11話
お腹いっぱいになった私は、片づけは自分がするのでと言って、洗い物をオスカー様がいる間に終わらせてしまう。
オスカー様が帰った後だと、やらない気がしたので、早急に終わらせた。
外はすっかり暗くなり、静かな時間が過ぎていく。
そしてオスカー様に紅茶を出し、私達はのんびりと温かな紅茶を飲む。
実家からもらった紅茶があって良かったと、内心ほっとしたのはここだけの話である。
なんだか一気に家族みたいな雰囲気になったなぁと私は思った。そして家族という言葉に、私は小さくため息を漏らしそうになる。
私は家族とはあまりうまくいっていないので、家族みたいな雰囲気とは? と、自嘲気味に笑ってしまう。
それと同時に、この時間に男性が部屋にいても、オスカー様だとドキドキは確かにするけれど、もはや自分は恋愛対象外なのは当たり前すぎて、それが逆に安心する。
私達は、なんだかその後もなんだかんだと楽しく会話を続けていた。
そして会話は広がり、今日の事件のことについても私とオスカー様は推察を始めたのである。
「あの、魔法陣はロストマジックを応用したものでした。」
「ロストマジック……だが、何故発動した? 魔力を誰かが流したわけでもないぞ」
「はい。それにあの魔法陣は明らかに失敗作です。間違っているであろうか書がありましたから。ですが、それでも発動した」
「何故? 魔力を流さずに、発動する方法があるというのか?」
私は丸眼鏡をかちゃかちゃといじりながら、少し考える。それから魔法陣射影綴りを取り出すと、今日取った転写した魔法陣を見つめる。
ロストマジックの魔法陣であることは確か。
そしてこれが間違っていることも。
だけれど魔力を通すことなく発動したことも確かだ。
「この魔法陣、もしかしたらロストマジックの魔法陣を作ろうとして失敗したものなのかもしれません。失敗からの産物。つまり、失敗作だけれど、爆発するという作用があるのかもしれません。実験をしてみなければ確証は得られませんが、何かの発動条件を満たせば爆破する魔法陣なのかもしれません」
「それは、厄介だな」
「はい。本当に厄介です。普通の魔法陣であれば、魔力がなければ発動しませんから」
「魔力を有する人間も少ないからな。まぁ、私は多少有しているが」
「そうなのですか?」
「あぁ。王家の血筋は案外多いのだ。兄上も魔力を有している」
「そうなのですね」
そう答えながら、流れで自分にどうして魔力があるのか聞かれるのかなと、身構えていた。
だけれども、オスカー様が何故かそわそわとし始めて私は、聞きづらいのだろうかと思っていると、オスカー様が言った。
「えっと、す、すまない。そろそろ、その、帰ろうと思う」
「え?」
突然のことに私は少し驚くけれど、確かにもう夜の時間であり、オスカー様も忙しい人だから帰らなければならないだろうとうなずく。
「引き留めてしまってすみません。あの、サンドイッチすごくおいしかったです。それに片付けも、ありがとうございました」
「あ、いや、いいんだ。俺も……う……」
「オスカー様!?」
うめき声をあげたオスカー様は胸を押さえながらその場に膝をついた。
私は駆けよると、オスカー様はかなり冷や汗をかいている。
「オスカー様、とりあえず横になりましょう。医者を呼びます!」
「あ……いや……原因はわかっているから、だい……じょうぶだ」
そうはいってもかなり苦しそうである。絶対に横になった方がいい。
私はオスカー様に言った。
「お願いです。ベッドに横になってください。すぐにお医者様を呼びますから」
「だい、じょうぶだ」
オスカー様は立ち上がるとふらふらとした足取りで外へと出ようとする。
私は絶対に倒れてしまうと思い、泣きそうになりながらお願いする。
「お願いです! 寝てください!」
「す、すまない……急用があるのだ」
「で、ですが」
オスカー様は苦しげな表情でげんかんの扉の方へと向かっていってしまう。せめて私は部屋まで送り届けようと思った。
「わかりました! ではついて行きます」
「だいじょうぶだ、すまない」
オスカー様は扉を出てしまい、私はどうしたらいいだろうかと、慌てて家の鍵を探す。玄関を閉めて行こうと思ったのだけれど、見当たらず、カバンの中を全部ひっくり返してやっと出てきた。
私はそれをもって外へと出た。
「オスカー様!? ……あれ? え? もう、いない」
すでにそこにオスカー様の姿はなく、薄暗い廊下が続いている。
シンと静まり返った渡り廊下からは、人の気配はしない。
「早い……もしかして庭を突っ切っていったのかしら」
そう思い、庭の方へと視線を向けると、茂みが微かに揺れたのに気が付いた。
「え?」
そこから白銀色の美しいしっぽがゆらゆらと揺れているのが見えて、私は驚きながらも草むらの中を覗き込むと、そこには、夢で出会ったもふちゃんがいた。
「え? も、もふちゃん?」
「んなぁ」
また出会えるなんて思ってもみなかった。
私はもふちゃんを抱き上げるとぎゅっと抱きしめた。
「あったかい。もふちゃんだぁ。夢じゃなかったんだぁ。嬉しい。おっと、今はそれどころじゃなかった」
私はもふちゃんを部屋の中にいれると言った。
「オスカー様のことを確認してくるから、少し待っていてね」
「なぉ! にゃ! なぉーーん!」
「え? どうしたの? あぁ。寂しいのね。ごめんね、すぐ、すぐ帰ってくるから!」
私はそう告げて、部屋に鍵をかけると急いで廊下を走っていく。
この時間になると人とすれ違うことはほとんどない。
私は王家専用の居住区の入り口に立つ門番へと声をかけた。
「すみません。本日第二王子殿下と共にお仕事をさせていただいておりました、メリル・メイフィールドと申します。第二王子殿下はもう帰って来られたでしょうか」
無事に帰ってきていてくれればいいけれどと思ったのだけれど、門番は首を横に振った。
「いや、まだ帰ってきていない」
「え? わ、かりました。ありがとうございます!」
私はもしや騎士団の方へと向かったのだろうかと思い、そちらに向かおうとしたのだけれど、足を止めた。
オスカー様があれだけ急いで、冷や汗をかきながらも帰ったのだから、もしかしたら私には知られたくない事情があるのかもしれない。
私は心の中で、病気ではありませんようにと願う。
結局私は確認の取れないまま、とぼとぼとした足取りで部屋へと帰った。
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