【平凡な神・爆誕】
気がついたらここにいた。
一面真っ白な世界。
足が地に着いているのか、浮いているのか。
上下左右さえ、私にはわからない。
そして急に思い出した。
あれ…?
私、死んだんじゃなかったっけ?
その後、誰かと話した気がする…。
集中して記憶を辿る。
すると、鮮明に記憶が蘇った。
私は日下部麻美。
地球の日本という国の平凡な高校生だった。
家族は両親、兄、姉と私の5人家族。
末っ子の私はみんなに可愛がられ、ぬくぬくと育った。
趣味はゲーム。
普通のゲームではなく、所謂「乙女ゲーム」という類のものだ。
高校の友人に勧められるがままにプレーしてみたところ、ものすごい勢いでハマっていった。
「思い立ったら即行動」が私のモットーだ。
口コミやレビューを参考に、手当たり次第プレーした。
中でもお気に入りの作品が2つあり、何度もプレーしたことを昨日のことのように覚えている。
ある夏の日、私は学校から自宅へ帰った後、お気に入りのゲームをプレーしていた。
昨日、気になるところで寝落ちしてしまった為、帰ったらすぐにやろうと決めていたのだ。
夢中になっていたため、水分もとらず、クーラーも付けなかった為、熱中症になり、あっけなく死んでしまったのだ。
なんて間抜けな死に方だろう。
だが、その後の記憶もある。
死んだはずの私に意識があるのもおかしな話だが、死後すぐにこの真っ白な世界にいた。
何もない世界。
気がつくと目の前に美女が立っていた。
とても神聖な空気をまとっており、これ以上は近寄ってはダメだと本能が叫ぶ。
そんな私に、美女が微笑む。
「いらっしゃい可愛いお嬢さん。私はミラージュ。一応神と呼ばれる部類の存在よ。」
しなやかな金色の長い髪、同じ色の瞳、メリハリのあるボディ。
私が神として想像していた神がそこにいた。
「いきなりでごめんなさいね。訳がわからないと思うから順番に話すわね。」とミラージュは話を切り出した。
「あなたは地球の日本という国で亡くなったわ。そのタイミングでちょうど私が後継者を探していて、あなたをここに召喚したのよ。」
「…」
順番に話すと言った割に情報量が少なすぎる。
私はとにかく気になることを問いかける。
「えーと…ミラージュ様。私が死んだことは理解してます。だけどミラージュ様の後継者として召喚されたことについては理解に苦しみます。私は平凡な高校生で、ミラージュ様のような神様にはなれません。」
するとミラージュはニコニコしながら、「そんなことないわ。あなたの心は綺麗だもの。しかもあなた、乙女ゲームをこよなく愛しているわよね?」と言った。
「…ミラージュ様は乙女ゲームをご存知なのですか?」と私は驚愕した。
「えぇ、知ってるわ。私も大好きなの。大好きなあまり、乙女ゲームの世界を作ってしまったのよ!!」
ミラージュ様は得意げにとんでもないことを言った。
「…乙女ゲームの世界を作る?そんなことができるのですか?」と問うと「まぁね〜神だから!」と威張っている。
更に混乱を極める私にミラージュ様は「作ったのはいいけど、私、地球の管理に集中することになってね…温暖化に始まり、森林破壊、海上汚染、内紛や戦争。私は地球の管理で手一杯なのよ。だからあなたに引き継ぎたいのよ。麻美ちゃんお願い!乙女ゲームの方の世界を担当して欲しいの!!」
乙女ゲームの世界を担当する神?
私が?
