へと置くと、口元に手を当てて考える。
オスカー様はゆっくりと息を吐くと言った。
「犯行予告だな……しかも正す時が来るというのは、二つの目の言葉から言って、始まりの日、つまり建国記念日か」
「その可能性は……高そうですね。ですが、古代魔法こそが神の意思だと気づくとは……どういうことなのでしょうか」
「うむ。とにかく、一度これを上層部へと持ち帰り精査することにしよう。その旨を一度君の上司にも伝えに行こう。君の上司には確認を取っておいた方がいいだろうから」
その言葉からそこはかとなく、オスカー様がロドリゴ様に対してあまり交換を抱いていない雰囲気が伝わってきた。
私はロドリゴ様に一言いいに行くことはありがたいなと思った。後から言えば、どうして先に話をしないのだと怒られるだろう。
報告、連絡、相談は大事だけれど、ロドリゴ様はそれ以上に自分の知らないところで仕事が進んでいくというのが気にくわない気質がある。
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります」
私とロドリゴ様はその後、私の仕事場へと一緒に移動したのだけれど、部屋に入った瞬間に私はロドリゴ様の機嫌が悪いことに気が付いた。
こういう日は何を言っても怒られる。
私はオスカー様に一度騎士団に帰ってもらい、後ほど合流をしようと話しかけようとしたのだけれど、ロドリゴ様がこちらに気が付き、眉間にしわを寄せると立ち上がった。
「また、二人で、仕事か」
こちらを睨みつけてくる視線は冷やかであり、唇を尖らせるとロドリゴ様が声を荒げた。
「こちらにも仕事というものがあるのだがな。言っておくが、メリル嬢がこちらの仕事をおろそかにしているが故に他の物にしわ寄せがきているのだぞ!」
その言葉に、私はタイミングが悪かったなと思いながらも自分の意見を述べた。
「お疲れ様です。部屋を離席するこおが多いのは申し訳ないのですが、私自身割り振られた仕事は終わらせています……その、部屋にいないことで、ご迷惑がかかっているのは分かりますが」
次の瞬間、ロドリゴ様が机をバンっと勢いよく叩き、私は身をすくめた。
「す、すみません」
反射的に謝ってしまった私は、唇をぐっと噛む。
何故自分は謝ってしまったのか。悪いことはしていない。しっかりと仕事も終わらせている。それなのにどうしてこう威圧されないといけないのか。
オスカー様の前でみじめな姿をさらすのが嫌だった。
ロドリゴ様はふっと笑みを浮かべると言った。
「オスカー殿、あまり部下を調子に乗らせないでいただきたい。はぁぁ。勘違いされてもいいのですかなぁ? 貴方だって、こんな芋臭い女に好かれるのはごめんでしょう! あははは! 身の程を知らぬ女が、付け上がりますよ」
顔に熱が集まる。
勘違いなんてしていない。私がオスカー様に相応しいような人間でないことは十分承知している。
なのに、なのにどうしてこんなことを言われないといけないのか。
悔しくて恥ずかしくて、私はどうしたらいいのか分からずにいると、オスカー様がはっきりとした口調で言った。
「失礼だが、メリル嬢は仕事を終わらせていると言った。それに対して何故威圧し、その後彼女のことを嘲るような言葉を使うのか」
「は? いや、忠告をしているだけだろう。何を怒っているのか。あはは。冗談だよ冗談」
私がそのように言えばいつも威圧的に抑え込んでくるのに、相手が男性だとこうも違うのか。
男に生まれたかった。そしたら、もっと違ったのだろうか。
「冗談」
「あぁ。冗談だよ。まぁ、こんな女に好かれてしまった貴方には同情しますがね」
恥ずかしくて私はうつむいてしまうが、そんな私の肩をオスカー様はぐっと抱き寄せると、笑顔で言った。
「ロドリゴ殿には彼女の魅力が分からなかったようだな」
「は?」
私は引き寄せられて驚き、心臓がどきどきと高鳴る。
一体何が起こっているのか分からずにいると、オスカー様が言った。
「まぁ、彼女の魅力に気づいてくれない方がありがたい。今、私は彼女に猛烈にアタックしているところなのだが、なかなか振り向いてもらえなくてね」
「え? あ? は? お、オスカー殿が?」
「あぁ。このように真面目で、可愛らしくて、それでいて仕事に一生懸命な女性、惹かれないわけがないだろう」
「は? はぁぁぁぁ? な、なにを! ふ、ふざけないでくれ! うちのメリル嬢はやらんぞ!」
突然のロドリゴ様の発言に、一体何を言い始めたのだろうかと思っていると、オスカー様は楽しそうに言った。
「あぁ。やはりロドリゴ殿、そういうことか。だが残念」
オスカー様は楽しそうに言葉を続ける。
「譲る気はないんだ」
私は身を固くしていると、部屋にいた数人の同僚達が目を丸くして固まっている。
「わぁ……ロドリゴ殿、フラれたな」
「あれだけ毎日酷いこと言ってたらそりゃ、そもそも嫌われているだろう」
「だが、オスカー殿を射止めるとは、メリル嬢すごいな」
そんな声がひそひそと聞こえてくる。ロドリゴ様は顔を真っ赤にすると声をあげた。
「お前ら聞こえているぞ! 黙れ! そ、それにふ、ふられていない!」
「まあとにかく、今日は報告まで。では緊急の事件があるので、失礼する」
「あ! ちょっと待て!」
ロドリゴ様がそう声をかけるけれど、私の背中をオスカー様は押し、部屋の外へと誘導していく。
私は良いのだろうかと思いながら、部屋の外に出るとオスカー様を見上げた。
「すみません。気を遣わせてしまって、あのような嘘までつかせてしまって」
オスカー様を困らせたいわけではないのに。
私がしょぼんとすると、オスカー様は頬を軽く掻くと小さな声で呟く。
「いや、嘘ではないんだが、だが……このタイミングだとなんだか格好もつかないな……」
「え?」
「あ、いや、これについてはまた話を改めてさせてほしい」
「え? あ、はい」
「あと一点、実は気になっていることがあって調査を進めている物があるのだ。故に、ロドリゴ殿との話しは一旦切らせてもらった」
「そうなのですか?」
「あぁ。これからしばらく、メリル嬢には職場に行かずに朝直接騎士団に来てほしい。ロドリゴ殿にはこちらから連絡をしておく」
「え? ですが、仕事もありますし」
「あぁそうなのだが、それについては私から話しをつけておく」
大丈夫だろうかと思いながらも、私はうなずいたのであった。
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