10話
その後オスカー様は今日はもう家でゆっくり休み明日今日のことを詳しく教えてほしいと言われた。
私はうなずき、歩き出すとオスカー様に部屋まで送っていくと言われ、遠慮しようかと思ったのだけれど、もう少しだけオスカー様と話がしたくてお願いをした。
オスカー様と一緒に歩きながら、話しがしたいと思ったけれど何を話せばいいのだろうかと私が思っていると、オスカー様が口を開いた。
「言いにくかったらいいのだが……これまでもあぁした男はいたのだろうか」
ディック様のことを言っているのだなと思いながら、私は少し考えてから答えた。
「……私はメイフィールド公爵家の一応令嬢なので、家を継ぐことの出来ていない次男の方や三男の方はお金が目当てで、また長男でも男爵家や子爵家の方々としてみれば、公爵家との繋がりが欲しいようでして、そうした方々から声をかけられることはあります」
私がモテているわけではない。
メイフィールド公爵家という肩書に引き寄せられて声をかけられる。
「そうなのか……」
「はい。職場に嫌がらせをされることもありました。ですが、ロドリゴ様がそういうところは助けてくれるんです」
「ほう。なんだ、意外だな」
「ふふふ。はい」
女性とは結婚こそが幸せ。そう言われて何度も何度も働いている職場に嫌がらせをされることもあった。
ただそうした職場の嫌がらせに関しては、ロドリゴ様が持ち前の嫌味で退治してくれることもあり、そうしたところだけはロドリゴ様に感謝していた。
高圧的で不当な仕事を押し付けられることに関しては嫌だけれど、彼は私が働くこと事態を反対しているわけではないので、その点はとてもありがたい存在だった。
「……そうなのか。まぁ、君ほど魅力的な女性ならば、うむ、声を掛けたくなるのも仕方がないか」
「へ?」
私は言われた言葉の意味が分からずに、オスカー様を見上げると、オスカー様はどうしたとでも言いたげに首をかしげる。
この人は、こんな私にも気遣ってこんなことを言ってくれるのか。
これは、女性を勘違いさせてしまうのではないかと私は親切心から言葉を返した。
「オスカー様。あの私のような女にまでそのように気を使うべきではないです。そんな風に女性を褒めては、勘違いをされて、いつか後ろから女性に刺されますよ」
真面目な顔でそう伝えると、オスカー様はきょとんとしてそれから笑い声をあげた。
「ははははっ。後ろから……っふ。俺を後ろから刺せる女性とはかなり鍛え上げられた者だろうなぁ。まぁそれは置いて置いて、私のようなとは? 君は十分魅力的な女性だが」
真っすぐに言われ、私は固まってしまう。
この人は、もしや本気で私をそのような女性だと勘違いしているのであろうか。
もしや、目が悪い?
「あの、視力は大丈夫でしょうか」
「悪いが、目はかなりいい。っふふ。なんだ君は面白いな」
「いえ、そのようなことは……」
「ふむ。だが不思議だな。私から見れば自分の力で王城で働き、しかも唯一の魔法陣射影師として採用されているのだから優秀なのだろう。それに……その、君の瞳も、おさげの髪型も……私は、か、可愛らしいと思うのだが」
「へ? はえ!?」
驚きのあまり変な声が出てしまう。
私の目が、このぼさぼさのおさげが、可愛い?