「確かに私は乙女ゲームを愛しています。死んでしまった後も乙女ゲームに携わることができるのは嬉しい限りなのですが、具体的にはどのようなことをするのでしょうか?」と問うとミラージュは悪戯っぽく笑う。
「乙女ゲームって大抵バッドエンドはあるわよね?それを回避しながら、ハッピーエンドに導いて欲しいのよ。攻略対象は誰でもいいわ。」
更にミラージュ様は仕事を丁寧に指示してくれた。
まず、前提としてストーリー的にハッピーエンドへ導くこと。しかし、ただのハッピーエンドではない。
登場人物全員が幸せになるように神の力を使って全力で導くこと。
ミラージュ様が作ったのは2つの乙女ゲームの世界。
その2つの世界を導くのだが、神は相互間のキャラクター移動ができる。
更に、登場人物に直接語りかけることができるという。
そして一番驚いたのは、神自身も登場人物として乙女ゲームに入り、登場人物の後押しができるということだ。
ミラージュ様がある程度説明を終え、「ここまでで何か質問はある?」と私に微笑みかける。
私は「あの…ミラージュ様は乙女ゲームの世界を作ったとおっしゃいましたが、どのタイトルなのでしょうか?」と恐る恐る聞いた。
するとミラージュ様は「よくぞ聞いてくれました♡」と言わんばかりの笑顔で「一つ目は【マジカル☆スクール】、二つ目は【終焉の姫君】よ!!」と自信満々に言った。
その2つの作品は生前、私がお気に入りのタイトルだった。
「本当ですか?!登場人物に会えるのですね?!スチルを見ることは可能でしょうか?!」と鼻息荒く聞くと、ミラージュ様はくすくす笑いながら「あなたは本当にその作品が好きなのね。あなたのような作品に愛をもってくれる子が召喚できて本当に嬉しいわ!」とミラージュ様は笑った。
「スチルは見れるわ。でも一つだけ約束して欲しいことがあるの。」と打って変わって困ったような顔になる。
「なんでしょうか?」急に様子が変わったミラージュ様を見て、私にも緊張が走る。
「あなたは登場人物として作品に入れるわ。攻略対象や主人公、悪役令嬢の行動を導くことはできる。でも作品中の攻略対象との恋はご法度。絶対ダメよ。あなたはあくまでも神の立場。それだけは気をつけて。」と真剣に忠告する。
…。
私が攻略対象と恋?
「ミラージュ様。それは無駄な心配です。私のような平凡な女、攻略対象の見目麗しい方々が相手をするとお思いですか?絶対大丈夫です!それよりもスチル回収することが大事です!!」と意気揚々と言い切った。
「だといいんだけど…。さて、私は地球の管理に戻るわ。あなたは亡くなったばかりでまだ体力が足りない。少し眠りなさい。最初は慣れないと思うから、助手をつけるわね。名前はルビーよ。起きたらその名を呼んで。じゃあね。」とミラージュ様は軽く手を振ると消えてしまった。
私はその後、意識を失うように眠ってしまった。
ということだった。
なかなか現実味がないけど、とりあえず助手を呼んで説明を聞こう。
「…ルビー?」
名前を呼ぶと目の前にわたあめのようにフワフワした毛玉が現れた。
よく見ると毛玉の真ん中に顔があり、ハリネズミのような顔をしている。
ハリがフワフワになったハリネズミだ。
少しおかしくなってクスクス笑っていると、「あなたが麻美様ですか?私はルビー。あなたのお手伝いをしてほしいとミラージュ様に仰せ仕りました。お仕事の補助やミラージュ様との連絡係を務めさせていただきます。以後お見知り置きを。」と、とんでもなく丁寧に挨拶された。
先程笑ってしまったのが恥ずかしい。
「私は日下部麻美です。これからよろしくお願いしますね。あと、一緒に仕事をするんだから敬語や敬称はなしにしない?私もルビーと呼ぶからあなたも麻美って呼んで。」というと、はじめは「とんでもない!神様を相手にそのようなことはできません!」と反対していたが、私がしょんぼりしたのを見ると「うー…わかりまし…わかったわ。これからよろしくね。麻美。」と折れてくれたのだった。
助手もいい子そうだし、死んだ後でも乙女ゲームに携われることが嬉しかった。
さぁ、どんな世界に導こうか。
ということで、平凡な神が今、誕生したのである。