13話
深夜二時頃、いつの間にか私はもふちゃんを抱きしめたまま眠っていたらしく魔法具の音で目を覚ました。
この魔法具は職場からの呼び出し用であり、最初は緊急用だと言って渡されたのだけれど今では、急ぎの仕事や欠勤などで人手が足りない時によくなる。
まさか深夜に呼び出しかと、私はがっかりとしながら起き上がると、もふちゃんもハッとした様子で飛び起きて、辺りを見回してから、私を見上げた。
「もふちゃん、ごめんね。職場から緊急の呼び出しだから行ってくるね」
「みゃ? みゃみゃみゃみゃんみゃ?」
驚いた様子のもふちゃんは私の足元をとてとてと歩き回るけれど、私は支度を済ませると外に出ようとしたのだけれど、玄関にもふちゃんが鎮座する。
「もーふちゃん。行ってほしくないの?」
「みゃみゃみゃみゃぐるにゃ」
「え? 何それ。すごく可愛い」
私はどうしようかなと思って、思いつくと、大きめのバックを持ってきてそれを広げた。
「もふちゃんも一緒に行く? こっそり」
「みゃ……みゃん」
何とも言えない表情を浮かべた後、もふちゃんはバックの中にすっぽりと入りこみ、私はそれを抱えると職場へと向かって歩き出した。
もふちゃんを膝の上に仕事ができると想像すると、すごく楽しみだ。
部屋には明かりがついており、そこにはロドリゴ様の姿があった。どうやらロドリゴ様もたたき起こされたようで、大きなあくびをしながら、私の机の上に資料を乗せた。
「なんでも、緊急らしい」
「そうなのですか……」
「あぁ。今日使った魔法陣だが、王城にも資料として提出しろと言われている。報告書と一緒に魔法陣を添付して作成しろ」
「え……今ですか?」
「あぁ。早急にということだ」
「……わかりました」
明らかにロドリゴ様よりも私の机の上に乗っている仕事の方が多い気がする。その上自分は報告書もか。
まぁ仕方がないかと、私はもふちゃんの入っているカバンを膝の上に乗せて、仕事を始めた。
カバンの口をあけているので下を見ればもふちゃんを見れる幸せ。もふちゃんは眉間にしわを寄せている。
渡された分の仕事これは魔法陣射影師の仕事ではないなと思いながら、報告書を仕上げて、魔法陣を最終添付し、完成させるとロドリゴ様の所へと持っていった。
「出来ました」
「あぁ。ご苦労だったな。他の仕事も緊急性が高いらしくてな、俺の仕上げたこれを魔法使い殿に回してくる。お前も終わり次第他の部署へとまわしていけ。お前は日中さぼったんだからこのくらいやらないとな」
「え? 魔法使い様……もしかして王国筆頭魔法使いのアルデヒド様にですか?」
「あぁ、早急に持ってきてくれと頼まれているんだ」
まさかロドリゴ様が筆頭魔法使いであるアルデヒド様と関わることがあるなんてと内心驚いてしまう。
そしてもう一点驚いたのはロドリゴ様は荷物をまとめると部屋を出て行ったのである。
私は呆然としながら、小さくため息をついた。
緊急性が高い仕事なのは仕方がないのだろう。ただし、ロドリゴ様は緊急性が高い仕事をアルデヒド様へと回したら家に帰るのだろう。
私は魔法陣射影師として騎士団に協力したつもりなのだけれど、ロドリゴ様にとってはさぼりになるらしい。
もふちゃんは飛び出ると、怒ったようにがるるるるとうなり声をあげた。
「どうしたのもふちゃん?」
「がるるる!」
「怒っているの?」
「みゃんみゃ、みゃみゃーみゃ!」
「え、袋に入ってたの嫌だった? 怒っている姿も可愛い。ごめんね」
「みゃ……みゃあぁ」
私は何を言っているのかは分からないけれど、もふちゃんが私のことを心配してくれているのは伝わってきた。
なんだか、すごく心が癒される。けれど、きっともふちゃんには飼い主がいるのだろうな。朝になったら、ちゃんと飼い主さんを探さなきゃなぁと考える。