そう思った時、丁度私の部屋へと着き、私は慌てて言った。
「ああああえっと、その、ありがとうございました! ででで、では、失礼します!」
「え? あぁ」
「では!」
そう言って部屋へと駆け込みドアをバタンと閉める。
心臓がバクバクと鳴って、もう意味が分からないと思いながら部屋の中に駆け込んだ瞬間に床に散らばっていた物に足を引っかけて思いっきり転んだ。
それと同時に、山積みにしていた荷物が雪崩を起こし、私は押しつぶされた。
「わあぁっ! きゃ……ぐへぇ……」
最後の方はカエルが確実につぶれたような声であった。
「め、メリル嬢!? 大丈夫か!? 中に入るぞ!」
現在大量の荷物に押しつぶされている状況であり、私は身動きすら取れない。
こんなことになるなら片づけておくべきであった。
もふちゃんの夢を見て、寝室の方へと全て追いやった荷物を、積み重ねてこちらの部屋に戻したのが悪かった。
しかし、私はハッとする。
この部屋に、オスカー様が入る!? いやいやいや。無理だろう。
第二王子をこんな腐海に入れていいわけがない。
「だ、だめっ!」
「メリル嬢大丈夫か!?」
オスカー様は部屋に入るなり、荷物に押しつぶされている私を見て驚きの声をあげると、慌てた様子で私のことを荷物の中から助け出してくれた。
恥ずかしい。
もういなくなってしまいたい。
私がうめき声をあげていると、オスカー様は私に怪我がないことを確かめるとさわやかな笑顔で言った。
「無事でよかった」
消えてしまいたい。
私はもうどうにでもなれという思いでいると、オスカー様は部屋を見回してから立ち上がると言った。
「片づけを手伝おう。これでは、やすめないだろう」
「え?」
「よし。ではメリル嬢は、私に見られたくない者は袋に入れて向こうの部屋へ持って行ってくれ。私は適当に掃除を始めてもいいか?」
「えっと……はい」
有無を言わさないその言葉に、私はうなずく。
突然始まった大掃除に、私は内心どうしてこんなことになったのだろうかと思いながら、手を動かし始めたのである。
私の動きと比べてオスカー様の掃除の手に迷いはなく、どんどんと片づけを進めて行く。
自分の部屋を男性に片づけられるということに衝撃を受けながらもどんどんと部屋が片付いていく。
あっという間に部屋は綺麗に片付き、オスカー様はごみを、王城内にあるごみ集積場まで運んでくれた。
私は綺麗になった部屋に驚いていると、ごみを捨てに行ったオスカー様は、袋に食材を入れて帰ってきた。
「え? え? あの、どうしたのです?」
「ちょうど夕食のころだろうと思って、王城の調理場から材料をもらってきた。とはいっても簡単な物しか出来ないが」
「え?」
私は一瞬で青ざめる。
優秀な材料があっても、私は料理は出来ない。
どうしようかと思っていると、オスカー様は荷物を綺麗になった机の上に置いて言った。
「サンドイッチでも作ろうか。キッチンを借りてもいいか?」
「へ? あ、はい」
「良い肉ももらってきたんだ」
そういって机の上に出されたお肉を見て、私は目を輝かせた。
「わぁぁぁ」
「豪勢に行こうか。メリル嬢は座っていてくれ。今日は私が君に作らせてくれ」
「いいんですか? 嬉しいです!」
「あぁ。世話になったお礼もしたかったんだ。今日は丁度良かった」
「世話? そんなことないと思いますが」
「あ、これは先ほど地下で助けられた礼ではないぞ。命を助けてもらったのだ。その礼はまた改めてする」
「え?」
オスカー様はそう言うと腕まくりをすると手際よくパンを切り、それにバターを塗って用意すると、野菜を切りパンに乗せ、肉を焼き味付けをするとそれを挟み、サンドイッチを完成させていく。
その他にもゆで卵のサンドイッチやハムのサンドなども作っていく。
私も手伝いたかったけれど、むしろ邪魔してしまう気がして、飲み物を用意すると大人しく待った。
いい香りがした。
ふと窓の方へと視線を向けると、太陽が沈み、薄闇の中、雲が流れていくのが見えて、私はほっと息をつく。
なんだか久しぶりにゆっくりしている。あんな事件があったことが嘘のようだ。
「さぁ、出来た。食べようか」
「わぁぁぁ。美味しそうです!」
私達は椅子に座り、サンドイッチを手に取りかぶりついた。
オスカー様も私も、選んだのはまず肉厚なサンドイッチである。
肉汁がしたたり落ちて多少行儀は悪いけれど、美味しくてたまらない。
「おいひいでふぅ~」
「あぁ。うまい」
お肉最高である。こんなに良いお肉はなかなか食べることが出来ない。
それをサンドイッチで、かぶりつくことが出来るなんて、なんという幸福だろうか。
「ひあわへですぅぅぅ」
ほっぺたが落ちそうである。口の中にたくさん頬張って食べることが出来て幸せだ。
メイフィールド家にいた頃には豪華な料理を食べたこともあったけれど、それらはいつも味がしなかった。
けれど、オスカー様と一緒に食べていると、お腹も心もなんだか幸せになってくる。
満たされると言うのはこういうことなのだろうか。
私とオスカー様は静かな部屋で、お互いに美味しいねと笑い合ってサンドイッチを食べた。
とても美味しくて、幸せで、こんな幸福いつぶりだろうか。
そう私は思いながら、お腹いっぱいになるまでサンドイッチを食べたのであった。
いつも読んでくださりありがとうございます!(*´▽`*)
蛍のシーズン、いつも気がつくと終わっているんですよね。蛍見に行きたいなぁと思いながら、今年も逃しそうです。