「ちゃんと飼い主さんの所に返してあげるからね」
「……みゃ」
私はそれから手際よく仕事を済ませていく。すっきりして、すでに四時間くらいは眠っているのでいつもより仕事の進みが早い。
やはり睡眠不足だと仕事の効率が悪くなるなと感じながら、出来ることならば毎日九時間眠りたいな、なんてことを考える。
仕事が一段落したところで私は大きく背伸びをすると、それをもって他の部署へと届けなければと立ち上がった。
「もふちゃん、かばんに入ってくれる?」
そう呼びかけると、もふちゃんは少し迷ったようなそぶりを見せたのちに、小さくため息をついてからカバンの中へと入った。
なんだか本当によく言葉を理解している気がする。
私はカバンを肩にかけ、書類を手に持って各部署へと届けに向かう。
各部署夜勤の者達が仕事を片付けて言っており、私は部署ごとに必要な書類を手渡していく。
中継ぎの仕事がどれだけ早く仕事を次へと回すかによって、他の部署との関係性にも影響をしてくるので、仕事は早く終わらせたら次の部署へと回す方がいい。
私は各部署に渡し終えると、欠伸をかみ殺して自室へと帰った。
後に三時間は眠れそうだ。私は時計を見て押す判断すると、倒れるようにベッドへと寝ころんだ。
「あぁー……疲れた」
「みゃ~」
私を気遣うような視線に、私はもふちゃんをぎゅっとベッドの上で抱きしめる。
「もふちゃんが私の家族になってくれたらいいのに」
その言葉に、もふちゃんの体が強張った。嫌だったかなぁと思いながら、もふちゃんの頭を撫でる。
「おやすみ。もふちゃん」
「なぉーん」
私はもふちゃんとずっと一緒にいたいなと思いながら、夢の世界へと落ちて行ったのであった。
メリルが眠った後、人間へと姿が戻ったオスカーは、メリルの寝顔を見つめながら小さく息をつくと立ち上がった。
この間同様に部屋をさっと出て魔法具で鍵を閉めると、自室へと向かって歩き出す。
部屋へと帰りついたオスカーは念のために兄に無事に部屋に帰りついたことを伝えるように侍従へと伝えた。
心配しているといけないと思ったのだけれど、すでに自分がメリルのところにいるのを把握していたとの返信がきて何とも言えない気持ちになる。
オスカーは、大きくため息をつくと、ソファに座り、天井を見つめた。
まだ出会ったばかりだというのに、メリルの様々な一面を知り、そして話を聞き、もっと知りたいと思う自分がいた。
メリルと一緒にいて心地が良く、とても楽しかったのだ。
だけれどそれと同時に、偽りの姿でメリルの話を聞いてしまったという罪悪感があった。
自分が獣の姿でなければ、きっとこのような話はしなかっただろう。
そう考えた時、自分の中で、獣の自分にではなく人間の姿のオスカーに打ち明けてほしいと思っている自分がいることに、オスカーは気づく。
「なんで……」
不思議な感情であった。
自分の胸に手を当てながら、オスカーは戸惑い、ふと気づく。
「俺はまさか、獣の自分に、やきもちを焼いているのか!?」
そう分かった瞬間、感情が爆発するような感覚を覚えた。
ボフン。
「え?」
オスカーは嫌な予感がして鏡の前へと急いで向かうと自分の姿を見て驚愕した。
「嘘だろう……なんだよこれ……」
ふわふわの白い耳としっぽが生えている、人間姿の自分がいた。
そんな自分の姿に、一歩後ろへと後ずさった瞬間、それは一瞬で消え失せる。
「え……夢、じゃ、ないな……」
オスカーは、自分に起こった変化に対して戸惑いながら、大きくため息をつきながらベッドへと突っ伏すとうなり声をあげたのであった。
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